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鈴木宗男氏のロシア電撃訪問が岸田外交にも国内政局にもインパクトが大きい3つの理由〜ウクライナ1兆円支援への反発、維新失速と解散時期、森元首相の影と安倍派分裂

ロシア外交をライフワークにしてきた日本維新の会の鈴木宗男参院議員(75)がロシアを電撃訪問し、政府高官と会談した。ウクライナ戦争についてロシア主導の停戦を訴えたという。

岸田政権はウクライナ戦争勃発後、米国のバイデン政権に同調してウクライナを全面支援する一方、ロシアを敵視して経済制裁を続けてきた。ウクライナ戦争が長期化して欧米に「支援疲れ」が強まる状況を見越して、日本の国会議員として開戦後初となるロシア訪問に踏み切り、岸田外交に真っ向から異議を唱えた格好だ。

鈴木氏は今年5月にもロシア訪問を検討したが、この時は党執行部に反対されて断念した。今回は党に届を出さずに無断で訪問を決行。維新執行部は帰国後に処分する方針を示している。

鈴木氏のロシア訪問は米国一辺倒の岸田外交を強烈に批判するもので、外交政策上のインパクトは大きい。さらに国内政局的にも大きな影響を与える可能性がある。

以下、3つの視点から解説しよう。

①岸田外交への反乱

岸田首相は米国のバイデン政権に追従し、ロシアを敵視して経済制裁に踏み切った。鈴木議員のロシア訪問は岸田外交を全面否定するものだ。

鈴木議員はモスクワで記者団に「私自身、誰よりもロシアと向き合ってきた政治家だ。私はきのうきょう出てきた政治家ではない」と強調しており、並々ならず覚悟で訪問したことがうかがえる。帰国後も「ウクライナ=正義、ロシア=悪」の岸田外交を強く批判することは間違いない。

岸田首相な内閣支持率が低迷しているうえ、党内基盤も弱く、バイデン政権の支援が最大の後ろ盾だ。米国のロシア敵視政策から離れるわけにはいかず、茂木幹事長や松野官房長官は早くも鈴木氏のロシア訪問に不快感を示している。

岸田政権としては鈴木氏のロシア訪問を認めるわけにはいかない。米国に対して「鈴木氏の単独行動であり、日本政府とは全く関係ない」と説明して理解を求めつつ、日本国内に停戦機運が広がることを警戒して鈴木氏を突き放すだろう。

一方で欧米で「支援疲れ」が広がり、ウクライナのゼレンスキー政権の汚職体質に厳しい目が注がれ始めたのにあわせ、日本国内でもウクライナに対する1兆円支援などに批判が広がっている。

停戦を訴える鈴木氏の行動が一定の世論の支持を集め、「ウクライナ=正義、ロシア=悪」の善悪二元論が席巻した国内世論の変化を加速させる可能性もある。

②維新に打撃・解散時期にも影響

鈴木氏は維新に届を出さず、無断でロシアへ飛び立った。維新は帰国後に処分する方針だ。

維新は大阪万博の建設費増大問題で激しい批判を浴びており、一時の勢いを失っている。馬場代表の社会福祉法人をめぐる疑惑をはじめ、所属議員のスキャンダルも相次ぎ、政党支持率は低下傾向だ。

このままでは「次の衆院選で立憲民主党から野党第一党を奪う」という目標にも黄信号が灯りかねない。

そこへ追い打ちをかけたのが、鈴木氏のロシア訪問だった。維新はウクライナへの全面支援を掲げており、党の外交方針とはまったくあわない。そのうえで党に無断で渡航した以上、看過するわけにはいかない。ここで毅然とした対応を取らなければ、政党支持率の下落に拍車がかかる恐れもある。

維新の失速は、岸田首相の衆院解散戦略にも影響を与えそうだ。

自民党にとって立憲よりも維新が脅威となるなか、維新が失速しているうちに解散に踏み切るべきだという声が自民党内から高まるだろう。

岸田首相は今のところ早期解散には慎重とみられるが、党内から早期解散を求める声が高まれば、それを制止すること自体が来年秋の自民党総裁選の再選に向けてマイナスに働く恐れがあり、早期解散論に押し流される可能性は否定できない。

③鈴木氏の背後に森元首相 安倍派にも激震

さらに事態を複雑にしているのは、鈴木氏の背後に、プーチン大統領と親しい森喜朗元首相の影がちらつくことだ。

森元首相は、鈴木氏がロシア訪問直前に開いた政治資金パーティーに「鈴木さんを支えて下さる、お集まりの皆さん、森喜朗です。ウクライナ問題で、私と鈴木さんは同じ考えです。ウクライナだけが善くて、ロシアが悪いという、一方的な価値観には同意しません。私も鈴木さんも日ロ関係の将来、重要性を考えて行動してきましたし、これからも進めて参ります」という電報を送った。森氏と鈴木氏は密接に連携してロシア外交を展開してきたのだ。

ふたりの関係は小渕恵三政権にさかのぼる。当時、森氏は幹事長、鈴木氏は剛腕官房長官と呼ばれた野中広務氏のもとで官房副長官を務めた。

私は当時、朝日新聞政治部の官邸担当記者だったが、野中官房長官の権勢はすさまじく、安倍政権下の菅義偉官房長官以上だったように思う。鈴木氏は野中最側近として政権中枢を大手を振って歩いており、その姿は岸田政権の木原誠二氏と重なるものがある。

鈴木氏はこの小渕政権で外務省への影響力も強め、北方領土交渉をはじめ日露外交に絶大な影響力を持つようになった。小渕首相が病に倒れ、森氏が首相を受け継ぐと、鈴木氏は森氏をロシア外交へ引きずりこみ、プーチン・森の蜜月関係を築く立役者となったのである。

森政権が倒れ、小泉純一郎政権が誕生すると、鈴木氏の後ろ盾である野中氏は失脚し、鈴木氏は北方領土支援をめぐる汚職事件で逮捕された(ムネオハウス事件)。鈴木氏はこうして失脚したが、そのあとは北海道の地域政党である新党大地を歌手の松山千春さんとともに結成し、国政へ復帰。実刑確定で国会議員を失職した後は維新に接近し、再び国政へ返り咲いたのである。

その維新との決別覚悟で踏み切った今回のロシア訪問。森氏とは緊密に連携し、欧米に広がるウクライナ離れと維新失速という国内外の情勢を見極めて最後の勝負に出たといえるだろう。帰国後、維新に処分されてもそう簡単には引かないに違いない。

森氏が鈴木氏に同調してロシア外交を全面に進めることになれば、岸田首相との関係が軋むことは避けられない。安倍派5人衆は森氏への配慮を続けるのか、岸田首相との関係維持を優先するのか、それぞれ問われる局面がくる可能性があり、そこで共同歩調をとれなければ安倍派分裂の引き金を引く可能性もある。


鈴木氏は帰国後、維新執行部と会談する予定だ。そこでどのような処分が決まるか。その後、鈴木氏がどのような発信をしていくのか。岸田外交に加え、衆院解散を含む国内政局への影響を注視していく必要がある。

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