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麻生氏に反対され断念した岸田首相の「茂木切り」〜得をしたのはメンツを守った麻生氏だけ?岸田首相と茂木氏の損得勘定は?

岸田文雄首相は9月の内閣改造・自民党役員人事で、茂木敏充幹事長を交代させるつもりでいたが、土壇場で麻生太郎副総裁に反対され、茂木氏を留任させることにしたーーマスコミ各社はおおむねそのような方向で報じている(FNN『幻となった「茂木はずし」 麻生氏進言で首相、葛藤の決断』)。

岸田首相はポスト岸田への意欲を隠さない茂木氏への警戒感を強め、両者の間にはすきま風が吹いていた。菅義偉前首相や二階俊博元幹事長と親密な公明党も茂木氏との関係はぎくしゃくし、東京では自公の信頼関係が「地に落ちた」(石井啓一・公明党幹事長)と言われるほど一時は悪化していた。

私も、岸田首相が茂木氏を交代させ、菅氏や二階氏に近い森山裕選挙対策委員長か、あるいは茂木派の次世代ホープである小渕優子元経済産業相を幹事長に据え、「茂木外し」を進める可能性は十分にあるとの見方を示してきた。

一方で、茂木氏を幹事長にねじ込んだ麻生太郎副総裁が茂木氏続投を強く主張していることから、茂木氏交代で麻生氏を説得できるかどうかが大きな焦点となるとも指摘してきた。

茂木氏を留任させるか交代させるかは、岸田首相が今後の政権運営で、麻生氏を引き続き最大の後ろ盾とするのか、菅氏や二階氏との連携に舵を切るのかを見定める最大のポイントだったのである。

これまでのマスコミ報道によると、結果は茂木氏留任に。つまり、岸田首相は麻生氏に軍配をあげた。つまりは麻生氏に茂木氏留任を迫られ、決然と振り切ることができなかったのである。

岸田首相は最終決断を下さすに外遊に飛び立った。帰国後に茂木氏と会談して最終決定する考えだが、首相不在の間に麻生氏主導で「茂木氏留任」の外堀は埋まっており、帰国後にひっくり返すのは至難の業だろう。

これにより、第二派閥・麻生派ー第三派閥・茂木派ー第四派閥・岸田派を主流派とする現体制は維持され、菅氏と二階氏は引き続き非主流派となる。最大派閥・安倍派の後継会長が決まらない状況に乗じて、岸田首相は安倍派を分断しながら、来年秋の自民党総裁選で過半数の支持を獲得する戦略を進めていくことになろう。

それでは、岸田首相はなぜ麻生氏に軍配をあげたのか(なぜ麻生氏を振り切れなかったのか)。

もちろん麻生氏は「岸田政権の生みの親」であるというのが大きな理由なのだが、麻生氏も高齢で影響力が低下しつつあり、麻生氏頼みで来年秋の総裁選を勝ち切れるのかという不安もあったことだろう。だからこそ、茂木氏交代を画策したのだ。

岸田首相が麻生氏を切れなかったのは、以下の理由があると私はみている。

①麻生氏や茂木氏が窓口となって交渉してきた国民民主党との連立構想が浮上したこと。これは麻生氏らが自ら煽ったフシがあるが、それでも国民民主党の連立入り交渉を水面下で続けるとなれば、窓口役の茂木氏を幹事長から外しにくい。麻生氏や茂木氏はそれを狙って国民民主党との連立構想を流布し、外堀を埋めたとみられる。

②公明党との関係が修復に向かったこと。これも茂木氏留任の環境を整えるため、麻生氏や茂木氏が公明党との関係修復に急いだ結果とみていい。

③菅氏側近の秋元真利衆院議員が東京地検特捜部に再生エネルギー事業をめぐる受託収賄罪で逮捕されたこと。この事件は原発推進のための「国策捜査」との見方があるが、それに増して菅氏への政治的牽制と側面もある。麻生氏や茂木氏と検察東京の関係は定かでないが、内閣改造・党役員人事直前の強制捜査が麻生・茂木ラインに有利に働いたのは間違いない。

④福島第一原発の海洋放出への対抗措置として中国が日本の水産物の全面禁輸に踏み切り、日本国内で反中感情が高まったこと。岸田首相は当初、中国との関係改善に向けて親中派の二階氏に訪中を打診したが、中国政府の対応が硬いうえ、国内で反中感情が高まったことを受けて、対中強行姿勢を示して支持率回復につなげる姿勢に転じた。麻生氏は台湾有事などを煽って対中強行姿勢を示してきた経緯があり、日中関係の悪化も麻生氏の追い風になったとみていい。

以上の理由に加え、私は、麻生氏が岸田首相に対し、土壇場で「来年秋の自民党総裁選で茂木氏が岸田首相を引きずり下ろして出馬することはない」と約束し、警戒感を解いたのではないかとみている。

これは岸田首相と麻生氏の二人だけの極秘やりとりでウラを取るのは難しいが、そのくらいの「約束」がなければ、岸田首相が茂木氏留任を受け入れるのは難しかったのではないか。

岸田首相は帰国後に茂木氏と会談して、来年秋の総裁選への対応を確認するつもりだろう。だがその場で茂木氏が「総裁選に出馬します」と伝えるとは思えず、「岸田首相を支えます」と言われたら切り捨てることはできまい。

政界の一寸先は闇である。岸田内閣の支持率がさらに低下すれば、茂木氏が「口約束」を破って来年秋の総裁選で岸田首相に対抗して名乗りをあげる展開もゼロとは言えない。そのときに「約束が違う」と言っても、後の祭りだ。

とはいえ、茂木氏は留任後、少なくとも当面は政権を支える姿勢をみせるだろうし、内閣支持率が回復すれば岸田首相に対抗して出馬するのは難しくなるのも事実である。その意味で政治家同士の「口約束」の効果はゼロとは言えない。

麻生氏は茂木幹事長の続投を強く主張していただけに、交代となればメンツが丸潰れである。それに増して政敵の菅氏や二階氏に近い森山氏が幹事長に就任すれば、麻生氏の影響力も大幅低下するところだった。茂木氏留任は絶対に譲れない一線だった。

それに比べ、首相の座を狙う茂木氏にとって留任が正しい選択だったかどうかはわからない。

茂木氏は来年秋の総裁選時には69歳になる。岸田内閣の支持率が回復すれば総裁選で「岸田続投」となり、茂木氏に首相の順番は回ってこなくなる可能性が高い。さりとて、岸田内閣の支持率が低下し、「岸田勇退」となれば、岸田政権失速の責任を幹事長として共有することになり、党内で「茂木支持」が広がるのは難しい。

どちらに転んでも、茨の道だ。

茂木氏は自らを幹事長に引き立てた麻生氏のメンツを守るために留任したことで、最後は自らの首相への道を狭めたーーそんな構図も十分に成り立つのである。

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