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野田元首相「安倍国葬参列」に続く「国会追悼演説」で自民・立憲は急接近〜消費税増税をめぐる「自公民3党合意」再来か

安倍晋三元首相の国会追悼演説を担うのは、立憲民主党の最高顧問である野田佳彦元首相に決まった。

岸田文雄首相は今夏、自民党のキングメーカーである麻生太郎副総裁の意向を受け入れ、麻生派重鎮の甘利明元幹事長に打診した。ところが、政治とカネをめぐる問題を抱える甘利氏の起用に与野党から異論が噴出。岸田首相は人選を白紙に戻して追悼演説の実施時期も秋の臨時国会に先送りしていた。

家族葬で友人代表の弔辞を述べたのは麻生太郎元首相、国葬で友人代表の弔辞を述べたのは菅義偉元首相。それに続いて国会で弔辞を述べるのも首相経験者としたほうが、たしかに収まりは良い。

現役国会議員の首相経験者は自民党には麻生・菅両氏以外にはいない。野党には野田氏をのぞくと菅直人氏だけだ。首相経験者から選ぶとすれば、自民党とそりがあわない菅直人氏よりも野田氏がマシと考えるのは、自民党としては自然な発想だろう。

しかし、野田氏起用にはそれにとどまらない思惑が込められている。私はサメジマタイムスやサンデー毎日などで「野田元首相の起用説」を唱えてきたが、そこに込められた政治的意図を改めて解説しよう。

岸田首相は内閣支持率が続落するなかで、野党第一党の立憲民主党を引き寄せたい。それはなぜか。

最大のライバルである菅義偉氏は野党第二党の日本維新の会を引き寄せることで野党を分断し、政局の主導権を握ってきた。これに対抗し、岸田首相や麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長らは立憲と密接な関係にある連合に接近し、維新を遠ざけている。立憲との連携を深めて維新の後ろ盾である自民党内の菅氏ら非主流派を牽制する狙いがある。

そればかりではない。岸田政権で主導権を取り戻した財務省は、岸田政権のうちに消費税増税を実現させることを目指している。念頭にあるのは2012年、当時の野田佳彦・民主党政権と野党だった自民、公明両党が消費税増税を決めた「3党合意」の再現だ。当時の首相の野田氏は財務相も歴任した「ミスター・消費税」である。

立憲民主党の泉健太代表は今夏の参院選で惨敗した後、野田政権で副総理を務めた岡田克也氏を幹事長に、財務相を務めた安住淳氏を国会対策委員長に起用。政党運営の主導権は岡田・安住両氏が掌握した。この岡田氏と安住氏は当時の「3党合意」の立役者であり、財務省としては願ってもない政治状況が出現したのだ。

自民党と立憲民主党の融和モードを醸成し、消費税増税を話し合うテーブルをまずはつくりたいーーそのシナリオの第一弾が、野田氏が安倍国葬に参列したことだった。

立憲は安倍国葬に①執行部は国葬実施を決めたプロセスに抗議して欠席②その他の議員は個々の判断ーーという姿勢で臨んだが、野田氏は最高顧問であるものの執行部ではないため、彼の「人生観」に基づいて参列したのである(菅直人氏は欠席した)。立憲執行部のあいまいな方針は野田氏の参列に道を開くものだったのだろう。この時点で「野田氏の国会追悼演説への起用案」はすでに水面化で検討されていたに違いない。

野田氏の国葬参列、そして追悼演説ーー。財務省をはじめ消費税増税派が描く「自民と立憲の融和シナリオ」がついに動き始めたのだ。

立憲民主党の泉代表が10月5日に行った代表演説をみて、私は「自民・立憲の融和モード」が醸成されつつあると強く感じた。

たしかに泉代表は旧統一教会問題や安倍国葬の決定プロセスを批判していたのだが、内閣支持率が続落するなかで国民世論が岸田首相に向ける怒りに比べると極めて穏当な追及にとどまったという印象を受けたのである。

二つの印象的な場面を振り返ろう。

まずは泉代表が安倍国葬を欠席した理由を述べた場面である。

安倍元総理の死を悼み、心よりご冥福をお祈り申し上げます。私も奈良の現場、そして家族葬でも参列し、弔意を捧げました。しかし、国葬へは参列しませんでした。弔意はあれども、あまりに国の儀式として決め方に理がない、法がない、基準がないんです。国会の関与なく、内閣の独断で、政治家を国葬にできてしまう国で良いはずがありません(中略)

今後このような分断と混乱を繰り返すべきではありません。私が総理なら、超党派で今後のルールを決定する場を国会に設置します。総理、いかがでしょうか。

泉代表は安倍氏が凶弾に倒れた奈良の現場を訪れ、家族葬に参列したことを強調した。そのうえで国葬に参列しなかった理由について「弔意はあれども、あまりに国の儀式として決め方に理がない、法がない、基準がない」と説明している。

ここから読み取れるのは、泉代表は安倍元首相の国葬そのものに反対したのではなく、あくまでも国会が関与しないで内閣が一方的に国葬実施を決めたプロセスに反対したということだ。

裏を返せば、仮に岸田政権が安倍国葬の実施について事前に国会に諮っていたら、泉代表は賛成し、堂々と参列した可能性が濃厚だ。かりに国民世論の多数が反対でも国葬実施を決定するプロセスに問題がなければ(例えば多数決で可決されたら)欠席しなかったことを示唆した発言とも受け取れる。

そのうえで泉代表は「私が総理なら、超党派で今後のルールを決定する場を国会に設置します」と提案している。これは与野党が協議する枠組みを新設して「政治家を国葬にするルール」を一緒につくろうと呼びかけているのだ。

泉代表は「権威(天皇)と権力(首相)を峻別している日本国憲法下で元首相を国葬にすること」や「日本社会を敵と味方に分断してきた安倍氏を国葬にすること」自体には反対していないのである。そればかりか国葬実施のルールを与野党で決めて今後は積極的に実施していこうというわけだ。

泉代表の「国葬反対」は所詮、手続論に矮小化したものである。政治信条はきわめて薄っぺらく、政治思想はきわめて浅いとしかいいようがない。(私が政治家の国葬に反対する理由は『安倍氏は天皇じゃない!権威と権力の峻別をあいまいにする「国葬」の危うさを今日こそ噛み締めよう!』を参照)

それにも増して見逃せないのは、泉代表からは「今後の国葬実施のルールづくり」を自民・立憲の話し合い(融和)を進めるきっかけにしようという狙いが透けて見えることだ。野田元首相の国葬参列や追悼演説に沿った自民・立憲の融和モードの一端とみて間違いないだろう。「国葬実施のルール」の次のステップに「消費税増税」が来ても不思議ではない。

続いて泉代表が、統一教会問題でマスコミの追及から逃げ回っている細田博之衆院議長に異例の「質問」をする場面である。

安倍元総理と統一教会との密接な関係は親子3代にわたり、自民党内ではとくに安倍派(ここで議長席を振り返り細田博之議長をみる)細田派といわれる清和会が深く関係を築いてきた。総理違いますか?

細田議長(再び議長席を振り返る)、あなた自身その中心人物として、4つの会合への出席、関連団体の名誉会長就任、選挙の支持を得ていた、これを認めましたね(三たび議長席を振り返る)。いま、うなずいていただきました。しかし、あなたが示した一枚紙ではまったく説明不足であります。もっと真相を語るべきです。議長、答弁していただけませんか?(四たび議長席を振り返る)答弁できぬようでしたら、しぐさでお答えいただきたいと思います。寄付金を受け取ったり、パーティ券の購入はありませんか?(五たび議長席を長時間振り返る)お答えいただいていないようです。

国会の代表質問は、内閣に対して行うものであり、泉代表が衆院議長に向かって質問を投げかけたことについて代表質問後、与党だけではなく共産党からも苦言を呈する声があがった。

国会と内閣の関係からして原則論はその指摘とおりなのだが、私がここで問いたいのは、もっと現実政治に関連したことである。

泉代表が何度も議長席を振り返って細田議長に答弁を迫るこの場面は、彼の代表質問のなかでもっとも注目されることになり、マスコミ各社もこの場面を報じたところがおおかった。つまり泉代表の最大の見せ場は「細田議長の追及」だったのだ。マスコミ報道が細田議長追及に力を入れている時にそれに便乗するのは効果的だと考えたのかもしれない。

しかし岸田首相にとっては清和会(安倍派)出身の細田議長に批判が集中することは悪いことではない。むしろ細田議長が「風よけ」となって国葬の強行実施や物価高への無為無策の追及をかわせるのならありがたいくらいである。

泉代表もそのくらいは見通しているはずだ。それでもなお、細田議長の追及を「最大の見せ場」として演出したのは、岸田首相との全面対決を避ける意図があったと私はみている。

もし、泉代表が内閣支持率が続落する岸田首相をさらに追い詰めようとするならば、この日の質問のメインに掲げるべきは、岸田首相が長男の翔太郎氏を首相秘書官に起用した「公私混同人事」であった。

ところが泉代表はこの長男起用人事の追及を、このあと登壇した西村智奈美代表代行に委ねたのである。そして西村氏も「最後に簡潔に質問いたします」「余計なお世話ですが、支持率低下の最中の人事として理解できません」と最後に取ってつけたかのように軽く追及しただけだった。

岸田首相は、最も突っ込まれたくないテーマをかわし、細田議長へ矛先を向けた泉氏から秋波を感じたのではないだろうか。

野田元首相の国葬参列と追悼演説、そして泉代表の代表質問。この流れからして自民と立憲の歩み寄りはいっそう進み、その先には消費税増税が待っているーーとの見方を私はいっそう強くした。

ユーチューブ動画でも解説したのでご覧ください。

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