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6月解散騒動の陰で動いた自民・森山ー立憲・安住の裏ルート〜内閣不信任案見送りに失敗するも、森山氏の幹事長起用でさらに強化される可能性も

岸田文雄首相が煽りに煽った6月解散風。立憲民主党が内閣不信任案を提出すれば、岸田首相は対抗して衆院を解散するという観測は、麻生太郎副総裁や茂木敏充幹事長ら自民党執行部も信じ込んでいた気配である。

だが、岸田首相に解散するつもりは毛頭なかったことは、鮫島タイムスでは繰り返し指摘してきた(『立憲は内閣不信任案を提出できないと予測して解散風を煽りまくった岸田首相が解散を見送った代償は大きい』参照)。

にもかかわらず、自民党執行部まで欺いて解散風を煽ったのは、①岸田一族が昨年末に首相公邸で開いた大忘年会スキャンダルから目を逸らすため②立憲民主党と防衛増税をはじめ国民の負担増をめぐって協調する芽を残すため内閣不信任案の提出を回避することを狙ったーーことが動機であることも解説してきた(youtube【5分解説】岸田首相は6月解散のつもりは最初からなかった!マスコミと共謀し解散風を煽った猿芝居の全貌〜9月解散もハッタリか?本心は「解散より人事」

解散権を握る岸田首相が率先して解散風を煽り、いざ立憲民主党が内閣不信任案の提出を決めると、「今国会で解散は考えていない」とあっさり打ち消した一人芝居に、自民党内からも「解散権を振りかざして弄んだ」との批判が広がっている。

この一人芝居は岸田首相の「単独犯」だったのか。私は筋書きをともに描いた「共犯」がひとりだけいるとみている。自民党の森山裕選対委員長だ。

森山氏は鹿児島市議出身で78歳。たった8人の森山派を率いる地味なベテラン議員である。安倍・菅政権下で国対委員長を4年間務め、当時の上司である菅義偉前首相や二階俊博元幹事長の信頼を得た。

岸田首相は反主流派に転じた菅氏や二階氏と通じる森山氏を選対委員長に起用し、ポスト岸田への意欲を隠さない茂木幹事長よりも信頼を置くようになった。4月の衆参補選や統一地方選では茂木氏を差し置いて森山氏に陣頭指揮を委ねた。

その森山氏が国会会期末に誰よりも解散風を煽ったのだ。選対委員長として会期末までに衆院選の自民候補を全選挙区で決めると発信し、解散機運をかき立てた。さらにはテレビ番組に出演して「内閣不信任案の提出は解散の大義になる」と強調し、不信任案の提出に対抗して岸田首相が解散に踏み切るとの空気を醸成したのである。

岸田首相とぴったり重なった一連の行動は、首相と示し合わせていたとしか私には思えない。解散の有無について麻生氏や茂木氏の発言が二転三転したのに比べ、森山氏は終始一貫として解散風を煽り続けた。これも「仮に不信任案が提出されても岸田首相は解散を見送る」ことを確信していなければ、なかなかできないことである。

補足すると、菅氏や二階氏は森山氏から「岸田首相は解散するつもりはない」という感触を得ていたフシがある。反主流派のふたりはだからこそ、安心して6月解散への慎重姿勢を示し続けていたのだろう。

私が森山氏の共犯説を唱えるもうひとつの根拠は、立憲民主党の安住淳国対委員長とツーカーの関係にあることだ。

森山氏は菅政権下で立憲の国対委員長を務めた安住氏と水面下で折衝を重ね、信頼関係を構築した。与野党が国会で貸し借りを重ねる「国対政治」である。

森山氏が岸田政権で選対委員長に転じた後、後任の国対委員長に就任したのは安倍派の高木毅氏だった。安住氏は高木氏とそりがあわず、与野党の国対協議は決裂を重ねた。そこでも安住氏は森山氏を通じて岸田首相の意向を確認する「裏ルート」を維持してきたのである。

永田町・霞ヶ関では、与党の国対委員長である高木氏よりも野党の国対委員長である安住氏のほうが政権内部の情報に通じているともささやかれた。安住氏は元財務相で財務省に情報網を張り巡らせているうえ、森山氏との裏ルートが機能していたからだ。

森山氏が「立憲が内閣不信任案を提出すれば、岸田首相は対抗して衆院を解散する」という空気を煽っていたのは、安住氏とも示し合わせていた可能性が極めて高い。つまり、森山氏と安住氏の間に①立憲は土壇場で6月解散回避のために不信任案提出を見送る②岸田首相はそれに呼応して解散を見送る③6月解散回避を契機に、今後の防衛増税などで岸田政権と立憲の連携を深めるーーという裏取引があったのではないかというのが私の見立てだ。

岸田首相は森山氏からこの裏取引を聞いていたから安心して解散風を煽り続けた。ところが、立憲の泉健太代表は不信任案提出を見送れば党内から「弱腰」批判が噴出して「泉おろし」に発展することを恐れ、不信任案提出を主張。安住氏は泉代表を抑えきれず、裏取引は頓挫し、岸田首相はやむなく不信任案提出前に自ら解散見送りを表明したーーというわけである。

問題は今回の裏取引の失敗で森山ー安住の裏ルートが壊れるかどうかである。私の読みは「壊れない」だ。

もちろん岸田首相が立憲と防衛増税などで連携する機運はしぼんだ。不信任案提出に踏み切った泉代表は解散総選挙を視野に岸田政権との対決姿勢を強め、防衛増税などへも反対姿勢を強めるだろう。

しかし泉代表は4月の衆参補選全敗を受けて「次の衆院選で150議席を下回れば辞任する」と表明している。立憲の現有議席は96しかなく、日本維新の会が野党第一党を奪う勢いをみせるなかで「150議席」の目標達成は極めて困難だ。

衆院選前に代表から引きずり下ろされる可能性はなお残るし、かりに9月解散・10月総選挙が行われたらその後も泉代表が留任する可能性は極めて低い。そこで後任の代表に有力視されているのは野田佳彦元首相なのだ。

野田元首相も安住氏も財務相経験者で、財務省に近い財政再建・増税派だ。野田体制に移行すれば、安住氏は引き続き幹事長や国対委員長として重用される可能性が高い。そこでも森山ー安住の裏ルートは機能し、防衛費増額や異次元の少子化対策の財源確保をめぐる岸田ー野田の合意づくりに動くだろう。

私は、岸田首相が描く次の一手は「解散よりも人事」であると早くから指摘してきた(『岸田首相が狙う「解散より人事」茂木幹事長切り、小渕優子起用が急浮上!内閣改造・党役員人事は「菅二階と融和、清和会分断」〜維新台頭・立憲凋落で政界地図は激変する』参照)。その目玉は茂木幹事長を更迭し、森山氏を後任幹事長に据えることだ。そしてその先には森山ー安住ルートを使った立憲との連携がある。

自民党の有力者たちはそれぞれ他党とのパイプを作って党内政局の主導権を握ってきた。菅氏は維新や創価学会と強力な関係を維持してきたし、二階氏は公明や小池百合子東京都知事をテコに政局を動かしてきた。これに対抗して、麻生氏や茂木氏は国民民主党の玉木雄一郎代表や連合との連携を重視してきた。

岸田首相は他党とのパイプがない。そこで、菅氏や二階氏ら反主流派に頼ることなく、麻生氏や茂木氏ら主流派に依存することもなく、自ら動かせるカードとして、森山氏を通した立憲ともパイプを強化することに乗り気なのだろう。増税論議を進めることを目論む財務省にとっても、岸田首相が維新や国民よりは立憲との連携を強化するほうがやりやすい。

森山氏はいまのところ岸田首相の信頼をもっとも獲得している党幹部であり、夏の人事で幹事長に起用される可能性は十分にある。立憲ルートに加えて菅氏や二階氏ら反主流派の信頼も厚く、党内政局を安定化させることも期待できる。

問題は茂木氏更迭を麻生氏が受け入れるかどうかだ。ここが夏の人事の最大の焦点となる。


6月解散騒動の詳しい解説を6月20日発売のサンデー毎日『6月解散 煽りに煽った岸田首相の末路シナリオ〜これは長男のスキャンダル隠し』に寄稿しました。森山ー安住の裏ルートについても解説しています。ぜひご覧ください。

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