立憲民主党が連合にどこまでも付き従うのはなぜーー。プレジデントオンライン編集部から執筆依頼があったので、連合と野党第一党の歴史を紐解きながら根本的に解説する論考『 「優先するのは有権者より労働貴族」野党第1党の立民が”維新以下”にとどまる根本原因』を寄稿した。
すでにご覧いただいた読者もいるとおもうが、記事の要旨を簡潔にまとめると以下のようになる。
・連合は「自民党・経済界」に対抗する「野党・労働界」の勢力結集を目指して、公務員や教職員を中心とした旧社会党系労組と自動車・電機など大企業の社員を中心とした旧民社党系労組が1989年に一緒になって旗揚げし、1993年の非自民連立政権誕生の立役者となった。1990年代の政治改革で二大政党政治が実現した後、連合は常に自民党と対抗する野党第一党を支持してきた。
・2000年代の「小泉・竹中構造改革」で労働市場の規制緩和が進み、大企業が正社員の新規採用を抑えて非正規労働を急拡大した後、連合は組合員である正社員の待遇維持を優先して大企業と共同歩調を強め、非正規労働問題に目をつぶった。
・自民党政権が進める行政改革で公務員や教職員の定数が激減し、旧社会党系労組の発言力は低下した。連合執行部は旧民社党系の大企業労組出身者で固められるようになり、経済界へどんどん近づいていった。
・連合加盟の組合員は当初800万人を超えていたが、現在は700万人を下回り全労働者の1割程度。「労働者代表」と呼ぶに値しない状況だ。ところが、経済政策や労働政策を協議する政府の審議会に「労働者代表」として参加し、政府が「労働者の声を聞いた」というアリバイ作りに利用されてきた。
・2009年総選挙で民主党が政権交代を実現した時、連合は強くバックアップしたが、民主党が2012年に下野して分裂し、現在の立憲民主党の支持率が低迷して政権交代の機運が消失すると、自民党に急接近。今夏の参院選ではどの政党も支持しない方針を打ち出し「野党離れ」の姿勢を鮮明にしている。「自民党・経済界」に対抗する「野党・労働界」の勢力を結集して政権交代を目指すという、連合発足当初の理念は消え失せた。
・立憲民主党は連合に依存して選挙をしているため逆らうことができず、共産を含む野党共闘路線を転換。「自民党・経済界」vs「野党・労働界」という二大政党政治の構造は完全に崩壊し、立憲民主党と連合の存在意義そのものが揺らいでいる。野党第一党を支えてきた「非自民票」の多くは、新自由主義を掲げる日本維新の会と、弱者救済を掲げるれいわ新選組の第三極に流出し、立憲民主党は今夏の参院選で惨敗して野党再編に発展する可能性が高い。
最後の「野党再編」や「維新vsれいわ」についてはYouTube動画でも解説した。
これに対し、政治倶楽部会員のカイトアキラさんからコメント欄に鋭いご質問をいただいた。以下はその要約である。
・公明党が自民党との相互推薦を見送るという動きが気になる。公明党が本気で自民党と袂を分かつなら、自民離党組・連合・公明が合流した「旧新進党」の復活が現実味を帯びてくる。
・維新は公明党とすでに大阪の選挙区で棲み分けしており、維新・公明の連携はさほどハードルは高くない。
・維新・公明の枠組みに国民民主党が合流する可能性も十分にある。連合が新自由主義の維新と連携することはありえないという見方もあるが、連合はすでに大企業の影響を強く受け、自治労や日教組の発言力は低下しており、これもさほどハードルが高くないのではないか。
・維新・公明・国民民主の合流が現実味を増せば、立憲民主党は野党第一党を守ることが困難となり、野党第一党でなければ選挙で勝ち残れない議員たちの相当数が維新・公明・国民民主へなだれ込み、「旧新進党」のような野党第一党が誕生するだろう。
・このような「旧新進党」の枠組みが復活するかどうかは公明党次第だ。公明党の本気度を鮫島氏がどう見ているかを知りたい。さらに「旧新進党」が復活した場合の共産党とれいわ新選組はどうすべきだと考えるか。
たいへん鋭いご質問。カイトアキラさん、ありがとうございます。
まず公明党が自民党と距離を置き始めている昨今の政治状況については『公明党「参院選で相互推薦見送り」に二階・菅・古賀氏の影〜自公連立が揺らぎ、その先に政界再編はあるのか』で詳しく解説させていただいた。
簡潔に説明すると、私は現在の公明党の動きについて、岸田政権下で非主流派に転落した菅義偉前首相や二階俊博元幹事長、さらには岸田政権の後見人である麻生太郎副総裁や茂木敏充幹事長と不仲な古賀誠元幹事長や青木幹雄元官房長官が公明党・創価学会との強いパイプをいかし、党外から岸田政権を揺さぶっているものとみている。公明党にとっても、さほど親しくはない麻生氏や茂木氏が自民党中枢を牛耳るよりは、密接な関係にあった菅氏や二階氏が復権するほうが好ましい。
つまり公明党に「自民党と袂を分かつ」覚悟が現時点であるとは考えていない。むしろ公明党には連立与党の旨味が浸透しており、政権与党から転落することは絶対に避けたいと考えているだろう。その意味で「旧新進党」の枠組みづくりを主導する可能性は低い。
一方で、公明支持層には自民党との長い連立政権で「平和」の理念が大きく崩れてきたことなどへのフラストレーションも溜まっている。岸田政権を揺さぶる目的で始まった「相互推薦の見送り」がパンドラの箱を開け、自民党に対する不満が噴き出すという展開はありえる。自公連立はひとつの節目にさしかかっているのは間違いない。
そこで「旧新進党」復活を目指す動きが具体化し、政権交代のリアリズムが高まってきたら、公明党が便乗する可能性は捨てきれない。逆にいうと、政権交代のリアリズムが高まらない限り、公明党が野党転落を覚悟して自民党と決別する可能性は低いだろう。まずは維新や連合が手を結んで「旧新進党」の枠組みづくりをはじめ、政権交代のリアリズムを高めるところまで持っていけるかどうか。そこが「公明党の参加」のポイントとなる。
だが、維新と連合の連携のハードルは高い。カイトアキラさんが指摘するとおり、連合は大企業重視の姿勢を強めており、維新との垣根は低くなっているのは事実だ。ただ、連合が維新と全面的に連携するとなると、さすがに旧社会党系労組はついていけず、連合自体が分裂する可能性が高い。
「改革政党」を名乗る維新にとっても、行政改革や民営化に抵抗する既得権側との印象が強い連合と連携することはイメージ低下を招く恐れがあり、抵抗が強い。まずは大阪で公明党と棲み分けしたように、首都圏でも公明党と連携することで首都圏進出を果たし、立憲民主党を惨敗・解党に追い込んで野党第一党の座を奪うことを最優先するのが現時点の維新の戦略だろう。
自民党はそもそも新自由主義から弱者救済まで包み込む「国民政党」を標榜してきた。自民党に対抗する民主党も幅広い支持獲得を目指し、政党の基本軸がはっきりしなかった。
だが、日本は人口減社会に突入し、あれもこれもを実現する国力を失った。そのなかで「大企業優先の新自由主義を掲げる維新」と「弱者救済を優先するれいわ」という対極の2政党が台頭し、自民・立憲民主という二大政党がともに埋没していくのが大きな政界の流れになると私はみている。
以上の立場を踏まえ、カイトアキラさんの最後の質問に答えるとすれば、れいわは、埋没していく立憲民主党とは一線を画したうえ、新自由主義と真っ向対決する立場から「非自民・反維新」を鮮明に掲げ、第三極として独自路線を強めることが党勢拡大の近道だろう。共産党は立憲民主党が埋没し、さらには連合とともに自民や維新との連携を探り始める以上、れいわとの連携を強化していく以外に道はないのではないか。