共産党の安保外交部長を務めた松竹伸幸氏が党員の直接投票で党首を選ぶ「党首公選制」の導入を出版活動やマスコミ出演で公然と訴え、注目を集めている(こちら参照)。共産党員が党運営を公然と批判するのは異例だ。
松竹氏は記者会見で「内部に入ってみれば、本当にいろいろな考え方の違い、個性の違いがあり、ぶつかり合う場面もたくさんある。そういうものを見せたほうがいい」と主張。公選制導入で党の透明性を高めるべきだという主張はもっともだと私は思う。
これに対して共産党は厳しい姿勢をみせている。党員が党運営を公然と批判することは共産党が掲げる「民主集中制」に反するからだ。
しんぶん赤旗が編集局次長名で掲載した『規約と綱領からの逸脱は明らかーー松竹伸幸氏の一連の言動について』が共産党の公式見解とみていい。
赤旗が最初に指摘するのは「松竹氏の行動が党のルールに反していること」である。党規約上、党員が党内のどの組織に対しても意見を述べて回答を求めることができるのに、松竹氏は中央委員会や幹部会に意見を述べたことは一切ないとし、いきなり記者会見や出版活動、マスコミ出演などで党運営を批判するのは「党の内部問題は、党内で解決する」(第5条8項)や「党の決定に反する意見を、勝手に発表することはしない」(第5条5項)という党規約に反するという。
そのうえで、共産党が「党首公選制」を採用していないのは「各候補者が多数派を獲得するための活動を奨励するーー派閥・分派をつくることを奨励することになっていくから」と説明。「党の意思決定は、民主的な議論をつくし、最終的には多数決で決める」「決定されたことは、みんなでその実行にあたる」「党内に派閥・分派はつくらない」という「民主集中制」を党規約第3条に掲げており、「党首公選制」は、この大原則と相容れないと主張している。
松竹氏は党員として党規約に同意したはずなのに、それに反して党運営に対する批判を勝手に発表したという論理で厳しく糾弾している。
ふつうの人がこれを読めば「党員になったら党批判ができなくなる」と怯え、党員になりたくなくなるだろう。世間一般の肌感覚からかけ離れた党規約というほかない。
どんな組織でも最高決定機関に意見して通るのなら苦労はしない。ほとんどの場合は一蹴され、あるいは握りつぶされ、人事などで報復されるのが世の常だ。だからこそ世論に直接訴え、外部からの圧力で組織を動かそうとする人々が存在する。そのような人々による社外での言論活動や内部告発がマスコミを通して報道され、歪んだ組織への批判が高まることで再生につながるという事例は枚挙にいとまがない。赤旗にもそのようなかたちでの情報が多数持ち込まれているはずである。
そのような現実を無視して党批判の公表を禁じるのは、党執行部による党員への「言論弾圧」にほかならない。執行部は正しいことをしていると自信があるのなら、正々堂々と公の場で反論すればいいことだ。執行部批判を封じる「民主集中制」はいかなる理由をつけても自由な言論と透明性を重視する民主社会と相容れない。
私は共産党の国会における政府追及や地方議会での生活に根ざした地道な活動を高く評価しているが、この「民主集中制」だけはどうしても受け入れがたい。党員になって党規約を受け入れた以上、党運営を公然と批判することができないのなら、党員にはなりたくないと考える人は多いだろう。民主集中制こそ、共産党の党勢拡大を妨げる最大の要因だと思う。
民主集中制は、共産党執行部がいかなる理由をつけようとも、政治的な意味合いとしては、党執行部が自分たちの地位を守るための道具である。党執行部は絶対に間違わないという幻想に基づく制度だ。内部からの批判にさらされない組織は例外なく独裁色を帯びていく。
志位和夫委員長がたとえ立派な指導者だとしても、20年以上もトップに君臨しつづけていると独裁色が強まるのは避けられない。志位氏の誤りを指摘する声が党内からほとんど出てこないのは異様である。
それを強く感じたのが昨年、ウクライナ戦争が勃発した後、ロシア政府を一方的に非難し、ウクライナ政府を全面支持する国会決議に共産党も賛成したことだった。そのうえに国民総動員令を発して成年男子の出国を禁じ、「戦わない自由」を奪って軍隊に招集し、民間人にも武器を持たせて徹底抗戦を強要し、野党の政治活動を禁じて大政翼賛体制をつくり、米国から膨大な武器支援を受けて戦争を遂行しているゼレンスキー大統領の国会演説をスタンディングオベーションで称賛したのである。
共産党は日米安保条約はかえって日本を戦争に巻き込むと批判してきた。ウクライナ政府はまさに米国との軍事協力を強め、米国から武器を大量購入して軍備を増強した結果、ロシアとの軍事的緊張を高め、米ロ対立に巻き込まれるかたちで戦争当事国となったのだ。共産党が指摘してきたとおりの展開をたどったのである。
それにもかかわらず、米国から武器支援を受けて戦争を続行するゼレンスキー大統領を絶賛する姿勢は、共産党の日米同盟に対する姿勢と矛盾している。ウクライナ戦争を契機に日本でも東アジアの安全保障環境への危機感が自民党やマスコミによって煽られ、防衛費倍増や敵基地攻撃能力の保有の方針が次々に決まっていったことを考えると、共産党がウクライナ戦争に際してとった対応は大失敗だったというほかない。自公政権の対米追従・軍備拡張に手を貸してしまったのだ。
それでも党内から志位執行部を批判する声がまったく聞こえてこないのは、民主集中制があるためだ。党執行部が民主集中制を根拠に異論を封殺しているといってよい。ここに民主集中制の危うさが凝縮されている。民主集中制は党名以上に共産党の党勢拡大を阻害していると私は思っている。
志位執行部が民主集中制を見直し、党首公選制を導入することはもはや無理だろう。田村智子氏や山添拓氏への世代交代を機に一歩踏み出し、党のイメージを刷新することを期待したい。この点をクリアすれば、共産党へのアレルギーはずいぶん薄まり、党勢拡大につながるのではないか。