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立憲民主党・泉健太代表が掲げた維新・国民との「政治改革政権」構想〜政治資金規正法改正などにミッションを絞り込んだ「緊急野党連合」は成立するか?

自民党は裏金事件で壊滅的な状況だが、野党の支持率は上がらず、政権交代の機運は高まっていない。

立憲民主党の泉健太代表は12月21日の記者会見で、日本維新の会と国民民主党に対し、来年にも予想される解散総選挙に向けて、経済政策などの違いを棚上げし、政治資金規正法の改正などミッションを絞った「政治改革政権」の樹立を目指して連携することを呼びかけた。

泉代表が打ち上げた「政治改革政権」を読み解いてみよう。

最大のポイントは、政権のミッションを①政治資金規正法の改正②ガソリン税を減税するトリガー条項の凍結解除③教育無償化ーーなどに絞り込むことである。維新や国民との間で開きのある政策は棚上げし、政治改革な世論が強く期待している政策に絞って実現する「ミッション限定型政権」をつくろうというわけだ。

次のポイントは、共産党やれいわ新選組に言及せず、あくまでも維新と国民(国民から飛び出した前原誠司元外相らが立ち上げた「教育無償化を実現する会」を含む)に対象を限定していることだ。連合が共産党を敵視していることが背景にある。

この構想の課題を、政策・政局の両面から分析してみよう。

まずは政策面から。

自民党の裏金事件を受けて、政治資金規正法の改正など政治改革が最大の政策テーマに浮上したのは間違いない。その一点で野党結集を目指すのは、一定の合理性がある。

問題はその中身だ。

泉代表は「旧文書交通費の全面公開」や「企業団体献金の禁止」を柱に掲げる考えを示した。どちらも重要な項目だが、重大な問題が抜け落ちている。政党から政治家個人への寄付である「政策活動費」だ。

政治家個人への寄付は法律で禁じられているが、政党から政治家個人へ「政策活動費」の名目で寄付することは例外的に認められている。そればかりか、政党から政治家個人へ寄付された「政策活動費」については使途を公開する必要はなく、「合法的な裏金づくり」の温床になっているのだ。

安倍派から裏金を受け取っていた議員側は、派閥からキックバックされたのは「政策活動費」と説明されていたため、収支報告書に記載しなかったと「言い訳」している。つまり、自民党から安倍派幹部個人に寄付された政策活動費が派閥所属議員たちにばらまかれても公開する必要がないことを利用し、言い逃れしているのである。

政策活動費の存在が、そのような方便を許す余地をつくっているのだ。

この政策活動費は、自民党ばかりではなく、野党も活用している。2021年の収支報告書によると、自民党は約17億円、立憲、維新、国民は数千万円を計上している。自民党のほうが圧倒的に多いのだが、野党も利用しているため、追及しにくいというジレンマに陥っているのだ。

野党が政治資金規正法の改正を掲げるのなら、この政策活動費の全面公開に加え、政党から政治家個人への寄付も禁止し、政党支部や政治資金管理団体に限るべきである。ここに踏み込まなければ、野党の決意は伝わらないだろう。

もうひとつの課題は、格差社会や物価高への対応である。

政治改革が与野党の最大の争点に浮上したとはいえ、国民の最大の関心は、物価高や経済格差の拡大にある。ここをすべて棚上げにした政権構想は支持されにくい。やはり消費税減税など根幹の経済政策は無視できないだろう。

立憲は財務省と親密だ。前回総選挙で共産やれいわとともに掲げた消費税減税の旗を降ろそうとしている。

はたして政治改革一本で政権交代につなげられるのか、トリガー条項の凍結解除と教育無償化だけで支持を得られるのか。

政治改革と並ぶ柱として「格差是正」を掲げ、その象徴的な政策として消費税減税を打ち出せるかどうかが大きなポイントであろう。

次に政局的課題をみてみよう。

維新は「打倒・自民」よりも「打倒・立憲」を強調し、野党第一党を奪取することを最優先目標に掲げてきた。立憲と連携して「政治改革政権」を目指すのは、政党戦略の大方針転換となる。はたして乗れるのか。

維新は安倍・菅政権で、松井一郎ー菅義偉のラインを窓口に自民党と連携してきた。大阪万博は自民・維新の連帯のシンボルである。自民党には維新を後押しすることで野党を分断し、立憲を低迷させる狙いもあった。

岸田政権で菅氏は非主流派に回り、維新と自民執行部との距離は開いている。それでも維新が今年度の補正予算に賛成したのは、大阪万博を人質に取られているからだ。

しかも、岸田政権が倒れて菅氏が復権すれば、維新と自民の距離は再び近づくであろう。岸田政権下での立憲・維新の連携が仮に実現したとしても、自民党内の権力闘争の行方次第でいつでも解消されるリスクがあることは忘れてはならない。

同じことは、国民にもあてはまる。自民党の麻生太郎副総裁と茂木敏充幹事長は、菅氏と維新の関係に対抗し、連合と国民に接近してきた。国民が補正予算案に賛成したのは、麻生・茂木ラインとの水面下の連携があるからだ。

国民の玉木雄一郎代表は「喧嘩別れ」した立憲よりも、麻生・茂木両氏が主導権を握る自民党へのシンパシーを繰り返し示している。現時点では自民党に裏金事件の大逆風が吹きつけているが、この逆風が落ち着けば立憲との連携へ本当に動くのか、甚だ疑問だ。

さらに立憲・維新・国民が連携して「政治改革政権」を目指す場合、トップとして担ぐ「総理候補」を誰にするのかという大問題が待っている。立憲では野田佳彦元首相を担ぐ案がささやかれるが、維新と国民が受け入れるのは相当高いハードルだろう。

一方、立憲内部には消費税減税を掲げ、共産党やれいわ、さらには泉房穂・前明石市長との連携を探る動きもある。このような動きと、維新や国民との連携を優先する泉代表らの動きは両立しにくく、立憲内で路線闘争が強まり、分裂含みの対立に発展する可能性もあろう。

泉代表の「政治改革政権」構想は、あくまでも野党再編に向けた動きのひとつと考えたほうがよい。

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