衆院香川1区で当選した立憲民主党の小川淳也幹事長は、私と香川県立高松高校の同級生だが、香川2区で当選した国民民主党の玉木雄一郎代表は、高松高校の2期上の先輩である。私の姉と同学年だ。
そんな縁もあって、玉木氏とは昔からさまざまな接点がある。一言でいうと、相当な自信家である。
国民民主党の榛葉和也幹事長は「趣味は玉木代表」と公言している。玉木氏より二つ年上だが、玉木氏を太陽、自らを月になぞらえ、大袈裟すぎるほどに立てている。
たしかに、玉木氏はある種のカリスマ性を秘めている。姉によると、高校時代は「玉キング」と呼ばれていたらしい。
国民民主党は大企業系を中心とした旧同盟系労組を支持基盤とし、連合の後ろ盾を得ている。しかし、今回の総選挙で議席を7から4倍の28議席に増やした大躍進は、組織票だけでは実現できない。玉木氏がユーチューブ「たまきチャンネル」を開設して政治をわかりやすく解説し、登録者数39万人を獲得。現役世代や若年層に急速に支持を広げたことが最大の要因であろう。
私もユーチューブ「SAMEJIMA TIMES」(登録者数12.6万人)で政治解説を連日配信しているが、同じユーチューバーの立場からみれば、玉木氏は国会議員のユーチューバーとしては群を抜く存在感だ。
財務省出身ながら、財務省が忌み嫌う消費税減税を掲げていることからも、非凡さがうかがえる。
玉木氏は香川県出身の大平正芳元首相の遠戚にあたる。玉木氏が民主党公認で2009年に初当選した後、大平家関係者から私に「玉木に細野豪志さんを紹介してほしい」と頼まれた。細野氏は私と同い年で、京大法学部時代からの友人である。細野氏は当時、民主党の次世代のエースとして脚光を浴びていた。大平家としては玉木氏を政治家として後押しするため、細野氏とのつながりを求めたのだろう。
ところが、会食の場で玉木氏は細野氏と最後まで親しく会話を交わすことはなかった。年は玉木氏が二つ上。東大法学部卒の元財務官僚のエリートだ。「細野、何様ぞ」という強烈なプライドを感じたものである。
同じように、小川氏との関係も複雑だった。年は玉木氏が二つ上。初当選は小川氏が先。玉木氏は財務省出身、小川氏は総務省出身。高松高校卒で同じ民主党のふたりは、最初からウマがあいそうになかった。
ふたりが民主党に所属しているときは衝突を避けようとしている気配が双方に漂っていたが、立憲と国民に袂をわかち、政治観に違いが徐々に露呈しつつあるように思う。
総選挙で自公与党が過半数を割った今、ひとりは立憲民主党の幹事長として野党各党に首相指名選挙で「野田佳彦」と書くように要請する立場となり、もう一方は、国民民主党の代表として「勝つ見込みのない野田さんに投票できない」と拒絶し、自公与党に政策実現を迫る「政界の主役」に躍り出た。
高松高校OBが政界のキーマンとして躍動するのは悪い気がしないが、ここは政治ジャーナリストとしてどちらも厳しく監視していきたいと思う。
国民民主党は与野党と「等距離外交」を展開し、キャスティングボートを握る立場となった。少数与党の石破政権をいかすもつぶすも、玉木氏次第という様相だ。
自公連立には加わらず、当面は政治資金規正法の再改正や「103万円の壁」撤廃、ガソリン税減税などを個々に要求し、自公与党に飲ませていく戦略である。
はたして、自公政権を突き動かすニューリーダーとなるのか、それとも、自公与党の補完勢力に成り下がるのか。玉木代表の正念場が続く。
石破茂首相の政権基盤は極めて脆い。自公与党は過半数を割り、自民党内は最大派閥だった安倍派、第二派閥だった麻生派、第三派閥だった茂木派が非主流派となった。いつ倒れてもおかしくはない。
だが、国民民主党の玉木代表は、石破首相の救世主になるかもしれない。「国民民主党の協力を得なければ、国会で予算案も法案を成立させることができない」ということによって、自民党内の非主流派を抑え込むことができるからだ。自公過半数割れの危機を逆手にとって、党内外で「瀬戸際外交」を展開し、政権延命を図るというわけである。
もちろん、国民民主党に反旗を翻されれば、石破政権はたちまち立ち往生する。玉木氏に命運を握られたといっていい。
キャスティングボートを握った高木氏はここからが正念場だ。総選挙で掲げた公約を実現させるには自公与党に歩み寄るしかない。公約実現が進まなければ、総選挙で国民民主党に投票した有権者を落胆させるだろう。けれども自公与党に接近しすぎると、補完勢力とみなされ、これまた有権者の反感を買うのは間違いない。
来年夏の参院選をにらんで、立ち位置の取り方は極めて難しい。
国民民主党が参院選まで勢いを維持する3条件を私なりに提示してみよう。
①国民民主党に投票した有権者の期待を裏切らない
総選挙の躍進を実現させたのは、停滞する自公政権の政治を突き動かせてほしいという有権者の期待である。総選挙の公約が遅々として実現しなければ、期待はたちまち落胆へ変わるだろう。国民民主党は次々に公約を実現していかなければ、勢いを維持できない。
まずは政治資金規正法の再改正だ。総選挙の最大の争点は「政治とカネ」だった。自公与党を惨敗させた最大の要因は裏金問題だ。岸田政権による6月の政治資金規正法改正は不十分だったのは間違いない。
今回の総選挙で、立憲や維新は企業団体献金の全面禁止を掲げたが、国民はそこまで踏み込まず、政策活動費の廃止や旧文通費の全面公開にとどめた。総選挙後に自民党と連携して「成果」を勝ち取るには、自民党が受け入れがたい企業団体献金の全面禁止は公約に掲げないほうがよいという、したたかな計算だったのだろう。
最初から自民党に譲歩しているのだから、残る政策活動費の廃止と旧文通費の全面公開は、年内に政治資金規正法を再改正してただちに実現させる必要がある。ここでいきなり躓けば、国民民主党はたちまち失速する恐れがある。
次は所得税の控除枠を拡大して手取りを増やす「103万円の壁」の撤廃やガソリン税の減税だ。年末の予算編成・税制改正に盛り込めるのかどうか。これを拒否されたらただちに内閣不信任案を出すくらいの不退転の覚悟が必要だ。
年内にここまで実現できれば順調なスタートといえる。世論はそれなりに国民民主党を評価するだろう。一方で、年内にほとんど実現できなければ、期待は瞬く間に失望に変わる。スタートダッシュが極めて重要だ。
②連立政権には加わらない
自公与党としては過半数割れを解消するため、連立政権の枠組みを拡大させたい。具体的には国民民主党を連立に引き込み、自公国連立政権を誕生させ、政権基盤を安定させたい。
いちいち個別政策で譲歩を繰り返すのは、手間もかかるし、国民民主党に完全にペースを握られることになる。当面は仕方がないとしても、個別政策の協議を通じて、国民民主党をいかに抱き込むかを狙ってくる。
国民民主党がかたくなな態度を貫けば、自民党は百戦錬磨だ。日本維新の会との連携をちらつかせ、場合によっては立憲民主党にも歩み寄り、野党同士を天秤にかけて分断する。そうして時間を稼ぐうちに、無所属議員を与党に引き入れ、野党議員を一本釣りして、過半数回復を実現させるかもしれない。
国民民主党がそこで焦って連立入りすれば、万事休す。完全に自公の補完勢力とみなされ、来夏の参院選で大惨敗して政界の主役から転げ落ちるだろう。
絶対に連立には加わらないと腹を固めておくことが肝要だ。その結果、維新が連立入りしたり、立憲が大連立に動いても仕方がないと割り切ることが重要である。その場合は来夏の参院選で国民民主党に再び追い風が吹くだろう。
③来夏の参院選前に自公と決別する
いくら公約を実現しても、自公に接近すれば、世論の批判は高まってくる。来夏の参院選では自公と対決モードに立ち戻らないと、国民民主党は議席を減らして勢いを失う。
では、どこで、どのようにして、自公と決別すれば良いのか。
年末の予算編成・税制改正で「103万円の壁」撤廃やガソリン税減税を勝ち取れば、来春の予算成立までは自公と協調路線を取らざるを得ない。勝負所は予算成立後だ。
ここでいきてくるのが、国民民主党が総選挙の公約に掲げた消費税減税である。
予算が成立したら、自公与党に対して「参院選選で消費税減税を共通公約に掲げよう。そうしたら連立入りを検討する」と持ちかける。自公与党はこれに乗るわけにはいかない。そこで拒絶されたことを大義名分に自公との決別を宣言し、参院選ではアンチ自公に立ち戻ればよいのだ。
この展開になれば、参院選は消費税減税が大きな争点となる。自公与党に加え、今回の総選挙で消費税減税の公約を取り下げた立憲民主党も逆風を浴びるだろう。
今回の総選挙で躍進した国民民主党とれいわ新選組はともに消費税減税・廃止を訴えた。来夏の参院選目前に消費税減税をめぐって自公与党と決裂し、参院選最大の争点に「消費税」を据えることができれば、国民民主党はさらに躍進するに違いない。