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保守分裂の長崎知事選で「新人を推して勝った維新」と「現職を推して負けた立憲」の明暗〜次の石川知事選も同じ構図に?

保守分裂の激戦となった長崎県知事選は、新人で医師の大石賢吾氏が4期目を目指した現職の中村法道氏を541票の差で破る大接戦だった。大石氏は39歳で、現職知事としては全国最年少となる。

541票差の大接戦、多選現職の敗北、全国最年少知事の誕生…話題満載の知事選となった。投票率は前回を11ポイント上回る47.83%。最も有権者の多い長崎市では15.62ポイント上昇した。無党派層を含む県民の関心を高める知事選だったといえるだろう。

そのなかで私が注目したのは、勝利した新人を日本維新の会が推薦し、敗北した現職を立憲民主党県連と国民民主党県連が支持していたという事実である。昨年の衆院選で躍進し今夏の参院選で立憲民主党から野党第一党の座を奪うことをめざす維新と、支持率が低迷して求心力が下がるばかりの立憲民主党が明暗を分けたのだ。

わずか541票の差による勝敗が両党に及ぼす影響は極めて大きいのではないか。今夏の参院選の行方を読み解くうえでもこの知事選はしっかり考察したほうがよい。

まずは長崎県知事選の構図を整理してみよう。

自民党県連は新人の大石氏を推薦した。現職の中村氏の前任知事として過去3回は中村氏を支援した自民党の金子原二郎農相が、今回は世代交代を訴えて大石氏の支援に回ったことが最大の要因である。金子農相は今夏の参院選長崎選挙区(改選数1)に出馬を予定しており、絶対に負けられない知事選だった。

これに対し、自民党県議の半数近くは現職の中村氏を支援した。現職知事は県議と密接な関係にあり、これはよくある構図である。農業団体など主要な業界団体の多くも現職支援に回ったようだ。農業団体からは「参院選で金子農相を本気で支援することはない」と反発がでており、たしかに保守分裂のしこりは残るだろう。だが、それが金子農相に与えるダメージはさほど大きくないのではないか。

読売新聞の出口調査によると、自民支持層の過半数は現職の中村氏に投票したという。これに対し、新人の大石氏は長崎市や佐世保市など大票田で得票を伸ばした。県を二分する激しい保守分裂選挙は、「39歳」「医師」「新人」というイメージで無党派層を引き寄せた大石氏が最後は現職の組織力をしのいだといっていい。

知事選は一般的に現職が圧倒的に強い。高齢多選に批判が高まることはあるが、今回敗れた中村氏は4期目を目指す71歳。他県にはさらに高齢多選の知事が少なくないことを踏まえると、まだまだ実力健在という感じがする。それでも清新な有力候補が現れて大接戦に持ち込まれると、「現職」「高齢」「多選」というイメージは足を引っ張るのだろう。

参院選長崎選挙区は知事選と同じ1議席を争う構図である。自民党の金子農相は77歳。野党が清新な新人を擁立すれば安泰とは言えない。金子農相が今回の知事選で「39歳・医師」の新人の支援に転じて勝利したことは、自らの参院選をにらんで巧妙に立ち回ったようにみえる。自民支持の業界団体が多少そっぽを向いても彼らが参院選で野党支持に回ることはない。それよりは清新なイメージの知事の支援を受けるほうが参院選は安泰だ。

これとは対照的に、立憲民主党が多選高齢の現職知事を支援して敗れたダメージは計り知れない。

地方行政では「共産を除くオール与党」で現職を支持することが多い。とりわけ長崎県のように参院選で改選議席1の地域はそうだ。立憲民主党を支援してきた連合はおおむね現職支援にまわる。それだけ地方行政の現場で知事や市長と密接な関係を維持しているのだろう。

今回の長崎県知事選でも立憲が現職支持に回ったのはごく自然の流れだったのかもしれない。「共産を除くオール与党」で現職を応援する通常の知事選なら「まいどのこと」でやり過ごすことができた。

今回は自民党が分裂した。夏に参院選を控えるなかで、自民党はふつうは分裂選挙を避ける。にもかかわらず、平然と自民党内の権力闘争を繰り広げたのは、野党があまりに弱いからだ。自民党内にしこりが残っても参院選で野党に議席を奪われることはないとたかをくくっているから安心して「分裂選挙」ができたのである。

自民分裂は立憲民主党にとって千載一遇の好機のはずである。自民分裂につけ込んで自民支持層を分断し、野党支持へ引き込むチャンスが訪れたのだ。さらに「勝ち馬」に乗ることができれば、1議席を争う参院選で互角の勝負に持ち込める可能性もあった。

ところが、立憲民主党は今回、多選高齢の現職を自民支持層の業界団体と一緒になって支援して敗北するという最悪の選択をしたのである。しかも、勝利した新人を推したのは今夏の参院選に出馬予定の金子農相だ。新人は立憲民主党が得票を伸ばさなければならない長崎市など大票田で得票を伸ばしたのだった。自民党に挑む野党第一党として最悪の負け方である。

さらにダメージを大きくしたのは、「打倒・立憲」を掲げて参院選で躍進を狙う維新が新人の支援に回ったことだった。このあたりの維新の勝負勘は優れている。立憲が「守旧派」の支援に回るとみるや、敵対する「新興勢力」を応援し、「改革派」のポジションを奪ってしまうのだ。

長崎県知事選はその構図にピタリとはまった。地方行政における立憲の「与党との馴れ合い体質」を維新に見事に突かれてしまった。さらに立憲の現職支持の背後には守旧派のイメージが強い連合の影がちらつくからなおさらタチが悪い。「躍進する維新・凋落する立憲」の明暗が如実に現れた知事選だったといえるだろう。

長崎市などの無党派層の多くは今回の知事選で立憲に「古い政治」のイメージを抱き、逆に維新には「新しい政治」のイメージを抱いたのではないか。立憲にとってはとてつもなく痛い敗北となったのだが、はたして立憲自身にその自覚があるのかどうかが疑わしい。事態はかなり深刻である。

話は長崎で終わらない。2月24日告示の石川県知事選も似たような構図なのだ。

石川県知事選は保守が三分裂する激戦の様相である。森喜朗元首相に近い元衆院議員の馳浩氏、参院議員を辞職したばかりの山田修路氏、地元で知名度の高い金沢市議の山野之義氏の三つ巴だ。このうち馳氏と山田氏はともに自民党最大派閥の清和会(安倍派)出身で、まさに「自民分裂」の大激戦なのである。これも長崎同様、野党が弱すぎるからこそ自民は参院選前でありながら安心して内部闘争を繰り広げられるのだ。

さて、ここで注目すべきは、馳氏である。すでに菅義偉前首相や高市早苗政調会長、河野太郎広報本部長ら岸田政権と距離を置く実力者の支援を取り付けているのだ。そのうえ、維新も馳氏を推薦しているのである。

菅氏と維新の蜜月ぶりは有名だ。高市氏の後見人は安倍晋三元首相である。安倍氏と菅氏は反岸田政権で手を結びつつある。そこへ維新も岸田政権批判を強めているーーそうなると、石川県知事選の構図は中央政界の政局に直結するきな臭さが漂う。

そしてきょうの本題。この石川県知事選で立憲民主党は社民党や馳氏と距離を置く地元の自民議員とともに、山田氏を支持しているというのだ。これは長崎県知事選と瓜二つの構図ではないか?

マスコミ各社は長崎県知事選と石川県知事選を取り上げて「保守分裂で自民党は参院選にしこりが残る」という報じ方をしているが、私にはピンとこない。自民党は参院選の一人区である長崎でも石川でも野党に負けるはずがないと確信しているからこそ、安心して知事選で分裂しているのだ。むしろ長崎と石川の知事選で注目すべきは「維新vs立憲」の明暗である。野党の主役交代の動きが地方でもじわじわ侵攻していると読み解くのが的確な政治分析であろう。

石川県知事選で馳氏が勝利すれば、維新は参院選に向けて北陸進出の足がかりをつくることになる。「躍進する維新」と「凋落する立憲」の明暗を映し出すような知事選になる可能性が十分にある。立憲は長崎に続いて石川でも「保守分裂」につけ込むどころか「保守分裂」に乗じた維新につけ込まれるという結果を招きそうな予感が私はしている。

立憲民主党、ピンチである。打つ手打つ手のめぐりが悪い。どんどん維新に切り崩されていく。悪い流れを断ち切る起死回生の一手が欲しいところだが、そのような兆しは感じられない。党勢が凋落するときはそのようなものなのかもしれない。

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