自民党総裁選の行方はどうなるのか。鮫島タイムスはユーチューブでもウェブサイトでも連日のように伝えているが、「政局ばかりではなく政策を報じてほしい」というお叱りの声もたくさんいただいている。
けれども、総裁選に出馬する意欲を示している10人以上について、それぞれの政策の中身を吟味することにあまり意味はないと私は思っている。なぜなら、誰が勝利したところで、彼らが唱えている政策はおそらく実行できないからだ。
なぜならこの10人余の候補者のなかに、自らの主張を貫くほど圧倒的な政治力を持つ政治家はいないからだ。
今回の総裁選は、麻生太郎と菅義偉のふたりの元首相のキングメーカー争いである。それぞれが誰を担ぎ、どちらが勝つのか。その結果として新政権の権力構造はどうなるのか(権力の中心はどこになるのか)。それ次第で政策の方向は大きく変わる。
新総裁が誰に支えられ、どのような勝ち方をするかで、新政権の政策はまるで変わってくる。本人たちの政治理念や現時点で訴える政策はあっけなく上書きされてしまう。
つまり、政策を行方を見通すためにも、政局分析は極めて重要なのだ。
岸田政権もそうだった。麻生氏に担がれ3年前の総裁選に勝利した後、2年間は麻生氏傀儡政権だった。岸田首相は重要な政策決定の際はかならず自民党本部へ呼び出され、麻生氏にあれこれと指令されていた。
昨年秋から定額減税や派閥解消など麻生氏の意向に反する政策を打ち上げて「麻生離れ」を目指したが、麻生氏との関係が冷え込み、政権基盤は揺らいだ。その結果、内閣支持率は下落し、解散総選挙も断行できず、ついには退陣表明に追い込まれたのである。
やはり自らを首相に担ぎ上げた勢力には逆らえない。だれの支援を受けて権力を掴み取ったのか。それを無視してはたちまち政権運営は行き詰まる。
今回の総裁選は本命不在の大混戦だ。なおさら候補者本人の意向は軽視され、キングメーカーや黒幕たちが介入しやすい政治状況といっていい。
国民人気トップの石破茂氏を最新世論調査で追い抜いて一歩リードした小泉進次郎氏のうしろには菅氏がいる。小泉政権が誕生すれば、菅氏の影響を大きく受けるのは間違いない。菅氏に近い政治家や官僚が要職に次々に起用されるだろう。
進次郎氏の父・純一郎氏の「小泉政権」で、麻生氏は竹中平蔵氏と経済政策をめぐって激しく対立した、竹中氏が掲げる規制緩和路線に麻生氏が強く反発したのだ。竹中氏主導で経済界が求める労働市場の規制緩和は大きく進み、大企業は人件費カットに成功して潤う一方、非正規労働者が増大し、経済格差は広がった。
この竹中路線を受け継いだのが菅氏である。最近はライドシェアを強く主張しており、小泉氏もそれに歩調をあわせている。
一方、麻生氏は小泉氏に単独で倒せる強力な対抗馬は不在と見ている。候補者の大量出馬で得票を分散させ、第一回投票で小泉氏が過半数を獲得することを阻止し、決選投票に持ち込んで2位以下の「進次郎包囲網」連合を実現させ、逆転勝利を目指す作戦だ。
麻生派からは河野太郎デジタル担当相、茂木派からは茂木敏充幹事長、岸田派からは林芳正官房長官、若手代表の小林鷹之元経済安保担当相の出馬をそれぞれ容認(あるいは側面支援)し、決選投票での連携を探るというわけだ。だれが2位になっても決選投票では2位候補に投票し、1位進次郎を倒すシナリオである。
こうなると、ますます現時点で各候補が掲げる政策やそれぞれの政治理念は無意味化してくる。各候補が強力であればその政策に党内が擦り寄ってくるが、本命不在の大混戦の場合、結局は他の陣営を引き寄せるために妥協を重ねるほかないからだ。さらには多数派工作を主導するキングメーカー(麻生氏と菅氏)の意向に沿って政策を進めるしかない。
政策報道の前に必要なのは、これから誕生する新政権の権力構造を読み解くことである。その政局分析なしに、新政権がどのような政策を進めていくのかという政策分析は決してできない。