ウクライナやイスラエルを巡る国際情勢が緊迫する中で、米中国首脳会談がAPECにあわせて1年ぶりに米国サンフランシスコで開かれた。
覇権争いを続ける二大大国の関係改善がどこまで進むのかに世界の注目が集まったが、偶発的な衝突を避けるために軍同士の対話を再開させて対立のエスカレートを避けることで合意しつつ、台湾問題や経済問題では双方が原則論を主張し、大きな進展はみられなかった。
しかもバイデン大統領が会談後の記者会見で、記者団から「かつて習近平国家主席を『独裁者』と呼んだが、その考えに変わりはないか」と問われ、再び「独裁者」と呼ぶ一幕があり、融和ムードに水をさした。
バイデン大統領は来年の大統領選でライバルのトランプ氏に支持率でリードを許している。長引くウクライナ戦争への支援やガザ地区を攻撃するイスラエルに肩入れする外交姿勢に米国内で批判が高まっているため、中国の協力を得て国際情勢を安定化させ、支持率回復につなげる狙いがある。
他方、中国へ弱腰姿勢をみせるとトランプにつけ込まれかねない。相矛盾したバイデン氏の立場がにじみ出る米中首脳会談だったといえるだろう。
同じサンフランシスコで、米中首脳会談と同じように、1年ぶりに日中首脳会談が開かれた。
なぜ1年ぶりかというと、日本外交は米国追従であり、米中関係改善を差し置いて、日中関係改善を前に進める意思も覚悟もないからだ。
米国が中国と関係改善に動き出したのにあわせて、日本も動き出したと考えればわかりやすい。「バイデンが習近平と会う前に、岸田が会うわけにはいかない」ということだ。
中国からみても、日本外交は米国追従であり、米国との関係改善が進まないうちに、日本だけが歩み寄ってくることはそもそも期待していない。逆に言えば、米国との関係改善が進めば、日本は後からついてくると足元を見透かしている。
この結果、米中首脳会談の結果が判明するまで、日中首脳会談は開催そのものが最終確定しないということになった。米中首脳会談が完全決裂に終わっていたならば、日中首脳会談は流れたに違いない。
米中首脳会談は「やらないよりはマシ」という結果に終わり、日中首脳会談も同様に「大きな進展はなかったが、首脳同士が一年ぶりに会ったのは良かった」という程度の内容で終わった。
日本政府内には、福島第一原発の処理水(汚染水)の海洋放出を受けた水産物禁輸問題で中国側が歩み寄ることへの期待があったが、米中に大きな進展がない状況で、日本にだけ歩み寄るメリットは中国側になく、日本にしても米国を飛び越えて中国側に大幅な譲歩案を示すつもりは毛頭なかったということであろう。
日本外交は対米追従で、独自性がない。これでは中国ばかりかどの国も、日本から譲歩を引き出すには米国と交渉すればよいと考え、日本を相手にしなくなる。
まして岸田内閣は支持率続落でいつまで続くかわからない状況である。これほど国内基盤が弱く、いつ辞めるかわからない首相を、どの国も外交交渉の相手にしたくない。何を約束したところで、すぐに反故にされるかもしれないからだ。
支持率2割そこそこの政権に首脳外交なんて土台無理なのである。
ほどんど見せ場のなかった岸田訪米で唯一の「成果」は、岸田首相がバイデン大統領から「来年の早期に国賓待遇での公式訪問を招待された」ことだ。日本の首相が国賓待遇で訪米するのは2015年の安倍晋三首相以来となる。
日本政府関係者は「来年の早期」の時期について「来春までに」と説明していると報道されている。
内閣支持率が続落し、岸田首相が年内解散を見送ったことで、自民党内には「岸田首相は来年秋の自民党総裁選まで解散総選挙に踏み切れず、不出馬に追い込まれる」との見方が強まっている。
私は、岸田首相が来春の予算成立後に電撃辞任し、緊急の総裁選を経て、新内閣のもとでただちに解散・総選挙を断行するという極秘シナリオが浮上していることをすでに伝えたが(『岸田総理が来春の予算成立後に電撃辞任→「茂木内閣」でただちに解散総選挙の極秘シナリオ!今更「年内解散見送り」報道でレームダック化が加速、ポスト岸田レースがいよいよ始まった』参照)、岸田首相が「来春までに」国賓待遇で訪米するとすれば、まさに「花道外交」になる可能性がある。
岸田首相の外交好きは有名だ。内閣支持率が続落して国内では険しい表情をみせる時も、裕子夫人を連れて政府専用機で海外へ飛び、相手国に歓待されて満面笑みを浮かべる場面を何度も見てきた。「国賓訪米」は「卒業旅行」とは言わないが、体のよい「花道」として、岸田首相に「勇退」を促す大きなカードになるだろう。