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日本が「ゼレンスキー大統領の戦争」に加担してはいけない三つの理由

ウクライナのゼレンスキー大統領はロシア軍の侵攻に対抗して国民総動員令を出し、男性の出国を禁止し、民間人を投入して戦争を遂行しています。海外から義勇兵や傭兵も募って戦闘員としているようです。

私は、ロシア軍の侵攻は非難すべき行為と考えます。それに対してウクライナ政府には自衛権を発動する権利もあると思います。ただし、ゼレンスキー大統領が国民総動員令を出して国民から「戦わない自由」を剥奪して民間人までも戦闘に投入していることには反対してきました。

そして、日本政府がロシアとウクライナの戦争に対し、ウクライナ政府に一方的に加担することには慎重な考えを示してきました。ましてウクライナ政府に防衛装備品を含む軍事支援をすることには強く反対してきました。両国政府とは一線を画し、あくまでも戦争に巻き込まれるウクライナの人々に寄り添って人道支援に全力を尽くすとともに、両国政府の間に入って停戦合意に向けた外交努力を進めるのが平和憲法を掲げる日本の役割だと考えるからです。

このため、「ウクライナと共にある」としてウクライナ支援を鮮明にする国会決議にも、ゼレンスキー大統領の国会演説をスタンディングオベーションで称賛することにも反対してきました(国会演説について緊急解説するユーチューブ動画を作成したのでご覧ください)。

多くの賛同の声をいただく一方、「一方的に攻め込んだロシアが悪いのに、無抵抗で占領されろというのか」という趣旨の反論もいただきました。

きょうはそれに対する私の見解を述べたいと思います。

① 「正義」を振りかざすだけでは戦争は終わらない

いま最優先すべきは一刻も早く停戦を実現し、ひとりでも多くのウクライナの人々の命を守ることです。それに異論を唱える人はいないのではないでしょうか。

ロシアは国連安保理の常任理事国として拒否権を持っています。このため国連はロシアの軍事侵攻になすすべがなく立ちすくんでいます。ロシアは核兵器を保有する軍事大国です。米国はウクライナ戦争に参戦してロシアとの第三次世界大戦に発展することを恐れ、自らは参戦しないことを早々に表明し、ウクライナへの武器支援など後方支援にとどめています。ロシア軍を軍事力で打ち負かして撤収させ、戦争を終わらせる手段はいまのところないのです。

米国は経済制裁でロシアを追い込むことに活路を見出しているようです。経済政策は一定の効果があるでしょう。しかし、経済制裁に参加しているのは欧米に加え日韓などに限られます。巨大な人口を有する中国やインドをはじめ、中東諸国や東南アジアなどは様子見です。

これら第三世界からみたら、ウクライナの人々は可哀想だし、ロシア軍侵攻はよくないけれども、アフガニスタンやイラク、シリア、イエメンなど各地の紛争に対する欧米の冷淡な対応と比べ、ウクライナへの欧米の肩入れがあまりに大きいことを冷ややかに眺めている様子もうかがえます。日本のマスコミは「欧米=国際社会」として報道していますが、世界の多極化は急速に進んでおり、もはや第三世界を無視することはできません。

逆にロシアの天然ガスに依存してきた欧州では早くも電気代が高騰して悲鳴が漏れ始めています。経済制裁の効果は見通せません。少なくとも長期戦覚悟の対抗策であり、即時停戦を実現させるほどの効果は期待できないでしょう。

そして「悪いのはロシアだ」といくら非難してもロシア軍は撤収しません。停戦は実現しません。ロシアにはロシアの言い分があります。双方が納得しない限り、停戦は実現しないのです。それが現実の国際政治です。軍事力でただちにロシア軍を打ち負かせない以上、「悪いのはロシアだ」と「正論」を掲げるばかりでウクライナの人々の命が日々失われていくのを傍観するのは外交とは言えません。

ロシア政府はウクライナ侵攻について、ドンバスというウクライナ東部の地域でウクライナ政府がロシア系住民に対して虐殺行為を行ったため、この地域の二つの共和国の独立を承認し、二国を守るために集団的自衛権を行使したと説明しています。ウクライナ政府がドンバスでどのような行為を行ったのかについては見解が割れていますが、内戦に近い対立が繰り返されてきたのは事実であり、「集団的自衛権の行使」を認める以上、ロシアの主張をただちに全否定はできないでしょう。

私はそれでも二つの共和国の独立を慌ただしく承認した後、どさくさに紛れて集団的自衛権を行使してウクライナ国内に侵攻したロシア軍の行為は許されないと考えますが、これもまた国際法上の見解は割れる可能性があり(国際法自体が国際政治の力学で動く性質があり)、この攻め口も即時停戦を実現するには無力です。

戦争は「正義」と「正義」のぶつかり合いです。「正義」を振りかざすだけでは戦争は終わりません。

軍事力で圧倒できない以上、停戦を実現するには、プーチン大統領とゼレンスキー大統領(そしてウクライナを後方支援しているバイデン大統領)の三者が納得する合意点を見出すしかないのです。それには三者から信頼される第三者が仲介役を果たすしかありません。それが外交です。

ウクライナは長らく「欧米(NATO)vsロシア」の国益がぶつかる主戦場です。欧米諸国は仲介役を果たせません。本来はG7のメンバーでありながらNATOに加盟せず、しかも平和憲法を持つ日本は格好の仲介役になれる存在でした。

ところが日本政府は欧米に追従して経済制裁や武器支援(防衛装備品)に踏み切り、ウクライナの側に立つ姿勢を鮮明にしたため、ロシアから「宣戦布告」とみなされてしまいました。もはや仲介役を果たすことは難しいでしょう。残念です。

いま仲介に動いているのはトルコやイスラエルです。いずれ中国が動く可能性もあります。日本政府はせめてこれらの国を側面支援し、停戦合意への動きをサポートしてほしいものです。ゼレンスキー大統領の利害を重視するのではなく、あくまでも戦争に巻き込まれたウクライナの人々に寄り添い、一刻も早く停戦合意を実現させることを最優先にすべきです。

②もっとも避けるべきはウクライナ国内の内戦化・泥沼化

私はウクライナの人々の命を最優先する立場から、そしてウクライナ国民の「戦わない自由」を尊重する立場から、ゼレンスキー大統領が国民総動員令を出して民間人を戦争に駆り出していることには断固反対します。

国際法上は、一方的な軍事侵攻に対しても応戦すれば紛争当事者とみなされます。民間人を戦闘に駆り出すと、ロシア軍にとってはウクライナ軍の兵士と民間の非戦闘員の区別がつかなくなり、民間人を攻撃する口実を与えることになります。民間人の戦闘への投入はウクライナに残る人々の命の危険を高めるものです。

海外の義勇兵や傭兵の投入はさらに事態を深刻にさせます。このような人々がウクライナ軍の指揮命令に従う保証はありません。彼らの中にはビジネスとして戦争に参加する者もおり、ウクライナ政府がロシア政府と停戦に合意した後も戦闘をやめるとは限りません。国内にいったん引き入れた海外の武装兵は非常にやっかいな存在となるのです。

ウクライナ政府は欧米から支援を受けた武器を民間人や義勇兵らに渡して戦わせています(日本が提供した防弾チョッキやヘルメットもこのように使われています)。ウクライナ国内には武装した戦闘員と欧米から送り込まれた武器が溢れかえっているのです。

ウクライナはロシア軍侵攻の前から「親欧米派・極右勢力vs親ロシア派」の激しい内部対立が繰り広げられ、暴動に発展することもしばしばありました。なかでも過激な極右勢力の台頭は要注意です。こうしたなかで親欧米政権と親ロシア政権が目まぐるしく入れ替わり、欧米vsロシアの国益がぶつかりあう主戦場と化していました。

ロシア軍が撤退してもウクライナ国内の諸勢力の対立がただちに収まる可能性は低いでしょう。戦闘員と兵器が溢れかえってしまった以上、内戦が続く恐れは非常に高いのです。私はこのような国内対立が激化する事態を招き、さらに戦争を通じて泥沼化させたゼレンスキー大統領の政治責任は極めて重いと考えています。

こうしたかたちで内戦が続くことは、アフガニスタンやイラク、シリアなど米国やロシアが介入した紛争地ではとてもよくみられる光景です。ウクライナの国土はこの先、相当長い期間にわたって荒れ果てることは避けられないと思います。

ウクライナ国民の4分の1にあたる約1000万人がすでに国外に脱出しました。ウクライナで内戦が続けばウクライナ難民は帰国できず、避難先での定住が進む可能性が高まります。ウクライナ難民を受け入れた周辺国はいまのところ歓迎していますが、事態が長期化すれば、政情は不安定化し、排外主義を刺激する恐れがあるでしょう。ウクライナや近隣の東欧諸国の不安定化が進むのではないでしょうか。

軍事力に軍事力で対抗すれば、戦闘は長期化し、国土は荒廃し、国民は傷つき、周辺国にも不安定化が波及し、みんなにとって不幸です(唯一潤うのは武器を売りつける軍需産業です)。愛国心を煽り民間人を戦闘に駆り立てるゼレンスキー政権の対応は、ウクライナの人々の命をますます失わせるうえ、ウクライナという国家の立ち直りをますます遅らせるでしょう。

日本は太平洋戦争で広島・長崎に原爆を投下され、ギリギリのところで本土決戦を回避しました(地上戦が唯一繰り広げられた沖縄戦は痛ましいものでした)。日本軍は女性やこどもに竹槍を持たせて本土決戦に持ち込む構えでしたが、本当に本土決戦に突入していたら、日本列島は取り返しのつかないダメージを受け、戦後日本の復興はなかったでしょう。最後まで戦わずに連合軍に占領されたからこそめざましい戦後復興を遂げたのです。

ウクライナが自衛戦争を遂行するか否かはウクライナの人々が選択することですが、日本は少なくとも自国の歴史を踏まえ、ウクライナの人々に助言することはできます。日本の歴史が物語っているのは「最後まで武器を持って戦え」ということではないでしょう。

その視点からも、国民総動員令を出して民間人を戦争に投入するゼレンスキー大統領を日本政府が全面支持することに、私は強い違和感を覚えます。戦争や内戦が長期化し、泥沼化したら、ウクライナは立ち直るまで長い長い歳月を必要とすることになってしまいます。

③戦争を遂行するゼレンスキー大統領を称賛した日本の国会議員たちは同じことをするのでは?

さいごにゼレンスキー大統領の国会演説に拍手喝采した日本の与野党議員たちの姿をみて、私はとても心配になりました。

もしロシア軍が日本に侵攻してきたら、この人たちは緊急事態条項を創設して国民総動員令を発出し、戦いたくはない国民が出国するのを禁じ、武器を渡して戦うことを強要するのではないか。

そのとき日本国内は同調圧力が高まり、武器を持つことを拒否した人々は「非国民」と非難され、激しくバッシングされるのではないか。

まさに米国との戦争に突き進んだ大日本帝国の姿です。国家権力が国民に戦うことを強要し、国民の生命や基本的人権を奪ったのでした。

日本国憲法はその反省をもとに、国民の基本的人権を尊重することを最優先に掲げています。国家権力から国民を守るため、国家権力が好き勝手できないようにその手足を縛ることに日本国憲法の最大の存在価値はあるのです。憲法9条も国家権力が国民を戦争に駆り出すことを防ぐために「戦争の放棄」を掲げているとも読めるのです。

その日本国憲法にもっとも忠誠を誓うべき国会議員たちがゼレンスキー大統領を「国民を鼓舞し続ける勇敢な姿勢」(細田博之衆院議長)と礼賛し、「貴国の人々が命をも顧みず祖国のために戦っている姿を拝見し、その勇気に感動している」(山東昭子参院議長)と戦争を美化する姿に、私は呆然としました。さらに共産党の志位和夫委員長までゼレンスキー演説を「祖国を守り抜く強い決意がひしひしと伝わってくるものでした」と称賛するのをみて、とても落胆しました。

彼らは日本にロシア軍が攻め込んできたら、武器を持って戦うことを国民に命じるかもしれません。これは日本国憲法に反する行為です。戦争を遂行しているゼレンスキー大統領を称賛する国会議員が平和憲法を尊重しているとは私には思えません。彼らは右も左も「個人」より「国家」を重視する立場なのではないでしょうか。

東日本大震災と福島原発事故以降、危機管理という言葉が力を持ち、国家を重視する風潮が強まりました。ふと気づくと、政府がコロナ禍で呼びかけた行動自粛に呼応して登場した自粛警察にしろ、政府が電力不足で呼びかけた節電をマスコミが大々的に広めたことにしろ、国家権力の要請に異議を唱えにくく、忠実に従うほかない息苦しい風潮が日本社会に急速に広まりつつあり、今回のウクライナ戦争でさらにそれが加速しているという危惧を感じずにはいられません。

ゼレンスキー大統領の国会演説をスタンディングオベーションで称賛した与野党の国会議員たちの姿は、日本社会に忍び寄る全体主義の気配を可視化したのではないでしょうか。

ウクライナでいま起きていることは、遠い国の物語ではありません。私たちの日本にも軍靴の音が近づいているというリアリティーを持つことがとても重要な時代にさしかかっていると私は思います。

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