高市内閣が船出してから、マスコミ各社の世論調査は驚くほどの高支持率を伝えている。TBSの82%を筆頭に、軒並み歴代級の数字が並び、朝日新聞の11月調査でも支持率69%という高い水準を記録した。しかも10月の発足直後より支持が上がり、不支持は下がった。内閣発足後1カ月で数字が上昇するのは異例である。
外交での華やかな演出、自分の言葉で語る国会答弁、そして初の女性総理というニュース価値――こうした要素が男女・年代を問わず高い支持につながっているのは間違いない。台湾有事発言に中国が強く反発し、日本への渡航自粛を打ち出したものの、今のところ支持率への影響は出ていない。
こうなると、自民党内で早期解散論が勢いづくのは当然だ。週刊文春は「いま解散すれば自民圧勝で単独過半数回復」という試算を掲載し、党内に期待感が広がる。年内解散は日程的に難しくなりつつあるが、1月通常国会の冒頭解散は依然として有力な選択肢だ。
しかし、だ。高支持率の内閣と、選挙で勝てる政党は別である。この“現実”をもっとも鋭く映し出したのが、葛飾区議選と福島市長選だった。
葛飾区議選──高市人気は「自民の勝利」に直結しない
11月9日に投開票された葛飾区議選は、定数40に65人が出馬する大乱戦。投票率は40%と低かったが、解散総選挙の“先行指標”として十分な材料を提供した。
自民党は17人を擁立したが、結果は7人落選の10人当選。得票率も前回を下回った。高市人気が直結すればもう少し踏ん張れたはずだが、実際は逆だ。夏の参院選よりは票を増やしている分、逆風はいくぶん弱まったと言えるものの、“支持率高い=選挙で勝てる”という単純な構図ではない。
連立離脱した公明党は候補者を8人に絞り全員当選したものの、得票は前回より減らしている。党勢縮小という大きな流れは止まっていない。
注目は、トップ当選した参政党の29歳新人だ。高市内閣で保守層の一部が自民に戻った影響で政党支持率は低下したが、現場の草の根活動では依然として強い存在感を見せた。国民民主も上位当選を確保し、勢いを維持している。
逆に、立憲・共産は勢いがみられず、れいわは1人が落選。リベラル勢力の苦戦は続いている。
福島市長選──与野党相乗り現職が惨敗の衝撃
さらに衝撃が大きかったのは、16日投開票の福島市長選だ。自民・立憲・公明・国民・社民が相乗りした現職が、33歳の新人に1万5000票差で敗れた。組織選挙ではほぼ“負けようがない”構図での完敗である。
現職は総務省出身の65歳、3期目をめざす典型的な“官僚型市長”。これに挑んだ新人の馬場氏は、以前は立憲の国会議員だったが、区割り変更で地盤を失い、離党して無所属で市長選に挑んだ。連合は現職支持で強く反発し、馬場氏側は組織的には不利とみられていた。
しかし結果は、開票前に当確の報道が出るほどの圧勝だった。市民が既存政党の相乗りにNOを突きつけた形だ。夏の参院選で参政党・国民民主が伸びた流れは続き、既存政党への不信が地方選挙でより鮮明になっている。
宮城県知事選でも、与野党相乗りの現職が、参政党の支援を受けた新人に追い上げられ、仙台市では新人が圧勝するなど、東北の空気は特に変わりつつある。
高市人気と自民党の“乖離”──1月解散の判断軸
こうした地方選挙の結果は、高市内閣の高支持率とは裏腹に、自民党への不信が根強いことを示している。内閣支持率は跳ね上がっても、自民党の政党支持率は横ばい。高市人気が自民党の選挙勝利に直結する保証は、どこにもない。
参政党など新興勢力への期待も依然として強い。既存政党に飽き、変化を求める空気が続いている。
こうした状況下で、高市総理が1月冒頭解散に踏み切れるのか。判断材料は3つある。
① 中国の対抗措置がどこまで広がるか。
台湾有事発言を受けた渡航自粛に続き、輸入禁止などに及べば、日本経済への悪影響が支持率を押し下げかねない。
② 補正予算の審議が追い風になるか。
17兆円超の総合経済対策は期待を集めているが、中身は商品券など従来型メニュー中心。国会審議を経ても期待が維持されるかがカギだ。
③ 通常国会での与野党攻防を避けられるか。
少数与党のため通常国会は厳しい展開が予想される。予算と法案を通すために譲歩が続けば、支持率はじわじわと下がる恐れがある。だからこそ、1月冒頭解散が現実味を帯びてくる。
来年度予算を年度内成立させるには、年明けすぐ国会を召集し、その直後に解散する必要がある。“勝負所”は年末、高市総理が腹を固めるかどうかだ。
12月の世論調査で高市人気が維持されるか。これが最大の指標になる。