石破政権が総選挙で安倍派5人衆の萩生田光一氏や高木毅氏ら裏金議員12人を非公認としたことを受けて、公明党は自民党が公認しない候補は推薦しない方針を決定した。裏金事件を厳しく批判してきたことを踏まえ、総選挙でも裏金議員を突き放して政治改革への姿勢をアピールする狙いがある。
ところが公明党は非公認12人のうち、西村康稔氏(兵庫9区)と三ツ林裕巳氏(埼玉13区)は例外的に「地方の党関係者と良好な関係を築いている」として推薦することにしたのだ。
公明党は兵庫2区と兵庫8区に独自候補を擁立している。これまで維新は公明党と「談合」し、大阪と兵庫で公明現職がいる6選挙区では候補擁立を見送ってきた。しかし大阪府・市議会で維新が単独過半数を獲得したことを機に「談合」は決裂。維新が公明現職がいる選挙区に候補擁立を宣言したことで、両党は激突することになった。兵庫2区と兵庫8区で勝つには、兵庫県内での自公選挙協力をさらに強化するほかない。兵庫県の大物議員である西村氏とは協調関係を維持したいのだ。
埼玉県も公明党にとって最重要地域である。新代表に就任した石井啓一代表は衆院比例北関東から埼玉14区へ転身した。新代表をいきなり落選させるわけにはいかない。埼玉でも自公選挙協力を強化する必要がある。
しかも三ツ林氏はもともと埼玉14区を地盤としていたが、今回の総選挙から導入される新しい区割りで14区を石井氏へ譲り、13区からの出馬を決めた経緯がある。石井氏の勝利を最優先し、三ツ林氏との協力関係を崩すわけにはいかないのだ。
公明党の推薦判断は、裏金議員とは距離を置くことを基本原則としつつ、公明党の選挙対策として協力が不可欠な相手は例外的に推薦するという「党利党略」そのものである。これでは裏金事件に厳しく対処したと胸を張ることはできない。
このような公明党の推薦を受けて当選した裏金議員たちが「選挙に勝って禊をすませた」と胸を張ってよいのか。甚だ疑問である。
公明党はこれまで比例800万票を目標にしてきた。しかし21年衆院選は711万票、22年参院選は618万票にとどまった。支持母体である創価学会の高齢化が進み、組織力が大きく低下しているのだ。
今回の総選挙で、石井代表は「得票数より議席数だ」として比例の得票目標を掲げなかった。独自候補を擁立する11選挙区(前回より2選挙区増)の全員当選と比例の現有23議席以上の計34議席を目標とした。
公明党は、内閣支持率が低迷していた岸田政権による解散総選挙に強く反対し、9月の総裁選で首相を交代させて10月に解散総選挙を断行するよう主張してきた。念頭にあったのは、小泉進次郎氏への首相交代だ。
小泉内閣が誕生すれば支持率が上昇し、公明党の選挙も優勢になると判断していた。組織力が高齢化で低下するなかで国政選挙に勝つために、首相の人気をとりわけ重視するようになっている。
ところが総裁選の党員投票で小泉氏が想定外に失速し、石破政権が誕生。石破首相が解散時期や裏金問題で迷走し、内閣支持率が思うほど上がらなかったことで、公明党は危機感を強めた。西村氏や三ツ林氏の推薦に踏み切った背景には、そうした事情がある。
自民党が比例重複を認めないとしたものの、選挙区では公認する裏金議員の多くも、公明党は推薦する。その見返りとして裏金議員たちに「比例区は公明に」と従来よりもさらに強く訴えることを要求するのであろう。やはり自公選挙協力によって公明党の議席を最大化することが最優先なのだ。
かりに自公与党が過半数割れした場合、維新や国民民主党を連立政権に引き入れることで、ただちに野党に転落することはないとしても、連立政権内での公明党の発言力は大きく低下する。それを避けるためには、なんとしても自公与党で過半数を維持しなければならない。
自民党が裏金事件の逆風で議席減が確実視されるなか、公明党が議席を大きく減らすわけにはいかない。そのためには11選挙区での勝利が極めて重要であり、とりわけ兵庫や埼玉では自民党との選挙協力の強化が不可欠なのであろう。
裏金自民党と歩調をあわせるしかない。自公連立政権発足から四半世紀。公明党もいよいよ矛盾を覆い隠せなくなってきた。