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立憲は内閣不信任案を提出できないと予測して解散風を煽りまくった岸田首相が解散を見送った代償は大きい

岸田文雄首相は6月15日、首相官邸で記者団に「今国会での衆院解散は考えていない」と明言した。

岸田首相は「立憲民主党が内閣不信任案を提出すれば、対抗して衆院を解散する」との情報を意図的に流してきたが、いざ立憲が内閣不信任案を提出する方針を決めると、一転して解散見送りに転じた格好である。

私は岸田首相にそもそも解散する覚悟はなかったとみている。岸田首相が描く次の一手は「解散より人事」であり、6月解散を見送って8月に大規模な内閣改造・自民党役員人事を断行して茂木敏充幹事長を更迭し、主流派を組み替えることを狙っているーー私はかなり以前からそんな予測を披瀝してきた。

さりながら、岸田首相は6月解散風を煽りまくってきた(マスコミ各社も一緒になって6月解散論を振りまいてきた)。

岸田首相は6月5日の自民党役員会で、6月21日の国会会期末に向け「緊迫の度を加えた展開になることが予想される」と公言。「立憲民主党が内閣不信任案を提出すれば対抗して衆院を解散する」というメッセージを岸田派幹部を通じて発信し、解散風を煽った。

公明党が早期解散に反対すると「公明党の都合だけでは決めない」と周辺に漏らし、国会会期末までに自民党の衆院選候補をすべて決めるように指示。いつでも解散に踏み切れるような環境整備を進めることで、「首相は解散するつもりだ」という観測をあえて広めてきたのである。

岸田首相の真意はどこにあったのか。

岸田一族の首相公邸での大忘年会スキャンダルで内閣支持率が下落する中で、本気で解散総選挙に臨む決意があったとは思えない。それでも解散風を吹かせれば、総選挙で惨敗して野党第一党から転落することが確実視されている立憲民主党が内閣不信任案の提出に踏み切れないだろうとたかをくくっていたのだろう。

だが、立憲の泉健太代表もここで提出を見送れば「弱腰」と批判される。引くに引けない状況に追い込まれることを岸田首相はどこまで想定していたのだろうか。読み間違えたとしかいいようがない。

この間、茂木幹事長や森山裕選対委員長と公明党の関係は選挙区調整をめぐって悪化。岸田派ナンバー2の林芳正外相と安倍晋三元首相の後継者である吉田真次氏の新山口3区の公認争いで林氏に軍配をあげ、最大派閥・安倍派の反発を受ける役割も茂木氏と森山氏に押し付けた。

岸田首相は茂木氏ら党執行部に損な役回りを押し付け、自らは解散風が吹き荒れたことで存在感を増し、高みの見物だったのである。

立憲が不信任案提出に踏み切れば、岸田首相との連携の芽はつぶれる。首相としては、これから防衛増税をはじめ国民負担増の議論をはじめるにあたり、立憲との連携の芽は残しておきたい。そのためには不信任案提出を思いとどまらせたいという思惑もあったのだろう。

マスコミは、首相の長男翔太郎氏が首相公邸での岸田一族の大忘年会で悪ふざけをしたという文春砲に反応して岸田批判を強めていたが、6月解散風で吹き荒れたことで政局報道が過熱し、大忘年会は後景に退いた。少なくとも解散風を吹かせたことが「息子隠し」のためのマスコミ対策としては効果てきめんだったといっていい。

与党内の引き締め、野党への揺さぶり、そしてマスコミ対策。いずれにおいても短期的には解散風を煽ったことは岸田首相にとってプラス効果が大きかったといえるだろう。

しかし、しっぺ返しを受ける可能性は大きい。

岸田首相が自ら解散を煽りまくりながら、土壇場で解散を見送ることで「岸田首相はそもそも解散総選挙を断行する覚悟などなかった」との見方が広がり、「岸田降ろしを仕掛けても解散では対抗できないだろう」と反主流派を勢いづかせるだろう。このさき解散カードをちらつかせたところで「オオカミ少年」として誰も信用しなくなり、首相の解散権の威力は大幅に弱まって政権運営の主導権を失う可能性がある。

首相就任から1年半がたち、キングメーカーの安倍晋三元首相は政界からいなくなり、最大の課題だった広島サミットを乗り越え、岸田首相に傲慢さが出てきたとの見方は政権内にじわりを広がっている。就任当初に高らかに掲げた「聞く力」「丁寧な説明」をすっかり忘れ、首相の解散権をちらつかせて権力ゲームに興じた結果、ふと気づくと裸の王様となって悲惨な末路をたどりかねない。

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