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最低賃金で働いてきた56歳フリーライターと小川淳也衆院議員の1年にわたる徹底問答の記録が本になった〜立憲民主党に欠落しているものがここにある!

すごい本を読んでしまった。発売間近の本である。

タイトルは「時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。」(左右社)

筆者はいつも最低賃金で働いてきたフリーライターの和田靜香さん(56)。彼女の疑問に対峙する国会議員は、映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」で一躍有名になった立憲民主党の小川淳也衆院議員(50)。私とは香川県立高松高校の同級生である。

私が和田さんと初めて会ったのは6月1日、映画「なぜ君は〜」を手がけた大島新監督にゲストとして招かれたトークイベントの会場だった。和田さんは小川議員の秘書である八代田京子さん(彼女も小川議員と私の同級生)と一緒に現れ、「いま小川さんと本を作っています」と自己紹介した。私が長く棲息してきた永田町や新聞社の世界に漂う「玄人臭」をまったく感じない人だった。

8月14日に和田さんから直接メールでゲラが送られてきて、あの時に話していた本だと思い出した。何気なく目を通し始めたのだが、読み進めるにつれて途中でやめられなくなり、他の仕事を放り出して一挙に読んでしまった。これは、すごい!

この本は和田さんの自己紹介から始まる。まずは「書き手の立ち位置」を鮮明にしているのだ。「客観中立」を装った傍観報道を量産する大手新聞社の記事とはまるで違う。この「自己紹介」抜きにこの本は論評できない。そのまま引用したい。

 私はフリーランスのライターで、和田靜香と申します。生まれは千葉県で、育ったのは静岡県。56歳。今は都内に単身で暮らしている。相撲と音楽が好きで、横綱白鵬のことになると我を忘れ、好きなバンドは全財産をはたいても追いかける。極端な性格と無鉄砲な行動で、周囲を驚かせるタイプかもしれない。
 仕事を始めたのは1985年、20歳のとき。ラジオ番組への投稿がきっかけで、音楽評論家・作詞家の湯川れい子さんのアシスタントになった。都内の彼女の自宅兼事務所でデスクワークのみならず、掃除や買い物に犬の散歩と、目につく仕事は何でもやった。
 そのかたわらで音楽誌や週刊誌の音楽欄などに記事を書き始めた。ライターとしてフリーランスでやっていけるんじゃないか? そう思って1996年に独立したものの、辞めた途端に仕事がなくなり、最初にやったことは近所のパン屋さんへのバイトの問い合わせ。面接に行く直前、ラジオ番組を構成する仕事が舞い込んでなんとかなったけど、何ら準備も心構えさえできていなかった。 
 それでもなんとかやってこられたのは、ミリオンセラーが続出した90年代のCDバブルのおかげだろう。世の中のバブルは1992年頃に崩壊したけれど、「音楽業界の好景気は世の中の動きに遅れて現れる」と、業界の先輩たちから聞かされていた。それに1990年代〜2000年代初め、まだ日本の社会にはお金を払って文化を楽しむ余裕があった。でも、私が40代も半ばにさしかかる2008年頃になると、仕事は極端に減った。CDは売れなくなり、雑誌は次々廃刊に。とはいえ私の場合、何より自分自身の勉強不足のせいだと思っている。新しい流れに、ついていけなくなった。
 それからは生活のためにライター業と並んで、様々なバイトをしてきた。コンビニ、パン屋、スーパー、レストラン、おにぎり屋さん。飲食系ばっかりになるのは、私の「食べるのが好きそう」な見た目もあるかもしれない。ちなみに、時給はいつもその時々の最低賃金だ。

東京都内に単身で暮らす56歳女性。様々なアルバイトを転々としながら何とか暮らしてきた。そこへコロナ禍が直撃する。いったい私の生活はどうなるのか。振り返れば、コロナ禍の前から私はずっと不安だった。政治や経済の仕組みは詳しくわからない。でも、これって、私のせいなのか? わからない、わからない、わからないーー心の奥底に鬱積してきた疑問を、和田さんは小川議員にそのままぶつける。それに小川議員が答えていく。この本は、ふたりの1年にわたる徹底問答の軌跡である。

最初は政治や経済の仕組みをどこか教え諭しているかのようだった小川議員。和田さんはそんな「先生」に決して媚びない。税金や社会保障、労働政策、ジェンダー問題からエネルギー政策まで、ふたりの徹底問答は続いていく。

小川議員が次々に持ち出す難解な「課題図書」を読破し、他の仕事を投げ出して次回の「徹底問答」に備える和田さん。彼女の臨場感あふれる渾身の訴えに対して「持続可能な社会」を追求する立場から容赦なく反論しつつ、時に返答に窮する小川議員。これは討論というよりは格闘である。働いても働いても生活が向上しない人々の窮状を理解していますかと訴える和田さんに、ついに声を詰まらせる小川議員…。

いったい、この世の中はどうなっているんだ! 一対一で向き合った剥き出しの真剣勝負に引き込まれ、この国の入り組んだ経済社会の仕組みが頭の中へ自然に流れ込み、不公正で不条理な諸政策への憤りが胸の奥からふつふつとわいてくる。

小川議員の持論であるベーシックインカムの創設とベーシックサービスの充実をめぐり、夫妻2人子2人で暮らしてきた小川議員と、単身生活を続けてきた和田さんが徹底問答する場面は迫力満点だ。なかでも「住む場所さえ確保できない人々」に対する住宅政策をめぐるふたりの論争は、質疑がかみあわない国会とはまるで異なり、読者をぐいぐい引き込む名場面であろう。国会中継がこれほど迫力あるものなら、NHKだけでなく民放もこぞって放送するに違いない。

1年にわたる徹底問答の途中で、小川議員がこぼした以下の言葉は、この本のクライマックスのひとつだ。

この大事な時間なんだけど、数回、議論させてもらってつくづく思うのは、正解ってないし、私と和田さんは正解を教える先生と、その生徒というものでもないでしょう。私の方がたぶん、入れてきた知識の量とか、考えてきた時間の厚みとか故に持ってるものは一日の長ではあるとは思うんだけど、でも、ものすごい馬力で急速に追いついてきてるし。 思うにこの場のコンセプトは、専門家であり、責任ある立場の人間と、普通に暮らしてきた人が、取っ組み合いで一緒に考える、それだと思う。

映画「なぜ君は〜」は政治とは何かを問う話題作だし、小川議員の著書「日本改造原案〜2050年 成熟国家への道」は大胆に問題提起する力作だが、和田さんの「時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。」(左右社)は、和田さんと小川議員のエネルギーが真正面からぶつかって想定外の化学反応を起こした前代未聞の衝撃作になるかもしれない。政権交代をめざす立憲民主党に決定的に欠落しているものがここには凝縮されている。

その「すごさ」は、以下のPR動画からも伝わるので、ぜひご覧になっていただきたい。発売は8月末。詳しくはこちら

和田さんがかつて務めた「湯川れい子さんのアシスタント」をその二代前に務めたのが、SAMEJIMA TIMES筆者同盟に真っ先に参加して「こちらアイスランド」を連載中の小倉悠加さんだそうだ。私はそのことを今回はじめて知った。人の巡り合わせというのは不思議なものである。

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