旧NHK党(政治家女子48党)の党首争奪をめぐる泥仕合に私はまったく興味がなかった。テレビや新聞が黙殺する一方、ネットニュースでは大きな関心を集めているため、フリーの政治ジャーナリストとして事態を把握しなければならないという思いを抱きつつ、おぞましい内紛の経緯を追うこと自体が面倒に感じ、見て見ぬふりをしていたというほうが正直なところである。
しかしプレジデントオンラインの若手編集者は許してくれなかった。ついにこの問題について執筆依頼が届いたのである。
私がプレジデントオンラインに寄稿しているのは、彼が朝日新聞政治部の後輩記者だったという縁からだ。この経緯は『プレジデントオンラインで私を担当する編集者は朝日新聞政治部の後輩!』に記したが、私はプレジデントオンラインへの寄稿テーマは自ら決めず、彼の注文に従うことに決めている。そのほうが思わぬテーマが舞い込んできて、自分自身の執筆領域を広げることにつながると考えている。
もちろん記事内容は私の取材・分析に基づくものだが、あくまでも執筆テーマの決定を彼の若い感覚に委ねているのだ。
前回寄稿した『なぜ28万人がガーシーに投票したのか…「暴露系YouTuber」があっという間に国会議員になれた本当の理由』というテーマも彼の発案だった。私はガーシーにほとんど関心がなかったが、執筆依頼を受けて一から情報を収集した。その結果、自分ひとりでは思いつくことのなかったオリジナル溢れる記事が出来上がったと自負している。
それでも今回の旧NHK党(現・政治家女子48党)のお家騒動は、ガーシー騒動以上に気が引けた。その理由を私は今回の寄稿で以下のように記している。
双方が連日ツイッターでののしり合い、通帳のコピーまでネット上に飛び交う暴露合戦はあまりに急展開で、最新の形勢をアップデートして把握しているのはよほどのマニアだけだろう。
暴露系ユーチューバーのガーシー氏の除名騒動に困惑して拒絶反応を示した多くの有権者にとって「政治家女子48党」の「創始者(立花氏)」と「池上彰氏の娘役(大津氏)」による党首争奪戦はもはや常軌を逸した劇場型政治でしかなく、話題にすることさえはばかられる異次元の政治ニュースとなった。
一方で、一部ネットメディアの報道は過熱し、興味のある人とない人では決してわかりあえないニッチな政治現象と化したのである。
この引用部分だけ読んでもわけがわからない読者は、ぜひプレジデントオンラインの記事をお読みいただきたい。結論を言うと、私がまったく興味を抱いていなかったこのテーマを掘り下げるうちに、私はこのニッチなミニ政党の稚拙でおぞましい内紛から、主要政党にも通底する「政党助成金」の問題を再発見したのだ。
旧NHK党内の泥仕合は、私たちの税金を原資とする政党助成金の分捕り合戦である。同じ図式は、実は自民党や立憲民主党などの主要政党にも当てはまるのだ。旧NHK党のお家騒動は、それを極めて稚拙に、極めて単純化して、私たちにわかりやすく可視化したのである。この問題を掘り下げれば、税金に依存したこの国の政党の根本問題がくっきり浮かび上がってくる。
という経緯で生まれた今回の記事『旧NHK党3億円、自民159億円、立民68億円…日本の政治を変質させた「政党助成金」は本当に必要なのか』にも私は満足している。記事はヤフーにも配信されてアクセス件数も多く、コメント欄もにぎわったようだ。
やはり一人の発想・企画力には限界がある。振られた仕事は受けてみた方が良い。そこには思わぬ世界が広がっている。食わず嫌いは自分の可能性を狭める。
朝日新聞社に退職届を出してすぐにSAMEJIMA TIMESを創刊し、最初にはじめた連載『新聞記者やめます!』で評判の良かった記事に『新聞記者やめます。あと51日!【著作権との出会い〜「置かれた場所で咲きなさい」は本当だった】』がある。私が朝日新聞特別報道部のデスクとして仕切った原発事故をめぐる調査報道の責任を問われて記者職を解任され、著作権を管理する知的財産室という内勤職場に異動になったことが、のちに小さなメディアSAMEJIMA TIMESを独力で創刊する大きな原動力になったという話なのだが、久しぶりにそのコラムを思い出した。