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異次元の少子化対策をめぐる「茂木幹事長vs加藤厚労相」は「財務省vs厚労省」の財源争奪の代理戦争であり、岸田首相も加わる「茂木包囲網」の現れである

岸田文雄首相が打ち出した「異次元の少子化対策」の財源をめぐり、「既存の社会保険料収入を活用して確保すべきだ」を訴える自民党の茂木敏充幹事長と、それに反対する加藤勝信厚生労働相が激しく対立している。

この対立は、政策・政局の両面から極めて興味深いので解説してみよう。

まずは政策面。

財務省は、財源を確保した範囲で財政支出を行う緊縮財政論に立っている。その立場に立つと、異次元の少子化対策を実行するには、はじめに財源を確保しなければならない。

このような財源論でしのぎを削っているという点で、茂木氏も加藤氏も緊縮財政派といってよい。まずはここがスタートラインだ(ちなみに自民党の一部やれいわ新選組などが唱える積極財政論に立つと、増税や社会保険料を活用しなくても、大胆な国債発行で財源を調達すればすむことになる)。

それではどのようにして財源を確保するのか。

茂木氏は「現状では増税や国債発行で捻出することは想定していない。まずは歳出削減の徹底や既存の保険料収入の活用で、できるかぎり確保したい」と主張している。ポスト岸田を目指す茂木氏にすれば、国民が猛反対する「増税」も、財務省が猛反対する「国債発行」も、避けたい。できれば「歳出削減の徹底」だけを訴えたいところだが、「異次元の少子化対策」という以上、かなりの予算を確保しなければリアリズムを欠く。そこで、それ以外の財源として見つけ出したのが、年金や医療に使う「社会保険料」だった。

茂木氏は、安倍政権で財務相を務めた麻生太郎副総裁を後ろ盾にポスト岸田への足場を固めようとしている。麻生氏や財務省を敵に回すわけにはいかず、国民に不人気な「増税」は打ち出せてなくても、「国債発行」だけは口にできないという事情もあろう。

ここでポイントとなるのは、消費税、所得税、法人税などの「税金」が財務省のポケットに入るのに対し、年金や医療などの「社会保険料」は厚労省のポケットに入るという図式である。「税金」は財務省が使い道を決められる財務省利権であり、「社会保険料」は厚労省が使い道を決められる厚労省利権であると言い換えてもよい。

歴史を振り返ると、財務省と厚労省は財源の調達合戦を繰り広げて来た。財務省を「ノーパンしゃぶしゃぶ」接待などのスキャンダルに直撃した1990年代、厚労省は好機と見て介護保険制度の導入を推進し、新しいポケットを手に入れた。2000年代になると、今度は厚労省に年金未納問題などのスキャンダルが相次ぎ、財務省が反撃に出て、消費税増税論議を進めた。

税金も社会保険も同じ国民負担である。財務省は税金を上げ、厚労省は保険料を上げ、激しい財源調達合戦を繰り広げるうちに、国民負担は膨れ上がり、ついに47・5%となった。江戸時代の「五公五民」の状態だ。この30年、賃金はほとんど上がっていないのに、財務省と厚労省のぶんどり合いで国民負担ばかりが上昇し、もはや「百姓一揆」寸前という状況なのである。

以上の文脈で考えると、茂木氏の「社会保険料の活用」に対し、加藤厚労相が「年金や医療に使う金を子どもに持っていく余地はない」と激しく反発した理由もおわかりだろう。厚労省の財布である社会保険料に勝手に手を突っ込むなというわけだ。

茂木氏と加藤氏の対立は、財務省と厚労省の代理戦争ともいえる。どっちも国民のことは二の次で、お互いの省益確保に躍起なだけだ。

続いて政局面から。

茂木氏は岸田政権で麻生氏の後押しで幹事長に就任し、その勢いで茂木派の会長の座を射止めた。岸田政権は第2〜4派閥の麻生派(麻生副総裁)、茂木派(茂木幹事長)、岸田派(岸田総裁)が主流派を占める体制といってよい。

一方、加藤氏は茂木派の有力幹部である。義父の加藤六月農水相が安倍晋三元首相の父・安倍晋太郎氏の盟友だったため、両家は密接な関係を築いてきた。加藤氏が安倍政権で官房副長官→厚労相→自民党総務会長とトントン拍子に出世し、菅義偉政権では官房長官に就任したのも、安倍氏の後押しがあったからだ。

加藤氏は首相候補に躍り出て、茂木氏と激しく派閥会長を競い合った。しかし、岸田政権で麻生氏の後押しを受けた茂木氏が幹事長に就任して優位に立ち、派閥会長に就任。加藤氏は茂木氏の後塵を拝することになった。安倍氏が急逝したことも加藤氏にとっては痛手だった。

だが、茂木派は必ずしも茂木支持で固まっていない。とくに実質的な派閥オーナーで参院を中心に政界引退後も隠然たる影響力を残す青木幹雄元参院議員会長は「茂木嫌い」で知られ、加藤氏や次世代ホープの小渕優子元経済産業相を後押ししてきた。派閥若手には茂木氏のエリート臭を敬遠する空気も根強い。

岸田首相も当初は麻生ー茂木ラインと結束して最大派閥・清和会を封じ込め、反主流派の菅義偉前首相や二階俊博元幹事長と対抗する体制をつくったが、昨年秋に旧統一教会問題や閣僚の辞任ドミノで内閣支持率が急落した後、ポスト岸田への意欲を隠さなくなった茂木氏への警戒感を強め、すきま風が吹き始めた。

岸田首相は5月12日、茂木派のパーティーに出席して、茂木氏を「政界随一の頭脳」と持ち上げつつ、「私としても、うかうかしてはいられない」「日本が大事な時なので、もうしばらく、当面は岸田政権をど真ん中で支えてほしい」と話し、茂木氏を露骨に牽制した。

加藤氏は菅前首相、清和会の次期会長レースの先頭を走る萩生田光一政調会長、二階派の有力幹部である武田良太元総務相と派閥横断的に結束し、茂木氏に対抗する構えだ。岸田首相、菅前首相、萩生田政調会長、二階元幹事長らによる「茂木包囲網」が出来つつあり、茂木派に所属する加藤氏と小渕氏は、茂木氏の足元を揺さぶる政局カードといってよい。

最近では、日韓議員連盟会長に就任した菅前首相が尹錫悦・韓国大統領と面会する際、岸田首相から小渕氏を同席させるように要請され受け入れたことが明らかになり、さまざまな憶測を呼んだ。岸田首相は小渕氏を寵愛する青木氏とも接触を重ねている。岸田首相の最側近である木原誠二官房副長官は小渕氏と親しく、茂木氏を更迭する代わりに小渕氏を官房長官に起用する案も浮上している。

異次元の少子化対策の財源をめぐる「茂木氏vs加藤氏」の対立は、岸田政権を今後を大きく左右する権力闘争の側面も大きいことがおわかりいただけただろうか。政策・政局の両面から分析しないとこの対立の全貌は見えてこない。


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