埼玉県知事選(8月6日投開票)の投票率は過去最低の23.76%で、前回を8.55ポイント下回り、これまでの全国の知事選でも最低だった。有権者の政治的無関心を問題視する論調もあるが、最大の要因は知事選の対決構図をつくって関心を引き上げなかった国政政党にあると私は思う。
今回の知事選には、再選を目指す現職の大野元裕知事、共産党新人、音楽家の無所属新人の3氏が出馬した。自民、立憲、公明、維新、国民の与野党5政党が現職の大野知事に相乗りし、投票前から勝敗は見えていた。実際に大野知事が得票全体の8割以上を獲得する圧勝に終わった。
この選挙構図では盛り上がるはずがない。全国知事選で過去最低となった投票率を埼玉県民の政治的無関心のせいにするのは筋違いだろう。「どうせ投票に行っても何も変わらない」と思うのも仕方がない気がする。
前回2019年の知事選は激戦だった。立憲、国民、社民が支持した大野氏(元参院議員)と、自民、公明が推薦した青島健太氏(元プロ野球選手、スポーツライター)の事実上の一騎打ちとなり、大野氏が競り勝った。投票率は32.31%だった。埼玉県の有権者数は600万人強。前回投票し、今回投票に行かなかった人は50万人以上いる計算だ。
これらの人々の多くは、前回与野党一騎打ちの対決構図で「政治は変わる」と期待したのに、今回は現職に与野党が相乗りして「政治に白けた」結果、投票に行かなかったと考えられる。
野党第一党の立憲にすれば、もともと野党が擁立した大野氏に自公与党が接近してきた結果としての「与野党相乗り」であり、自分たちに責任はないというかもしれない。
しかし、この主張は正しいのだろうか。
野党系の知事が誕生して最初にぶつかるのは議会対策である。議会の過半数を抑えなければ、予算案や人事案を否決される恐れがあり、県政運営が一挙に滞るからだ。たいがいの地方議会は自公与党が安定過半数を維持しており、野党系知事は自公県議たちに理解を得ながら県政を運営していくほかない。
埼玉県議会も自民党県議の割合が6割を超えており、大野知事も自民党の顔を立て、激突を回避して1期4年を務めた。この過程で自民党との距離が縮まり、自民党は今回の知事選で対立候補の擁立を見送った。大野知事支援に転じて自公与党に取り込んだ方が手っ取り早い、というわけだ。
私は1997年春から2年間、朝日新聞浦和支局(現さいたま総局)に勤務し、県政を担当していた。当時は国政選挙では枝野幸男氏ら民主党が都内へ通勤する「さいたま都民」の支持を得て勢いづいていたが、県議選など地方選挙は投票率が上がらず、自民党が圧倒的議席を獲得していた。民主党は国政での勢いを地方に根付かせることに失敗したのである。
同様の事例は全国各地で繰り返されてきた。代表例は野党系候補として横浜市長選に勝利した林文子元市長だ。当選後から横浜選出の自民党の大物国会議員であった菅義偉前首相と協調関係を結び、当選を重ねるにつれ、野党系候補のイメージは消え失せ、「根っからの自公候補」の様相を呈したのである。
大野知事も与野党相乗りで当選を重ねていくと、林元市長のようになりかねない。
立憲(旧民主党)は全国各地で野党系の知事や市長を誕生させたものの、県議会や市議会で過半数を制することができなかった(過半数を制する意欲もなかった)ため、知事や市長は議会対策の必要性から徐々に自公に取り込まれていったのである。
これとはまったく別の道を歩んだのが、維新だ。
維新は当初の橋下徹・大阪府知事ー松井一郎・大阪市長時代から府議会・市議会で過半数を獲得することを最優先目標に掲げて自民党と全面激突を続け、ついに今春の統一地方選で府議会・市議会とも単独過半数を制して公明党とも決別するに至った。大阪は維新が「完全支配」することになり、それが関西圏全域での維新の躍進、さらには立憲から野党第一党を事実上奪う現在の勢いにつながっている。
裏を返せば、立憲が地方議会で過半数を制することをハナからあきらめ、自公与党との激突を回避し、知事や市長への与野党相乗りを容認し続けてきたことが、維新に野党第一党の座を奪われつつある今の党勢凋落をまねいた最大の原因といえるだろう。
維新の馬場代表が自公与党が過半数割れした場合の連立入りの可能性に言及したことが注目を集めているが、仮に維新が連立入りした場合、維新旋風はピタリと止まり、維新は瞬く間に凋落するに違いない。維新が躍進しているのは、自公与党の受け皿にならない立憲への失望感に支えられているからであり、維新は連立入りした途端に失速するだろう。
この点、橋下氏や松井氏は「連立入り」の危険を熟知していたが、馬場代表はいまいち腰が定まっていないようにみえる。馬場体制の維新は極めて不安定なところがあり、注視していく必要がある。
一方、立憲は連合依存の体質を改めない限り、地方行政で知事や市長にすり寄る体質をひきずり、与野党相乗り体質から脱却することは不可能だ。立憲も勢いを取り戻すのは極めて困難な道のりといえる。
日本の政治が緊張感を取り戻し、有権者の政治的関心が高まって政治が大きく動き出すには、自公与党に真正面から挑む強力な野党第一党をつくる政界再編が絶対に不可欠である。
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