公明党の石井幹事長が解散時期について9月の自民党総裁選の後が望ましいとの姿勢を示したことが波紋を広げている。総裁選前に解散総選挙を断行して総裁再選への流れを作りたい岸田文雄首相の意向と真っ向から対立するからだ。永田町では公明党が岸田首相を見切ったとの憶測も流れている。
石井幹事長は民放のBS番組で解散総選挙の時期について問われ、「9月に自民党総裁選挙がある。そこで選ばれた総裁は非常に支持率が高くなる。その後の秋がいちばん可能性が高い」と述べた。
岸田内閣の支持率は低迷し、岸田首相が総裁再選を果たすには、その前に解散総選挙を断行して勝利するしかないというのが永田町の相場感だ。解散総選挙は総裁選後が望ましいとする石井幹事長の発言は、岸田首相に総裁選前の解散権を封印し、総裁選への出馬を断念するよう迫るものと受け取れる。
石井幹事長はそのうえで「会期末も可能性はゼロではないが、しっかりした再発防止策を講じたうえで、内閣支持率が向上していく流れができるかどうか」とも述べた。
通常国会の会期末は6月である。「しっかりした再発防止策」とは、裏金事件を受けた政治資金規正法の改正のことだ。公明党は収支報告書の虚偽記載・不記載の全責任を秘書に転嫁することを批判をする世論を踏まえて議員本人の刑事責任もあわせて問う「連座制」の導入を求めている。連座制導入を含む法改正を実現し、さらに内閣支持率が回復してくれば、6月の会期末解散を容認してもいいというわけだ。
裏を返せば、岸田首相が画策している「4月解散」は容認できないということになる。4月時点では政治資金規正法の改正は実現していないからだ。
岸田首相は、自民大逆風の4月28日の衆院3補選に敗北し、「岸田政権では選挙は戦えない」との声が高まって6月解散に踏み切れなくなり、そのまま9月の総裁選出馬断念に追い込まれる展開を恐れている。このため先手必勝の4月解散がベストシナリオなのだ。
公明党の主張と岸田首相の意向は相容れない。公明党が岸田首相を見限ったという分析は一定の合理性がある。
公明党が4月解散を拒絶する理由は以下の5つであろう。
①創価学会の高齢化が進み、近年の国政選挙では公明党の集票力低下が著しい。公明党としては「国民に人気のある総理」のもとで議席を維持することを期待している。岸田内閣の支持率が低迷するなかでの解散総選挙は絶対に避けたい。
②裏金事件で政治不信が過熱したことを踏まえ、公明党は自民党に「連座制」導入を受け入れさせたことを「公明党が政権入りしている成果」として総選挙でアピールしたいと考えている。法改正が実現する前の解散総選挙には断固反対だ。
③不人気の岸田政権で解散総選挙を断行し、自公与党が過半数割れするか、大きく議席を減らす結果となれば、日本維新の会や国民民主党の連立入りが具体化し、公明党の発言力が弱まる恐れがある。これは避けたい。
④逆に岸田首相が解散総選挙に勝利し、総裁再選を果たせば、長期政権になる可能性が強まっってくる。公明党と岸田首相との関係は希薄だ。岸田政権が長期化すれば、公明党と緊密な関係を続けてきた菅義偉前首相や二階俊博元幹事長の自民党内での力は弱まり、公明党の意向が反映されにくくなる。岸田政権の長期化を防ぐには総裁選前の解散総選挙を阻止したい。
⑤公明党は都政で緊密に協力してきた小池百合子都知事が国政復帰し、初の女性首相となる展開を望んでいる。小池氏は4月28日投開票の衆院東京15区補選に出馬し、自民党に復帰して9月の総裁選に出馬するとの憶測も出ている。その可能性を残すには、補選をぶっ飛ばす4月解散は阻止したい。
石井幹事長の発言は、この①〜⑤と符合する。第一の希望としては岸田首相に9月総裁選を機に退陣してもらい、支持率が高く公明党にも理解がある新しい首相のもとで解散総選挙に踏み切ってほしいのだ。どうしても岸田首相が総裁選前に解散をしたいのなら、6月の会期末時点で政治資金規正法を改正したうえで内閣支持率が上向いていることが条件であり、4月解散だけは絶対に容認できないというわけだ。
では、公明党に岸田首相の4月解散を阻止する力はあるのか。結論として、私はその力はないと考えている。
いざ解散総選挙に突入すれば、公明党は議席維持のため自民党と選挙協力するしかない。岸田首相が総選挙で勝利して続投すれば、公明党は連立政権から離脱する決意がない以上、付いていくしかないのだ。そして、公明党はすっかり政権与党の立場に浸かり、野党に転落することを恐れている。自民党が維新や国民との連携をつらつかせていることも、公明党のつなぎ止めに大きな効果を生んでいる。
公明党がどんなに反対しても岸田首相の解散権を縛ることはできない。さまざまなかたちで足を引っ張り、内閣支持率を押し下げることで、岸田首相が解散を決意できない環境をつくるしかないのが実情であろう。