政治を斬る!

「立花逮捕」に潜む、警察と政権、麻生太郎の思惑

NHK党の立花孝志党首が逮捕された。容疑は名誉毀損。だが、これは単なる刑事事件ではない。立花氏は、高市政権と統一会派を組む「与党の党首」である。その立花氏を、警察がこのタイミングで逮捕した──背後では、高市官邸と警察組織、そしてキングメーカー・麻生太郎副総裁の思惑が複雑に絡み合っている。

まず、この逮捕には法的に疑問が残る。立花氏は警察の任意聴取に応じ、逃亡や証拠隠滅の恐れもない。問題となった発言はSNSで拡散され、証拠隠滅の余地も乏しい。発言内容を認めたうえで、立花氏は「公益性があり、真実と信じる相当な理由がある」と主張していた。名誉毀損の成否をめぐる法的争いであり、通常であれば逮捕まで踏み切る必要はない。

それでも警察は立花氏を逮捕した。これは捜査上の判断ではなく、政治的インパクトを意識した決断だったとみるのが自然だ。政党の党首を逮捕する場合、地方警察の一存では不可能だ。全国警察を統括する警察庁長官の了承が不可欠である。

現職の楠長官は、政治色の薄い人物だが、その背後には前任の露木氏がいる。露木氏は安倍元首相銃撃事件後に警察庁長官に抜擢され、現在は高市政権の官房副長官として官邸入りした。つまり、今の警察組織を実質的に掌握しているのは露木氏であり、その背後には高市官邸の意向がある。

兵庫県警が立花氏に強い憤りを抱いていたことも背景にある。竹内県議が命を絶った後、立花氏が「兵庫県警が竹内氏を逮捕予定だった」とSNSで発信。これを「明白な虚偽」として県警本部長が県議会で異例の反論を行った。警察はこの発言を“警察への名誉毀損”と受け止め、組織の威信を懸けて立花氏の逮捕に動いたとみられる。しかし、それでも「与党党首の逮捕」という政治リスクを取るには、官邸の黙認が必要だった。

高市政権は、連立を離脱した公明党に代わって維新と手を組み、参院ではNHK党とも統一会派を結成して過半数割れを補っている。立花氏は、形式上はその「与党の党首」にあたる。ゆえに、立花逮捕は高市政権にとっても痛手であり、本来であれば容認しがたい事態だったはずだ。だが、官邸に露木氏を迎えたばかりの高市首相には、警察の強い意向を押し返す力がなかった。

ここに、もう一人のキープレイヤーが浮かぶ。麻生太郎副総裁である。いまや自民党の最高権力者といえる麻生氏は、自民党役員と内閣の人事を取り仕切り、露木氏の官邸入りを了承した張本人でもある。警察が時の権力者の顔色をうかがうのは常だが、現政権で最も強い影響力を持つのは高市首相よりも麻生氏だ。麻生氏は今回の立花逮捕を、むしろ歓迎している節がある。

立花氏は兵庫県の斎藤知事が出直し知事選で大逆転勝利した立役者だ。その斎藤氏は最初の知事選に維新と菅義偉首相(当時)の連携によって担ぎ出された経緯がある。麻生氏にとって、菅氏は宿敵。菅氏と維新との蜜月を象徴する斎藤知事と、その支援者である立花氏を叩くことで、維新・菅ラインに痛打を与えることができる。

しかも、立花逮捕によって高市政権が一時的に冷や水を浴びせられ、解散総選挙を先送りせざるを得なくなる。そのほうが、麻生氏にとっては望ましい。高市人気が過熱しすぎれば、麻生氏の制御が効かなくなるからだ。

つまり、立花逮捕の裏には、警察の怨念、高市政権の脆弱な政治基盤、そして麻生太郎の計算が交錯している。法的には一個人の名誉毀損事件にすぎないが、実態は権力の三角関係が織りなす政局ドラマだ。

立花氏の発言はたしかに度を過ぎていた。ただ、逮捕という手段が政治的メッセージとして機能しているのは確かだ。権力と警察の境界があいまいになるとき、民主主義の根幹が揺らぐ。今回の逮捕劇は、まさにその危うさを浮き彫りにしていることも忘れてはならない。