国民民主党の玉木雄一郎代表が、ガソリン税の一部を軽減する「トリガー条項」凍結解除をめぐる自公与党との協議から離脱すると表明した。
玉木代表はこれまで「トリガー条項」凍結解除を検討するという岸田文雄首相の答弁を評価して、野党ながら補正予算案に賛成するなど与党寄りの立場を鮮明にしてきた。前原誠司元外相らはこれに強く反発して離党し、新党を結成して日本維新の会との連携を進めてきた。
玉木代表は、自公与党との決別に踏み切った理由について、岸田首相がいつまで立っても「トリガー条項」の凍結解除に踏み切らないためだと説明している。だが、自民党が裏金事件で失速するなかで、今年にも予想される解散総選挙に向けて、反自民の立場を鮮明にした方が得策という政治的判断もあろう。
玉木代表は総選挙での野党共闘に向け、立憲民主党との関係修復に動き始めた。立憲も受け入れる姿勢で、「トリガー条項」凍結解除のための法案の共同提出に向けて協議していくという。連合も立憲・国民の歩み寄りを歓迎している。
野党陣営は①立憲・国民(連合)②維新・前原新党③共産④れいわーーの4陣営に割れる構図となっている。ここから選挙協力がどの程度進むかが当面の注目点だ。その先に強力なリーダーが登場して野党再編が進むかどうかも焦点となる。
だが、玉木代表の「豹変」には、もうひとつ見逃せない視点がある。
玉木代表が水面下で交渉してきたのは、麻生太郎副総裁と茂木敏充幹事長だった。麻生氏はこれまで岸田ー麻生ー茂木の「3頭政治」(主流3派体制)に君臨するキングメーカーだったが、岸田文雄首相が派閥解消を表明したのを機に主流3派体制は崩壊。岸田首相と麻生氏の関係が冷え込んだ。
玉木氏はこれまで麻生氏や茂木氏と連携してきた立場から、それに連動し、岸田政権との距離を置いたという見方もできる。麻生氏や茂木氏との接点は維持している可能性が高く、今後、自民党内の動向によっては再び与党寄りの姿勢に立ち戻る可能性は捨てきれない。
維新は、麻生氏の政敵である菅義偉前首相と連携してきた。岸田首相が派閥解消で麻生氏と決別し、派閥解消を訴えてきた菅氏と連携を強化すれば、今後は維新が国民と入れ替わるように岸田政権に接近する可能性もある。
これまでの野党陣営は①麻生氏と連携する国民②菅氏と連携する維新③財務省に近い立憲ーーが張り合っている状況だった。
仮に自公与党が過半数割れしても、自民党のその時点での執行部と近い一部の野党が与党に引き込まれ、連立政権の枠組みが広がるだけで、政権交代にはつながらないーーという構図だ。玉木氏が自公与党との「トリガー条項」凍結解除の協議から離脱して立憲と接近しても、その構図に大きな変化はない。
立憲と国民の歩み寄りは、総選挙でそれぞれが自分たちの議席を維持するための「一時的な連携」に過ぎず、総選挙後は自民党内の権力闘争の行方に応じて再び、立憲、維新、国民が「与党接近合戦」を繰り広げる恐れは十分にある。自民党内でどの勢力が実権を握るかによって、自公与党と優先的に協議する相手に、立憲、維新、国民のいずれかが選ばれるというわけだ。
これではいつまで経っても自公与党の優位は動かない。総選挙で自公与党を圧倒できる強力な野党リーダーを軸とした野党再編が不可欠である。