政治家の妻が「妻です」というタスキをかけて選挙活動するのは「家父長制」の香りを漂わせ、多くの女性を不快にさせるのでやめたほうがいい!?
昨年秋の衆院選で立憲民主党の小川淳也衆院議員の「香川1区」をルポしたライターの和田靜香さん。彼女が選挙戦最中に小川氏と妻明子さんに投げかけた率直な問いかけから勃発した大騒動は、新刊『選挙活動、ビラ配りからやってみた。「香川1区」密着日記』(左右社)の名場面である。
昨年暮れ、この場面にフォーカスした書評『和田靜香vs小川淳也 待望の新作『選挙活動、ビラ配りからやってみた。「香川1区」密着日記』のここだけは必読の名場面』をサメタイに掲載したところ、賛否両論、たくさんのご意見をいただいた。そのなかでも多かったのは「『妻です』のどこが悪いのか?」という反論だった。
実に奥深い論争である。
立憲民主党はジェンダー平等を強く訴えている。「個人名」ではなく男性を中心とした役割である「妻」とのみ記されたタスキを不快に思う女性がフェミニストはじめ多く存在する以上、外した方がよい。そう訴える和田さん。
政治家は有権者の意識と離れられない。香川1区の地域性もある。「妻です」のタスキには妻の覚悟が込められている。自分たち家族にはそれぞれの思いがあり、積み重ねて来た歴史がある。そう反論する小川氏。
両者譲らぬ論争の結末は和田さんの新刊に譲るとして、この場面は政治とは何か、選挙とは何かをえぐりとる強烈な問題提起であった。もちろん簡単に結論が出る問題ではない。答えはひとつではなかろう。確実な答えが見つからないなかでも前に進み続けるしかないのが現実政治であるーー。
と、わかりきったようなことを書いている私のもとへ、新年早々、サメタイの記事を手弁当で校閲してくれる北海道在住のSさんから、思わぬ「変化球」の問いかけがメールで届いた。
タスキの妻とか娘がダメだとすれば、『おかん』はどうなんですかね(笑)。
そのメールには、れいわ新選組から今夏の参院選大阪選挙区に出馬すると表明したタレントの八幡愛氏が、母親と一緒に年初の街頭演説に立った写真が添えられている。そして、その母親がかけているタスキには「おかん」と赤字でデカデカと記されていたのだ。
私は思わず笑ってしまった。そして我にかえり、真面目に考えた。「妻」はダメで、「おかん」はいいの?
八幡氏は「おかんタスキ」の母の写真を堂々とツイッターに掲げている。それに対し、私の知る限り、ツイッターなどでフェミニストらから批判の声はあがっていない。
八幡氏はれいわ新選組が売り出し中の大石あきこ衆院議員と並ぶ「大阪の二枚看板」。小川氏は立憲民主党の政調会長に抜擢された「注目株」。その小川氏の「妻です」は賛否入り乱れる論争を呼び、八幡氏の「おかん」は笑って素通しされる。
いったい、この違いはどこからくるのか。
「妻」と「おかん」の違いか?
「香川」と「大阪」の違いか?
「立憲」と「れいわ」の違いか?
「小川氏」と「八幡氏」の違いか?
小学6年生まで大阪の隣の尼崎で育った私は「おかん」のタスキを受け入れている。中学・高校の6年間を「香川1区」で過ごした私は高松高校の同級生である小川氏の妻明子さんが「妻です」のタスキをかける気持ちがよくわかる。
ああ、わけがわからなくなってきた。
そこへ北海道在住のSさんから追い討ちをかけるようにメールが届いた。「八幡愛と愉快な家族たち」が運営するツイッターアカウント「やはた家!」で「生おかん」の動画を発見したというのだ。
私はこれをみて再び笑ってしまった。そして、ますますわけがわからなくなってしまった。「妻」はダメで、「おかん」はいいの?
妻もおかんも良いのだという立場に立てば、そんなに難しい問題ではない。だが、ここはあえて「妻」はダメだという立場に立って考えてみてほしい。「おかん」も「個人名」ではなく「役割」だからダメなのか。それとも「おかん」は単なる「役割」ではなく「人格と個性」を伴っているから良いのか。ならば「おかん」は良くて「母」ならダメなのか?
いずれにしろ「妻」には不快感を抱く人がいるのは間違いないが、「おかん」に不快感を抱く人は少なそうである(不快感を抱く人がいたらごめんなさい)。
ここには何か「政治」というものを考えるにあたり、あるいは「政治と言葉」や「政治と文化」や「政治と風土」というものを考えるにあたり、とても重要で本質的な奥深い何かが潜んでいるような気がする。それを突き詰めて掘り下げるのが政治ジャーナリストのひとつの役割なのだが、この「妻」と「おかん」についてはなかなか答えが見つからない。う〜ん、難しい。
八幡氏の「生おかん」の動画をひとりで繰り返し再生して見ていると、ますますわけがわからなくなってきた。
そこで読者のみなさんにきいてみよう。この「妻タスキ」と「おかんタスキ」の違い、どう思いますか?
選挙活動で政治家の妻が「妻です」タスキを、母が「おかん」タスキをつけることをどう思いますか。
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そういえば、ライターの和田さんも正月早々、こんなツイートをしていた…