岸田内閣の支持率が少し上昇した。毎日新聞の世論調査(1月27〜28日実施)では5ポイント増の21%、日経新聞の世論調査(1月26〜28日実施)では1ポイント増の27%だ。
能登半島地震への対応の遅れが批判されているにもかかわらず、支持率続落に歯止めがかかり、わずかながら上昇に転じたのは、自らが率いてきた岸田派(宏池会)を解散して派閥解消を打ち出したことが最大の要因であろう。
岸田派に続いて二階派、安倍派、森山派が解散したのに対し、岸田政権を支えてきた主流派である麻生派と茂木派は存続を決定。岸田首相がキングメーカーの麻生太郎副総裁と一線を画したことも世論に好意的に受け止められたとみられる。
さらに裏金事件で立件を免れた安倍派幹部に自発的離党を迫ったのもプラス要因となった。
内閣支持率は一部世論調査で10%台まで落ち込み、岸田首相は今年9月の自民党総裁選で再選を果たすことがかなり険しくなっていた。麻生氏は岸田首相を3月上旬の訪米と3月下旬の予算成立を花道に退陣させ、茂木敏充幹事長を後継首相に押し立てる戦略を探っていたが、岸田首相はこれに反発して派閥解散を打ち出し、政局をリセットすることに成功した。
岸田首相がバイデン大統領から国賓待遇で招待された訪米は4月10日に決定し、岸田首相は3月退陣論を抑え込んだ。麻生氏は自ら首相訪米の事前調整のために米国へ飛んだが、そのうえで4月10日の日程が決まったということは、麻生氏も3月退陣論を断念したとみていい。
岸田首相は派閥存続にこだわる麻生氏と、派閥解消を訴える菅義偉前首相を天秤にかけながら、1日でも長く政権に居座る考えだ。支持率が回復すれば9月の自民党総裁戦に出馬することもあきらめていないのだろう。
1月26日に開幕した通常国会は、震災対応と裏金事件が大きな焦点となる。
岸田首相は「派閥解消」で裏金事件の逆風を一時的にかわした格好だ。しかし、この問題の本質は「政治資金の透明化」だ。立憲民主党は政治資金パーティーの全面廃止や政党が政治家個人に寄付する政策活動費の廃止を掲げて政治資金規正法の改正を迫るとみられ、岸田首相は防戦一方になる可能性もある。
次の正念場は4月28日投開票の衆院補選だ。旧統一教会問題やセクハラ疑惑で批判を浴びる最中に死去した細田博之前衆院議長の島根1区、東京都江東区長選をめぐる買収事件で起訴された柿沢未途氏の東京15区、そして裏金事件で議員辞職を表明した谷川弥一氏の長崎3区で行われる見通しだ。
いずれも自民逆風の選挙になる公算が大きく、ここで3連敗すれば岸田おろしが再燃するだろう。
しかも2月から3月は衆参の予算審議での疑惑追及で内閣支持率が下がりやすい時期である。今年は特に裏金事件が大きな焦点となるだけに、派閥解消による支持率回復基調が続くかどうかは見通せない。
岸田首相とすれば、予算成立後の国賓待遇の訪米(4月10日)で支持率を回復させ、4月28日の衆院補欠選挙で勝ち越して総裁再選への道のりを固めたいところだ。
派閥解散の連鎖で自民党の国会議員の7割は無派閥になった。岸田首相はこの7割を取り込んで総裁再選を目指すことになる。
しかし、安倍派(清和会)では創始者の福田赳夫元首相の孫である中堅議員の福田達夫氏が「新しい集団をつくっていく」と明言。無派閥の高市早苗氏は、安倍派解散で行き場を失った安倍チルドレンたちを引き寄せる構えだ。茂木派(平成研究会)からは小渕恵三首相の娘である小渕優子氏に続いて参院茂木派の主要メンバーも離脱し、「小渕派」を立ち上げる気配が出ている。「派閥解消」は派閥リーダーの世代交代を促す「派閥再編」と捉えたほうがよいだろう。
岸田首相が内閣支持率をさらに回復させ、党内支持も取り戻して再選を果たすことができるか、その道筋はなお不透明だ。