政治とマスコミを斬る
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和田靜香vs小川淳也 待望の新作『選挙活動、ビラ配りからやってみた。「香川1区」密着日記』のここだけは必読の名場面

ライターの和田靜香さんが小川淳也衆院議員との1年にわたる徹底問答の軌跡を著した『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』(左右社)に続いて、小川氏の選挙を追った新刊『選挙活動、ビラ配りからやってみた。「香川1区」密着日記』(左右社)が刊行された。大島新監督のドキュメンタリー映画『香川1区』と連動した一冊である。

映画「香川1区」はSAMEJIMA TIMESで紹介させていただいた(下記参照)。その後、小川氏当人から私に電話がかかってきた。「まあ、50を過ぎるとなかなか変われんわ」と言いつつ、立憲民主党の政調会長になっても市井の人々との対話を最重視していく決意が伝わってきた。かつて自治官僚として赴任した沖縄の地を訪れて青空対話集会を行い、そこへかつての上司が足を運んでくれたことをとても喜んでいた。

正直で誠実な我が友・小川淳也のストイックな「狂気」の先にあるもの〜映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」の続編「香川1区」を観て

ちなみに和田さんの前作『時給はいつも最低賃金〜』もSAMEJIMA TIMESでいち早く紹介させていただいた。下記の書評は大きな反響を呼び、それをみたマスコミやジャーナリストらから和田さんのもとへ取材依頼が相次いだという。長年、最低賃金で働いてきた和田さんの本の売り上げに多少なりとも貢献できてほんとうによかった。

最低賃金で働いてきた56歳フリーライターと小川淳也衆院議員の1年にわたる徹底問答の記録が本になった〜立憲民主党に欠落しているものがここにある!

きょうは和田さんの新作『選挙活動、ビラ配りからやってみた。「香川1区」密着日記』の書評である。和田さんが今秋の衆院選で香川1区に入り、小川氏の選挙活動に参加しながら、政治について、選挙について、日本社会について、考え抜くルポだ。

すでに各方面で様々に紹介されているので、私はこの本の「最大の売り」と目される場面にフォーカスしてみたい。ちょっと遅くなってしまってゴメンナサイ、和田さん。

のらりくらりと柔らかい筆致が続くかと思うと、急転直下で緊迫した場面に突入する。緩急をつけた展開力が物書きとしての和田さんの持ち味であろう。土俵の真ん中でがっぷり四つで組んだ後にまわしを一挙に引き寄せ瞬く間に寄り切る相撲のようだ(プロの相撲ライターからみたらあまりに稚拙な表現かも。和田さん、スミマセン)。

その場面は、本の最終盤に突如としてやってくる。和田さんは、小川氏が勝利を収め支援者らが歓喜にわいた一部終始を紹介したうえ、小川氏の「対話型選挙」を絶賛した後、いきなりこう書き進めるのだ。

ところで。私と小川さんの間でも、短い間だったけど、対話があった。いや、対話というより、騒動かな? とても大切なことだし、小川さんからも「書けばいい」と言われたので、書かせてください。

それは小川氏の妻の明子さんと娘の友菜さん、晴菜さんが選挙期間中につけていた「タスキ」をめぐる出来事だった。明子さんのタスキには「妻です」、友菜さんと晴菜さんのタスキには「娘です」と大きく書かれていた。これに対し、和田さんのもとへフェミニストの作家アルテイシアさんから以下のDMが届いたのである。

「妻です」「娘です」タスキが一部の女性から批判されています。「個人名」ではなく、男性(小川さん)を中心とした「役割」で女性を呼ぶことは、家父長制の香りがしますし、時代遅れかな〜と感じます

ツイッターでは同様の指摘が広がっていた。フェミニストであると自覚する和田さん自身もタスキの言葉に以前から「モヤっていた」という。

和田さんは意を決して小川氏ではなく明子さん本人にメールを送った。フェミニストの女性たちがタスキに家父長制の香りを感じていることを率直に伝え、今からでも変更することを促す内容だった。

明子さんからは「ありがとうございます。小川と相談します」という返信がすぐに届いた。ここから大騒動に発展する。このタスキをこれまでとおり身につけるのか、外すのか、文字を変更するのか、小川事務所は選挙戦最中にてんやわんやの大論争になったらしい。明子さんはタスキを外し、小さな名札をつけることになった。

翌日、和田さんが街頭演説で明子さんに会うと、いつものニコニコ笑顔が消えている。駆け寄って言葉をかける和田さんに、明子さんはこう話したのだった。

あのタスキは私も喜んでしているわけではないんです。でも、私たちの家族、なにより自分の決意の表れなんです。覚悟を示しているものです。だから、それを取れと言われるのは、私にはとてもつらいんです

そして明子さんは「この名札じゃ、目立たないでしょう?」と、胸元につけた名前入りの小さな名札を触ってため息をつくのだった。

ここからの場面は、この本の最高のクライマックスである。香川県立高松高校時代から小川氏と明子さんの双方を知る私には何ともシビれるシーンなのだが、二人と直接の面識がない読者も緊迫感みなぎる場面に惹き込まれたのではなかろうか。

やっぱり私、余計なことを言ってしまったのか? でも。でも。多くの女性たちが、あのタスキに違和感を抱き、そのことが小川さん自身の評価さえ下げている(中略)どうしたらいいのか。何が正解なんだろう?ーー和田さんは謝ることもできず、何とも言えず、そのまま明子さんのもとを離れてしまう。

和田さんはこのあと、このタスキ騒動について、ついに小川氏本人と対峙するのである。そこで、明子さんが和田さんのメールをみて、すごく当惑して泣いたことを聞かされる。小川氏はつづけて「僕たち家族にはそれぞれの思いがあり、積み重ねて来た歴史がある。この地域での選挙のあり方もある」と切り出すのだ。

ここから先の「和田靜香vs小川淳也」の徹底問答は、実にシビれる。前作の『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』で展開された「取っ組み合い」の政策論争をしのぐ迫力だ。選挙という剥き出しの現実を目の前にして、人生観をぶつけあう真剣勝負である。どちらも譲らない。選挙戦の真っ只中に「対話」を超えて「生き様を賭けた大論争」をしていたことに驚愕する。この場面はすごい。

人気急上昇の政治家である小川氏に面と向かって、しかも全国から小川支持者が馳せ参じる選挙陣営の真っ只中で、たった独りで立ち向かう和田さんの物書きとしての覚悟。その和田さんの闘争を真正面から受け止めて内面を吐露し、すべてを書き明かすことを承諾した小川氏の政治家としての覚悟。どちらもすさまじい。

このあたりの数ページにわたって読者をぐいぐい引きずり込む描写は、和田さんの真骨頂である。ここはぜひ、原文を読んでいただきたい。

和田さんの文章はとても読みやすい。だが、読みやすいばかりではない。そこには、強烈なジャーナリズム精神がみなぎっている。大手新聞社の記者たちがすっかり忘れてしまった批判精神である。それを培ったのは最低賃金で働いてきた日々であろう。

これは、政治とは何か、ジャーナリズムとは何かを再考させられる衝撃作である。そして和田さんが「政治とジェンダー」をテーマとして次作に取りかかることを私は密かに期待したのだった。