自民、公明、立憲、維新4党が統一教会の被害者救済を機に急接近し、政局の重心は4党協議の場へ移った。統一教会問題が創価学会へ波及することを恐れる公明党を立憲・維新が激しく揺さぶり、自民・立憲の大連立構想も視野に入れた駆け引きが強まっている。
立憲の岡田克也幹事長が与野党党首会談による4党協議の加速化を求めたのに対し、公明党の山口那津男代表が激しく反発したのは、自民党の宏池会(岸田派)と立憲が財務省の仲介で画策する大連立構想に対して公明党が強い警戒感を抱いていることを物語っている。
そのなかで立憲民主党の泉健太代表が11月4日の記者会見で「(与野党の)協議がまとまらなければ、岸田文雄首相と自民党の重大な国民に対する背信行為だ。骨抜きや先送りがあった場合は、内閣不信任に値するほどの事案だ」と述べた。
自民党内の基盤が弱く内閣支持率の続落で窮地に立つ岸田首相と、同じく支持率低迷にあえいで共産・れいわとの野党共闘に見切りをつけた野党第一党の立憲が「弱い者同士」として手を握り合う大きな政治の流れからして、立憲が今国会で実際に内閣不信任案の提出に踏み切る可能性は小さい。
泉代表の発言は、統一教会問題が創価学会へ波及することを恐れる公明党、さらには自公連立そのものを揺さぶり、岸田官邸と自民党非主流派に楔を打ち込むことに主眼がある。野党共闘を支持してきた野党支持層の反発を和らげる狙いもあるだろう。
現時点において本気で内閣不信任案を提出する決意があるとは思えない。
ところが、これに必要以上に反発してみせたのが、自民党の茂木敏充幹事長だった。
茂木幹事長は泉代表の発言があった4日の記者会見で「極めて不適切で不誠実」「全く筋違い」「いま救済と再発防止を図るという基本的な考え方で一致し、課題についても、考えに隔たりがある部分を埋める作業をしている」などとまくし立て、泉代表に撤回を求めた。
このニュースは泉代表と茂木幹事長という、いかにも地味な二人の対立であり、さほど大きな関心を集めなかったのだが、玄人筋としてみれば面白い。
泉代表の真意は先に解説したのだが、茂木氏の真意を読み解くと、要するに自民・立憲の急接近が気に食わないのである。
茂木氏は第二派閥・茂木派(平成研究会・元経世会)の領袖だ。政界を引退しても参院中心に隠然たる影響力を残す青木幹雄元参院議員会長とそりがあわず、派閥を掌握しているとは言い難い(青木氏は茂木派ナンバー2の加藤勝信厚労相を後押ししている)。しかし岸田政権の後見人である麻生太郎副総裁に近づき、幹事長ポストを手に入れた。本人としては「我こそはポスト岸田の一番手」だと思っている。
ところが、第三派閥の麻生派・第四派閥の岸田派の宏池会チームは最大派閥・清和会(安倍派)が安倍晋三元首相の死去で後継争いを始めると、野党第一党の立憲民主党に接近。野田佳彦元首相を首班に担ぐ大連立構想まで浮上し、清和会と宏池会のつなぎ役として幹事長に起用された茂木氏の存在感はむしろ薄れてしまったのだ。
茂木氏は自公立維の協議を積極的に妨害することはなくても、積極的に推進することもないだろう。今回の泉発言のように双方に亀裂が生じる出来事が起きれば、何食わぬ顔で亀裂を深める言動に出る可能性はある。
ただ、茂木氏の弱点は、公明党とのパイプも薄いことだ。これを機に公明党の肩を持って立憲を外すことに軸足を置くのか、それとも公明党を外して立憲との連携を強めようとする岸田首相や麻生氏の路線に追従していくのか。ポスト岸田を狙う茂木氏がどう立ち回るのかは今後の政局の見どころの一つである。
これに萩生田光一政調会長、西村康稔経済産業大臣、世耕弘成参院幹事長、松野博一官房長官らの後継争いが続く最大派閥・清和会、さらには二階俊博元幹事長、河野太郎デジタル相、小泉進次郎元環境相らと連携して復権を目指す非主流派のドン・菅義偉前首相(無派閥)の動きが複雑に絡みあいながら、これからの政局は動いていく。
岸田首相や麻生副総裁が立憲と接近して大連立含みの展開となるなかで、日本の政治が大きな変革期に入ったのは間違いない。