安倍支持層に絶大な人気がある高市早苗氏が自民党総裁選に出馬を表明した。
世論調査の国民人気では、石破茂氏、小泉進次郎氏に次ぐ第三位。石破氏も進次郎氏も菅義偉陣営のため、上位二人の決選投票に勝ち残れば、菅氏とキングメーカー争いを続ける麻生太郎氏が高市氏に乗って逆転する可能性がある。
総裁レース本命に躍り出た進次郎氏にとっては、石破氏よりも脅威といえるかもしれない。
高市氏は前回総裁選に安倍晋三元首相に担がれて出馬し、岸田文雄氏、河野太郎氏に継ぐ3位だった。安倍派の中堅・若手には右寄りの政策を掲げる高市氏への親近感があるものの、無派閥の高市氏を安倍氏が担いだことに安倍派5人衆は不満を募らせ、高市氏を敬遠してきた経緯がある。
安倍氏が銃撃事件で他界したことで高市氏は唯一の後ろ盾を失って孤立化。今回の総裁選でも推薦人20人を集めるのに苦労した。
だが自力で推薦人を確保して出馬すれば、安倍支持層の熱狂的な支援をうけ、党員投票では善戦が期待できる。進次郎氏が選択的夫婦別姓など右派に不人気の政策を掲げたことで、右寄りの党員票が高市氏になだれ込む可能性は十分にある。
国会議員たちも進次郎氏が勝利することで一挙に世代交代が進むことを恐れる空気があるうえ、石破氏は安倍氏や麻生氏に毛嫌いされてきたことから、消去法として高市氏を選ぶ可能性もある。
展開次第では、高市氏が2位に食い込んで進次郎氏との決選投票へ進む展開はありえるだろう。決選投票まで進めば、進次郎氏と同じ菅陣営に属し、安倍派や麻生派に毛嫌いされている石破氏よりは、高市氏のほうが進次郎氏を逆転する確率は高いのではないか。
課題は安倍支持層以外に支持を広げられるかどうかだ。
米国には高市警戒論が実は強い。ウクライナ戦争後、ロシアと全面対決しているうえ、中国とは覇権を争っており、米国は日米韓の連携をアジア外交の基本としている。韓国では親日政権が誕生し、日米韓の連携はずいぶんと円滑になった。そこへ右派の高市政権が誕生し、歴史問題などを再燃させ、日米韓の連携がきしむことを米国は最も警戒しているのだ。
自民党は対米重視派がやはり多い。米国の警戒感が強まれば、決選投票で高市氏に1票を投じることをためらう議員も少なくない。
高市氏が逆転するには、持論の右派的主張をやわらげるしかない。しかしそうなると頼みに安倍支持層の期待に応えられない。ここに高市氏のジレンマがある。
これを乗り越えるには、逆に進次郎氏への警戒感を煽るしかないだろう。
43歳の進次郎氏の首相就任に、先を越される50〜60代は世代交代を恐れて抵抗を感じる向きもある。そこを刺激すれば、進次郎政権阻止の立場から決選投票では高市氏を選択するベテラン勢は少なくないだろう。
さらには進次郎氏が打ち上げた「聖域なき規制改革」にも反発する議員は少なくない。解雇規制の見直しは厚労族議員の反発が予想されるし、ライドシェアの全面解禁は運輸族議員が抵抗する。進次郎政権が強大化すれば規制改革の分野は農業など他分野にも広がるだろう。この反発を煽れば、高市氏にも勝機がでてくるかもしれない。
進次郎氏にとって最大のライバルは高市氏かもしれない。今後、総裁選でどのような論戦を仕掛けてくるのか注目だ。