国民民主党が主張しているとおり、所得税の非課税枠「103万円」を「178万円」へ引き上げたら、7〜8兆円の税収不足になるーー。
自公与党が国民民主党に示した「減収見込み」の根拠を玉木雄一郎代表が公開して波紋を呼んでいる。
たった二枚の紙。作成者は財務省であろう。
そこに書かれていたのは、「基礎控除1万円あたりの減収額」に75万円をかけたら約8兆円になるという単純な計算式だけで、「基礎控除1万円あたりの減収額」の根拠は何も示されていなかった。しかも「下記の試算は10月31日時点での粗い計算であり相当の幅をもって見る必要があることに留意が必要」と赤字で書かれていた。
玉木氏は「そんな荒っぽい資料で、国民の手取りを増やす政策を阻まないでほしい」と反論している。これは玉木氏の言い分が正しいとしかいいようがない。
私は財務省を長年取材してきたが、彼らが予算編成で行っている「財政の辻褄合わせ」はその程度である。財務省主計局の官僚たちは経済学のプロではなく、一般家庭と同じように「収入の範囲内で支出を考える」という程度の発想で予算をつくっているのだ。
そしてマスコミの経済部は財務省の言い分を垂れ流して「財政破綻」の危機だと煽っている。
しかし、財務省の税収見込みはいつも大きく狂っている。昨年度の税収は72兆円で、4年連続で過去最高を更新した。財務省の見込みより、2・5兆円も上振れしたのだ。
これは当たり前のことだ。景気がよくなれば、税収は増える。なのに、財務省は景気を悪く、つまり税収を少なく見積り、税収の範囲内に支出を抑えるため、切り詰めて予算をつくる。その結果、税収は常に余るのだ。
一般家庭なら手堅い家計をやりくりということで済むかもしれない。しかし同じ感覚で国家予算をつくり、歳出を削りまくると、生活が成り立たなくなる人々が出てくる。これは憲法が保障した生存権の問題なのだ。
そもそも税金を取った分でしか予算をつくれないというのが、経済学上の大間違いである。
政府はお金の発行権を持っている。税金をとらなくても、いくらでも予算をつくることができる。もっとも、無限にお金を刷ればお金の価値が暴落し、ハイパーインフレになってしまう。だから世の中に出回るお金の量をコントロールする必要がある。これが経済政策の重要なポイントだ。
そもそも、なぜ税金を取るのか。
税金の役割は「税収を確保する」ことではなく、①富を再分配して公平な社会をつくること、②世の中に出回るお金の量を調整して(課税でお金を回収して)ハイパーインフレ(通貨の暴落)を防ぐことーーの2点にある。本当に必要ならハイパーインフレが発生しない範囲でいくらでも予算をつけることは可能なのだ。
マスコミは経済学の基礎知識もなく、財務省に言われるままに「税収が足りない、足りない」と報じているだけだ。財務省の官僚たちも実は経済学に興味がない。財務省が予算編成を牛耳ることで自分たちの政治力を増したいだけだ。彼らは本質的に経済官庁ではなく政治官庁なのである。
財務省や予算編成の実態に、むしろリベラルメディアが気づいておらず、財務省の緊縮財政論に歩調をあわせて報道していることが、この国の世論形成を大きく歪めている。
これではいつまでたっても、国民のための予算はつくれない。自公過半数割れを機に、財政のあり方の根本が見直されることを期待したい。