政治を斬る!

自民・立憲の増税大連立でリベラル分裂・政界再編へ!格差是正を掲げるリベラルが財務省に同調して緊縮財政を支持するという矛盾を乗り越える時

石破茂首相が元旦放送のラジオ番組で「大連立も選択肢」との考えを示した。「大連立」は通常、与党第1党と野党第1党が連立政権を樹立することを意味する。自公少数与党の現状を打開して政権を安定させるため、立憲民主党と連立政権を組む可能性に言及した発言といっていい。

石破首相は何のための大連立かを明確にしなければ大政翼賛会になる危険も指摘し、大連立の大義名分が重要との考えを強調した。ここで想定しているのは「消費税増税による社会保障の安定と財政健全化」であることは間違いない。

石破首相も立憲民主党の野田佳彦代表も財政収支の均衡を重視する緊縮財政派・増税派だ。

自民党内で「影の首相」と呼ばれている森山裕幹事長も、ポスト石破の有力候補である林芳正官房長官も同様である。立憲民主党きっての実力者で衆院予算委員長に就任した安住淳・元財務相もそうだ。

自民党と立憲民主党の二大政党の首脳陣はどちらも緊縮財政派・増税派が占めている。

自公与党は昨年秋の総選挙で惨敗して過半数を割った後、減税を掲げる国民民主党と協議を重ね、昨年末の臨時国会では補正予算を何とか成立させたが、財政政策ではよほど立憲民主党のほうが近いのだ。

日本政界は長らく、憲法・外交安保・原発・人権という左右イデオロギー対決の時代が続いた。自民党は右、社会党は左で、対立軸は明確だった。

永田町では「日本社会は右が3、左が2、無関心が5」と言われる。選挙になると投票率は50%で、自民党が3、社会党が2で自民党が競り勝つという構図が定着してきた。左右イデオロギー対決が自民党の長期政権を支え、「自民党は万年与党、社会党は万年野党」の55年体制を継続させてきた。

この時代、リベラル派は「左」でまとまれた。選挙で過半数を制して「政権交代」を実現するリアリズムはなくても、リベラル派はほぼ分裂することなく結束できたのである。

しかし、税制・財政・金融という経済政策では、リベラル派はバラバラだった(自民党もバラバラである)。リベラル派の多くは財政収支均衡を重視する緊縮財政派だったが、景気対策や社会保障充実の立場から積極財政を主張する勢力もあった。

一般的に、緊縮財政はデフレを生む。デフレは通貨の価値が高くなるため、すでにお金を持っている富裕層や高齢者など既得権益層に有利で、経済格差が固定化しやすい。経済社会での「下剋上」が起きにくい。

他方、積極財政はインフレをもたらす傾向がある。インフレは通貨の価値が落ちるため、お金を持っている富裕層や高齢者は資産が目減りし、不利となる。逆に若年層や貧困層は物価高が直撃するものの、実力次第ではのしあがることも可能となり、経済格差が崩れやすい。経済社会での「下剋上」が起きやすく、積極財政による支援さえ行き届けば、相対的には若年層や貧困層に有利なのだ。

つまり、緊縮財政は経済格差を固定し、相対的には上級国民の既得権を守る。積極財政は既得権を壊して経済格差を是正し、相対的には一般庶民に有利といえるだろう。

世界ではリベラル派は積極財政論が強い。なぜならリベラルは人権を重視し、経済格差の是正を訴えることが多いからだ。

ところが、日本政界ではリベラル派は伝統的に緊縮財政論が強い。その典型は共産党だ。増税には反対しているが、財政収支の均衡は重視している。

日本政界のリベラル派が緊縮財政を訴える背景には、戦争の歴史がある。戦前の積極財政が軍事予算の増大を招き、軍部の台頭を許した結果、戦争が拡大したという歴史観があるのだ。

軍事大国化を防ぐために、緊縮財政こそ平和への道だというのが、リベラル派の主張の根底にある。財務省からもそのような主張がしばしば聞かれる。

しかし、私はこの歴史観が間違っていると考えている。

戦前の日本の軍事大国化を招いたのは、積極財政ではなく、むしろ緊縮財政だった。世界恐慌で不況のさなか、日本政府は緊縮財政を推進し、景気をますます冷え込ませた。

その結果、国民生活は疲弊し、貧富の格差が拡大した。不況は富裕層よりも一般庶民や貧困層に容赦なく襲いかかるものなのだ。

大衆世論の不満は政治へ向かった。そのなかで政治家の汚職事件が次々に発覚し、政治不信が高まって軍部への期待が広がった(不況が続いて国民生活が困窮するなかで自民党の裏金事件が発覚した現代の状況ととてもよく似ている!)。

軍部はしばしばクーデターを起こして首相らを暗殺したが、貧富の格差拡大で政治への不満を高めていた大衆世論は軍部を支持したのである。

どん底まで落ちた不況を立て直すため、当時の政府は遅ればせながら積極財政に転じたものの、すでに手遅れだった。軍部はアジアへ侵攻し、軍事費増大の要求を強めた。大衆世論から見放された当時の政府にはもはや軍事予算を抑える力はなく、軍事大国化に歯止めがかからなくなったのだ。

最初から積極財政で景気を好転させていれば、政治不信が高まって世情が不安定化し、大衆世論が先鋭化して軍部を支持することもなかっただろう。経済の安定こそ政治の安定であり、戦争を回避する平和への道だといっていい。

リベラル派は「戦争と財政政策」の歴史観を再検証する必要があるのではないか。

国民民主党が積極財政(減税)を掲げて躍進し、自公与党に減税を迫るなかで、政党支持率でも立憲民主党(緊縮財政派)を抜いた。

これにより、従来の左右イデオロギー対決の構図は崩れ、財政政策をめぐる対立(緊縮財政vs積極財政、増税vs減税)が新たな対立軸になりつつある。左右対決に代わって上下対決の構図が生まれたのだ。

こうなるとリベラル派の結束が崩れるのは当然の帰結である。そもそもリベラル派は「左」でまとまってきただけであって、経済政策ではもともと上下に割れているからだ。

自民・立憲が大連立になった場合、立憲の現職議員の大半は、野田代表ら緊縮財政派が仕切る執行部に追従して大連立に加わるだろう。彼らの多くは、野党第1党の下駄を履いて選挙で当選しているから、野党第一党を離れれば落選の危機に直面するからだ。政策的立場より選挙の当落が国会議員たちの行動を決定していく。

もちろん、一部の立憲議員は大連立入りを拒否して離党するだろう。その理由は①自民党とは絶対に組めないという政治的主張②増税には断固反対という政策的主張ーーの2パターンがある。

立憲支持層も分裂するだろう。こちらは選挙の当落を気にしなくていい分、国会議員に比べて①ないし②の理由で大連立反対派の割合が多くなるに違いない。

大連立は、リベラルを標榜してきた立憲の国会議員たちも立憲支持層にも「踏み絵」を迫るといっていい。

緊縮財政(増税)を進める大連立に対抗して、積極財政派(減税派)が連携する動きも出てくるだろう。今の国会でいえば、大連立を拒否して離党する立憲の一部、国民民主党、れいわ新選組、日本保守党などである。減税派の連携が進めば、国会は財政政策をめぐる上下対決の構図となる。

大連立それ自体については、国会が一色に染まる恐れが高く、私は反対である。一方で、日本政界の閉塞感を打破するには、いったん大連立が実現し、政界の対立軸が「左右のイデオロギー対決」から「財政政策をめぐる上下対決」へ変わるほうが、政界再編を誘発して政治が動き始めるとの期待もある。

今年の日本政界は激動だ。どうあるべきかを論じる前に、左右から上下へ、政界の対立軸の変化は急速に進むのではないか。

貧富の格差是正を掲げるリベラル派が財務省に同調して緊縮財政を支持するという日本特有の政治的矛盾を乗り越える時が来たのだろう。

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