米大統領選挙はトランプ氏の圧勝に終わった。マスコミは史上稀に見る大接戦と報じていたが、読み間違えたのはなぜか。
そもそも米国の主要メディアはハリス氏に全面的に肩入れしていた。トランプ氏を排外主義者と認定し、ハリス氏を持ち上げる報道を連発し、世論調査でも大接戦と報じていたのである。
たしかに全米では大接戦だった。けれども勝敗を決する激戦州ではトランプ氏が優位との見方が強かった。私は一貫してトランプ氏優勢と報じていた。主要メディアは大接戦を演出し、ハリス氏に流れが傾くように恣意的な報道(偏向報道)を続けているとしか思えなかった。
日本のマスコミは米国の主要メディアの報道を垂れ流すばかりだった。日本でもハリス氏が優勢だと受け止めていた人は少なくないだろう。
なぜ米国主要メディアはトランプ氏を毛嫌いし、ハリス氏を露骨に後押ししていたのか。それは民主党を中心に財界やマスコミ界が、ウクライナ戦争からの撤退などを通じて既得権益を容赦なく切り捨てるトランプ政権の誕生を絶対阻止するため、強く結束を固めていたからだろう。
既得権益擁護の本音を隠すために、彼らが持ち出したのが、「トランプは排外主義だ」という左右イデオロギー対決だった。
たしかにトランプ氏は移民排斥を訴えた。しかしそれ以上にトランプ氏を押し上げたのは、民主党政権における経済政策が貧富の格差を拡大させたことに対する怒りであり、民主党政権が一部の既得権益層だけに恩恵を与えているという不信感だった。
ワシントンの政治家やニューヨークの大富豪ばかりを擁護するバイデン・ハリス政権への反発が、「排外主義者」のトランプ氏を押し上げ、圧勝させたといえる。
今回の大統領選挙を「左右イデオロギー対決」とみると、いつまでも本質に迫らない。これは、貧富の格差拡大への不満が爆発した「上下対決」だった。主要メディアは経済界を中心とする「上級国民」の味方と認定され、大衆とかけ離れた。政財マスコミ界をひとまとめにして忌み嫌う大衆パワーがSNSで炸裂し、トランプ氏を圧勝に導いたのだ。
今回の大統領選はその意味で、新旧メディア対決ともいえる。既得権益層に支えられたオールドメディア(テレビ)が大衆の支持を受けた新興メディア(SNS)に敗北したのだ。
米国主要メディアの報道を垂れ流す日本のマスコミ報道しかみていない日本の人々は、格差拡大に対する米社会の怒りのうねりを感じることはできなかっただろう。左右イデオロギー対決の構図だけで眺めると、なぜ排外主義者のトランプ氏がハリス氏に敗れたのか、理解しにくいかもしれない。
日本のマスコミも、財界など既得権益側の代弁者になっている。だから、格差問題に目を振り向けることはめったにない。今回の大統領選の報道でも「民主党政権の経済政策への不満」という言葉はあったが、「貧富の格差拡大に対する怒り」という言葉はほとんど聞かれなかった。
マスコミは既得権益側にいる。貧富の格差拡大に関心が高まれば、自分たちも攻撃対象になることを恐れているのだろう。
しかしそのような報道では、世界の潮流は読み解けない。米国や日本に限らず、世界各地で最大の争点に格差問題が浮上している。それがかたちをかえて、移民排斥などの右傾化のかたちで現れているだけだ。根底には格差問題が横たわっている。
今回の日本の総選挙で、手取りを増やすことを訴えた国民民主党や、消費税廃止を訴えたれいわ新選組が大躍進したのも、自民と立憲の二大政党が既得権益層(自民は財界、立憲は官界)の代弁者になっているという不満が徐々に広がっているからだろう。そこへトランプ氏のようなカリスマリーダーが出現すれば、大衆の不満を一気に吸い上げて既得権益側の政治勢力を吹き飛ばす可能性は十分にある。
米国の政治の潮流は数年おくれて日本にやってくるのが過去の歴史だ。格差問題にしっかり向き合わない限り、いずれ和製トランプが出現するだろう。