岸田政権が昨年末に閣議決定した安保3文書に基づいて今後5年間に防衛費43兆円を確保するための「防衛費財源確保法」に対し、立憲民主党がにわかに徹底抗戦の姿勢を強めている。
5月10日に塚田一郎・財務金融委員長(自民党)に対する解任決議案を共産党とともに提出。12日の衆院本会議で否決されると、16日には鈴木俊一財務相に対する不信任決議案を提出し、あの手この手で法案採決を先延ばしする国会対応を急に展開しはじめた。
これまで「提案型野党」を掲げ、国会での政権追及に及び腰で、れいわ新選組の「牛歩戦術」を冷笑し、日本維新の会に歩調をあわせて「スケジュール闘争」を否定してきた国会対策方針を一変させたのである。
永田町で「解散風」が強まるなかで①維新との選挙協力が実現せず、共闘が破綻した②衆院選に向け岸田政権との対決姿勢を示す必要がある③衆院選の小選挙区で共産党に候補者を一方的におろしてもらうことを期待して信頼関係を少しは改善しておく必要があるーーの3つの事情があることは見え見えだ。
維新との共闘が破綻し、衆院選が目前に迫り、慌てて「徹底抗戦」に転じる無節操さに呆れるほかない。なぜもっと早くから徹底抗戦しなかったのか。誰がみても衆院選に向け、政権批判票を取り込むためのパフォーマンスである。有権者を馬鹿にした振る舞いだ。
昨年夏の参院選で惨敗した後、立憲は「自公の補完勢力」と揶揄してきた維新との共闘に転じ、維新に追従するように岸田政権の安保政策の大転換を受け入れてきた。専守防衛を逸脱する敵基地攻撃能力の保有も容認し、防衛費の大幅増額そのものも否定せず、防衛力の抜本的強化に理解を示してきたのである。
その象徴は、日本の防衛産業を強化するための防衛産業強化法案への賛成だった。大型連休明けの5月9日、自公与党に加え、立憲、維新、国民の野党3党が賛成し、衆院本会議で95%の圧倒的多数で同法案は可決された。反対したのは共産とれいわだけだった。
岸田政権が昨年末に閣議決定した安保3文書は、敵基地攻撃能力の保有に加え、「力強く持続可能な防衛産業を構築する」「官民一体となって防衛装備移転を進める」ことを明記し、武器輸出の対象を広げて企業支援を強化する方針を打ち出した。
防衛産業強化法案は安保3文書を具体的に実行するため、兵器製造の基盤強化や武器輸出の円滑化、製造施設の国有化のための措置などを盛り込む。自民党内ではこれを受け、殺傷力のある兵器の輸出に踏み切るべきだという声も強まっている。日本の「専守防衛」を大転換し、「平和国家」の看板を塗り替える法案といっていい。
立憲はこのような重要法案に賛成し、その結果として、同法案は衆院の95%の圧倒的賛成で可決された。与野党の対決法案にならなかったため、主要メディアはほとんど報道せず、大型連休明けのどさくさに紛れて多くの国民が気づかないまま、あっけなく可決されたのである。
野党第一党の立憲が、自民より過激な安全保障政策を唱える野党第二党の維新にすり寄り、野党第三党の国民をあわせて自公政権に同調する「大政翼賛体制」が現実とものとなりつつあることを実感させられる光景だった。
防衛財源確保法案に徹底抗戦するのなら、その大元である安保3文書に断固反対し、防衛費増額にも、敵基地攻撃能力の保有にも、そして防衛産業強化法案にも、徹底抗戦しないと筋が通らない。立憲はこの国の軍拡に反対しているのではなく、衆院選に向けて対決姿勢をアピールしているに過ぎないことは明らかであり、このような国会対応の豹変は有権者の不信を強めるばかりであろう。
立憲がジャニー喜多川氏による性加害疑惑をめぐり、ジャニーズ事務所が謝罪したとたん、関係者の声を聞くヒアリングを始めたことも「選挙向けの露骨なパフォーマンス」でしかなく、私はとても不快になった。あまりに節操がない。「なぜ今更」と思うばかりだ。
立憲が解散風が強まる中で国会での徹底抗戦に転じたところで、それは選挙向けの一時的なパフォーマンスにすぎず、衆院選が終わればまた元の「大政翼賛体制」に逆戻りするだけだろう。こんな国会はもうたくさんだ。
立憲は外国人の収容や送還のあり方を見直す入管法改正案にも反対している。当初は党内に賛成論が強くあったが、泉執行部は、維新と決別し、解散風が強まるなかで、最終的に反対を決めた。これも政治信念に基づく反対というよりも、衆院選に向けて対決姿勢をアピールする「道具」としか考えていないに違いない。
選挙の時だけ戦う姿勢をみせて有権者を欺くのはもうやめてほしい。維新へにじり寄り、最後は突き放されたこの半年間で、立憲の化けの皮は完全に剥がれてしまったのである。