自民党内で石破茂首相への反発が広がっている。とりわけ総裁選の決選投票で逆転負けした高市早苗氏や総選挙で非公認とされた安倍派5人衆の萩生田光一氏のふたりは、石破執行部への不満を露骨に示している。
総選挙で安倍派は大量落選し、壊滅的打撃を受けた。ただちに石破おろしに動く力はない。しかも自公与党は過半数割れし、いま石破おろしを仕掛ければ自民党分裂による政界再編を誘発して野党に転落する恐れもある。
とはいえ、石破内閣の支持率は衆院解散前の50%台から総選挙後は30%台に急落し、来夏の参院選は石破首相では戦えないとの見方が自民党内で広がっている。来年春の予算成立までは、少数与党の厳しい国会運営を石破政権に委ねるものの、予算成立を機に退陣を迫り、新しい首相のもとで来夏の参院選に臨むというのが反主流派の相場観だ。
とはいえ、反主流派も一枚岩ではない。高市氏や萩生田氏はどう動くのか。
高市氏は総裁選に敗北した後、石破首相から総務会長ポストを打診されて固辞し、「党内野党」の立場を鮮明にした。次の総裁選に再挑戦するには、高市氏を9月の総裁選で支持してくれた安倍派を中心とした勢力が総選挙で勝ち上がる必要がある。
高市氏は総選挙で全国を応援で駆け巡った。ところが、安倍派は候補者50人のうち当選したのは22人という大惨敗。裏金議員46人は18勝28敗で大きく負け越した。高市氏が応援に入った約40人の落選率は6割にのぼったのである。裏金批判は強烈だったのだ。
安倍派の壊滅で、高市氏は支持基盤を失った。仮に石破首相が来春に退陣しても、総裁レースに勝ち上がる道は険しい。
しかも石破退陣後の「緊急の総裁選」は、総裁任期満了に伴う9月の「正規の総裁選」と違って、党員投票はなく、国会議員票だけで決する。
高市氏は無派閥で、党内基盤は弱い。9月の総裁選でも推薦人20人を集めるのに苦労した。党員投票に押し上げられて決選投票へ勝ち進んだのである。国会議員だけの緊急総裁選ではかなり不利だ。しかも支持基盤の安倍派議員は大量落選し、国会を去った。形成は相当に不利である。
9月の総裁選では、麻生太郎元首相が政敵である菅義偉元首相に近い小泉進次郎氏や石破氏を警戒し、高市支持に回ったが、今回も麻生氏が乗ってくれる保証はない。
高市氏は総選挙後、SNSで自らを「役職もない自民党のヒラ政治家」と称し、「12日間の選挙期間のうち、11日間は選挙区外で過ごした」と投稿。「党本部からガソリン代や高速道路の通行料金が支給されるわけでもない」「選挙後も、特に党役員から慰労の御言葉を頂いたわけでもない」と、執行部に露骨な不満を示した。今後の政局展望が開けない焦りをにじませたといえるかもしれない。
安倍派5人衆で裏金額トップだった萩生田氏は、岸田政権下では5人衆で最も軽い「役職停止1年」の処分で逃げ切った。安倍派の事務総長を歴任していなかったとして、政治倫理審査会への出席も免れていた。
ところが石破政権には「政倫審に出席しなかった」ことを理由に公認を外された。無所属で東京24区に出馬し、大接戦を制して勝ち上がったのである。
総選挙最終盤に非公認候補にも「裏公認料」2000万円が支給されていたことが発覚し、大逆風にさらされた。萩生田氏は選挙戦最中に、怒りを押し殺すような表情で「ありがた迷惑な話だ」と執行部を批判する動画を配信していた。
激戦の総選挙を終えて、11月1日にネット番組に出演し、「反論もせずに戦ったが、非公認にするにはそれなりの根拠が必要だ」「(政倫審に出席しなかったのは)党の判断。それを持って説明責任を果たしていないといわrたことは腑に落ちない」と不満をあらわにした。さらに「いろいろな意味で吹っ切れた。少しずうずうしく前面に出てやれることをやりたい」「一度死にかけた。『俺は後ろの方で守っているから、みんな前に出ろよ』というわけにはいかない」とも述べ、これからは遠慮せず、政局を仕掛ける姿勢を鮮明にした。
石破首相については「就任して1ヶ月。支持率が低いからどんどん変えたら政権が不安定化する」と述べ、当面は静観する姿勢を示したが、来春の予算成立後を見据えて「石破おろし」を仕掛ける気は満々だ。