トランプ政権の誕生は、石破政権への大打撃となる。たたでさえ石破茂首相では来夏の参院選は戦えないという声が自民党内で定着しており、石破政権は来春の予算成立までという見方が広がっている。年明けにトランプ政権が誕生することは、石破政権へのトドメの一撃になろう。それはなぜか。
一つ目の理由は、トランプ氏と石破首相の相性はどうみても悪いことである。
石破首相はトランプ勝利が確定した後、ただちに電話で祝意を伝えた。5分程度のやりとりだったというが、石破首相はフレンドリーな印象を受けたと記者団に語っている。
しかしこの電話会談に先立ち、外務省幹部は石破首相に「トランプ対策」として①長く話してはいけない②決して議論を吹っかけてはいけないーーの2点を強く念押ししたという。どちらも石破首相が陥りそうな罠だ。
論理をこねくり回す論戦が大好きな石破首相。ワンフレーズで言い切るトランプ氏。双方のウマがあうとはとても思えない。トランプ氏は、石破首相を毛嫌いしていた安倍晋三元首相と親密だった。ケミストリーがあったのだろう。石破首相とは真逆だ。
首相周辺は「石破首相がシゲルと呼んでもらえるかどうか」と懸念しているようだが、どんな呼ばれ方をしようとも石破氏がトランプ氏と親密な関係を築くのはかなり難しいのではないか。
しかもトランプ氏は首脳同士の直接ディールを重視し、即断即決できる強い指導者を好む。ロシアのプーチン大統領や北朝鮮の金正恩総書記とウマが合うのはそのためだ。
石破首相は政治基盤が極めて弱い。自公は少数与党だし、自民党内の主流派は第四派閥・岸田派以下の弱小連合だ。石破首相がトランプ氏と何を約束しても、国内に持ち帰ってそれを果たせるとは限らない。トランプ氏の前でモゴモゴしていると交渉相手とみなされず、たちまち遠ざけられるだろう。
石破首相はトランプ氏が大統領に就任する前に直接会談することを模索しているが、その場でいきなり武器購入などを吹っ掛けられるのではないかとの懸念もくすぶる。トランプ氏に近づくほど逆効果になる恐れもある。
二つ目の理由は、石破政権でキングメーカーの座についた岸田文雄前首相の存在だ。
岸田政権はバイデン政権に追従し、ウクライナ戦争ではゼレンスキー政権に1兆円の巨額支援を表明したほか、武器装備品を続々と支援し、ロシアから敵国扱いされた。
トランプ氏はウクライナからの早期撤退を掲げ、ロシアのプーチン大統領と電撃和解する可能性も取り沙汰されている。バイデン外交を全否定する格好で、岸田外交もハシゴを外される恐れがある。国際政治情勢は一変し、石破政権はそれに対応していくほかない。
ところが、石破政権は岸田氏に全面依存しており、頭があがらない。総選挙惨敗で辞任した小泉進次郎選対委員長の後任には岸田氏の最側近である岸田派の木原誠二・元官房副長官を起用。小野寺五典政調会長とあわせ、党四役のうち2人を岸田派が占める格好となった。
岸田氏は9月の総裁選でも、岸田政権の外交政策・経済政策を踏襲する後継者を強く望み、石破首相はそれを受け入れることで勝利した経緯がある。トランプ氏に外交政策の転換を迫られても、岸田氏の手前、そう簡単には応じられない。トランプ氏と岸田氏の間で、股避き状態に陥るのだ。
もたもたしていると、たちまちトランプ氏から見放されるだろう。
最後の理由は、石破政権で非主流派に転じた麻生太郎元首相と茂木敏充前幹事長の存在である。
麻生氏は岸田政権下で「もしトラ」に備え、真っ先に訪米してトランプ氏と会談した。岸田首相がバイデン大統領に国賓待遇でワシントンに招待された直後のことだった。今回の大統領選でトランプ勝利に賭けたといえる。
茂木氏は安倍政権時代、日米貿易交渉の担当大臣としてトランプ政権と向き合った。このときの対応をトランプ氏は高く評価しているようだ。トランプ氏が名前を覚えている日本の政治家は、シンゾー(安倍氏)、アソー(麻生氏)、モッテギー(茂木氏)だけともいわれている。
麻生・茂木両氏は非主流派に転じ、反転攻勢の機会をうかがっている。来春の予算成立をを機に石破おろしを仕掛ける可能性は高い。そこでトランプ政権とのパイプを売りに主導権確保を目指すのは間違いない。
以上、トランプ政権の誕生は石破首相にとって悪いことずくめだ。総選挙に惨敗して余命半年の政権とみられているが、年明けのトランプ政権の誕生で、日本政界でも「トランプ氏と相性のよいリーダーに切り替えよう」というムードが高まり、石破政権にトドメを刺すことになるのではないだろうか。