立憲民主党と日本維新の会の共闘が終焉した。維新の求めに応じるばかりだった立憲幹部からは一転して維新批判が飛び出し、維新もこれに応戦して、決裂は決定的となっている。
立憲が維新と決別したのは、永田町で自民党発の「解散風」が急に吹き始めたからだ。
維新が立憲から野党第一党を奪うという目標を鮮明に掲げて今春の統一地方選に躍進したのを目の当たりにし、さらには永田町に「解散風」が吹き荒れてようやく、このまま維新に追従していたら衆院選惨敗は避けられないという現実に気づいたのだった。
自民党が解散風を吹かせた大きな目的〜野党分断〜は早くも達成されたといえる。慌てて衆院解散を断行しなくても、維新と立憲が反目すれば、自民は双方を天秤にかけ、当面の国会対応は楽勝だ。
自民党は老獪だ。「解散風」を国会対策上の戦略として吹かせることがある。私は今回もその典型とみている。
立憲は昨夏の参院選で惨敗した後、共産党やれいわ新選組との野党共闘を見限り、「自公の補完勢力」と揶揄してきた維新との国会での共闘に大きく転換。敵基地攻撃能力保有など安全保障政策や国会での憲法論議でも維新に急速に接近し、立憲結党の理念は根底から揺らいでいた。
高市早苗大臣の追及の先頭に立ってきた立憲の小西洋之参院議員を維新の要求に応じて懲戒処分したことは「維新に屈する立憲」の印象を広げた。
衆院本会議で5月9日、国内の防衛産業を強化する法案を衆院の95%の議席を占める自民、公明、立憲、維新、国民5党の賛成で可決したことは、国会が与党一色に染まる「大政翼賛体制」の出現を予感させる光景だった。
自民や維新との激突を避ける立憲に対して世論の支持は広がらず、政党支持率は低迷を続け、今春の衆参補選は全敗。一方で、維新は今春の統一地方選挙で躍進し、立憲幹部からは次の衆院選で維新と選挙協力することへの期待感が強まっていた。しかし維新は立憲を突き放し、選挙協力には絶対に応じない姿勢を鮮明にしていた。
永田町で「6月解散ー7月総選挙」の観測が急速に広がるなか、立憲内では、このまま衆院選に突入したら野党第一党の座を維新に奪われるのは避けられないという危機感が強まった。維新が選挙協力に応じない以上、維新との対決路線に逆戻りして「反自公、反維新」の票を取り込む選挙戦略に立ち返ったのである。ご都合主義というほかない。
まずはこの間の維新追従による安全保障政策の転換や憲法論議への対応の誤りを認め、野党支持層に謝罪し、執行部の責任を明確にすることが先である。維新との共闘路線を主導した泉健太代表、岡田克也幹事長、安住淳国会対策委員長の政治責任は極めて大きい。執行部は総辞職して体制を一新しない限り、野党支持層の信頼を回復することは困難だろう。
私が以上の見解をツイートしたところ、泉代表がすぐに反応を見せた。だが、泉体制のまま衆院選に突入すれば立憲は壊滅的な打撃を受けることは避けられず、泉代表が辞任しない限り、立憲は解散直後に空中分解し、相当数の衆院議員が再選を狙って維新へ駆け込む可能性が高い。立憲という政党を維持するのなら、解散前に泉執行部は総退陣して新たなリーダーを選ぶしかないだろう(もちろんそれで立憲が復活するかどうかは別の話だが)。
立憲が、一度は裏切った共産党やれいわ新選組との信頼関係を取り戻し、野党共闘を復活させるのは容易ではない。自公与党とも事実上の野党第一党の勢いをみせる維新とも対決する「第三極」の立場から、「反自公・反維新」の無党派層の票を共産やれいわと激しく奪い合う「極めて困難な選挙戦」を強いられることになる。かつて民主党政権の仲間でありながら反目を続けてきた国民民主党との関係修復くらいしか打つ手は見当たらない。だがそれはあまりにインパクトがない後ろ向きの一手でしかない。
泉代表は、若手議員から「衆院選で200人擁立」で政権交代への決意を示すように迫られ、ついに「150議席を下回れば辞任する」と表明した。現有は97議席しかなく、かなり実現困難な責任ラインである。本人は退路を断ったつもりだろうが、政界は冷徹だ。「泉体制が衆院選後に続く可能性はなくなった」とみるや、党内の求心力低下は加速し、誰も泉代表の言うことを聞かなくなる。この発言は泉体制の寿命を縮めただけだ。
次の衆院選は「自民vs維新」の構図がクローズアップされ、立憲は埋没する可能性が高い。
政界入りをめざす有力新人たちは「落ち目の立憲」ではなく「台頭する維新」からの出馬を探るだろう。立憲がいくら「200人擁立」を意気揚々と掲げたところで、立憲から新人で出馬しても比例復活を含めて当選確率は極めて低く、有力新人たちは立憲を敬遠するに違いない。有力新人が政党を選択する段階で、すでに立憲は維新に遅れをとるだろう。
立憲議員たちはこれまで野党第一党として下駄を履かせてもらい、「与党との一騎打ち」の対決構図のおかげで本人の実力以上の票を集めて当選を重ねてきたが、今回はそれが通用しない。立憲議員たちはこのまま衆院選に突入すれば苦戦を免れないことを熟知しており、相当数が衆院選前に立憲を見限って維新に駆け込むことが予想される。
立憲と維新の野党第一党争いは「すでに勝負あった」といっていい。日本政界は自民と維新の二大政党政治という極めて危うい状況に突入しようとしている。
残る希望は、維新台頭・立憲解体によって野党再編が加速し、自民とも維新とも真っ向から戦う強力な野党が新たに誕生する兆しがあることだ。その核となるのは、立憲の一部か、れいわ新選組か、それとも兵庫県明石市や東京都杉並区などにみられる地域政党の動きか。
立憲に代わる「まともな野党第一党」をつくることが、政治改革への近道である。