政治を斬る!

衆院選の投票率を引き上げる最強の「山本太郎カード」を無駄に捨てた「野党共闘」の末路と来夏の参院選に向けた「二大政党制の揺らぎ」のはじまり

れいわ新選組の山本太郎代表が10月16日、衆院選の小選挙区から「野党共闘」候補として出馬せず、比例東京ブロック単独で出馬する意向を表明した。これは今後の「野党共闘」の行方を大きく決定づける出来事である。以下、じっくり解説したい。

山本氏は立憲民主党との事前調整を経て東京8区からの出馬を表明したものの、立憲民主党の党内調整が不十分で地元から異論が噴出して混乱したとして、出馬を取り下げた。その後、立憲民主党は共産党と二党間協議によって大半の選挙区で一本化に合意し、山本氏が野党一本化の枠組みを崩さずに円満に出馬できる選挙区はほとんど残されていなかった。

山本氏がそのような状況下で「比例東京単独」を選択したのは、衆院選公示を目前に控える今、野党陣営の無用な混乱を避ける賢明な選択であろう。東京8区の出馬撤回に続いて、最近の山本氏の決断は実に冷静で冴えていると思う。

一方で、立憲民主党の枝野幸男代表は「野党共闘で政権交代」の機運を盛り上げる最強の「山本太郎カード」を無駄に捨てた格好だ。

山本氏ほどカリスマ性や破壊力・機動力を兼ね備えた政治家は、今の野党陣営に見当たらない(正直言って山本氏の政治家としての器は枝野氏よりもはるかに大きい)。山本氏を「野党共闘のシンボル」として自民党の大物政治家の選挙区に擁立し、そこへ枝野氏や志位和夫共産党委員長、福島みずほ社民党党首らが結集して応援すれば、全国の最注目選挙区となっただろう。

私は、菅政権時代には菅義偉首相の神奈川2区に、岸田政権発足後はUR口利き疑惑を抱える甘利明幹事長の神奈川13区に山本氏を野党共闘で擁立することを提案していた。枝野氏が自ら音頭をとり、山本氏、志位氏、福島氏と話をつけ、みんなで手を携えて山本氏の選挙区に応援に入れば、「野党共闘」の一体感を演出する最高の舞台となったはずだ。

それは石原伸晃氏の東京8区でも良かった。弱小政党の代表として国政復帰を目指す山本氏を野党全体で応援し、自民党の大幹部を倒すという「ドラマ」は世間の関心を引き寄せ、衆院選全体の投票率を大きく引き上げる効果が期待できた。その舞台の主役を張るカリスマ性を備えた「役者」は、山本氏をおいてほかになかった。

しかし、枝野氏にはそもそも山本氏のカリスマ性を政権交代をめざして有効活用するという発想がなかった。そのような発想があったならば、まずは「山本氏をどの選挙区から擁立するか」を決め、それをもとに他の選挙区の一本化調整を進めたはずだ。

残念なことに、枝野氏はそのような戦略性を持ち合わせていなかった。そればかりか、山本氏のカリスマ性を警戒し、嫉妬し、厄介者扱いし、できるかぎり山本氏に活躍の場を与えないという陰湿な対応を重ねているように見えた。野党第一党の党首がそのよう狭量な態度では「野党共闘」が成り立つはずがない。

枝野氏が野党全体で政権交代を目指すことよりも、立憲民主党の議席を増やすことを優先しているのは明らかだった。山本氏に脚光が集まれば立憲民主党の議席が伸び悩むことを恐れ、れいわを埋没させることばかり考えているように見えた。

そのような態度に終始したのは、今回の衆院選で野党全体で過半数を取り、政権交代することをハナからあきらめているからだろう。枝野氏が11日夜のテレビ番組で、今回の衆院選で政権交代が実現する確率を司会者に聞かれ、「5割以上あるなんて決して言わないが、(米大リーグの)大谷選手の打率(2割5分7厘)ぐらいの可能性はある」と口を滑らしたのは、その事実を物語っている。

枝野氏は政権交代が実現しなくても、立憲民主党が議席を増やしたことをもって「勝利」と総括し、代表の座に居座るつもりだ。だからこそ「野党全体の議席」よりも「立憲民主党の議席」を優先するのである。二大政党の一翼を担う野党共闘のリーダーとして「野党全体で過半数を獲得する」ことに確固たる責任を負って戦う覚悟はそもそもないのだ(枝野氏は実際に「野党共闘というのは、私の方からは使っていません」と明言している=こちら参照)。

枝野氏にとっての「野党共闘」は、原則として少数政党が野党第一党に選挙区を譲る一方的な選挙協力を強いるものである。今回の衆院選において、野党が一致結束して政権交代をめざすという「野党共闘」は幻想なのだ。

民主党が政権交代を実現させた2009年衆院選の投票率は69%だった。当時は日本各地に存在感のある民主党候補が出馬し、注目選挙区となった。衆院選公示時点で日本列島は政権交代を期待するムードに包まれていた。

その後、安倍自民党は衆参6回の国政選挙で圧勝を続けたが、その投票率はいずれも5割そこそこだった。自公が組織票を固めて低投票率で逃げ切るというパターンを繰り返したのだった。

今回の衆院選も同じような道をたどっているように私には見える。投票率が7割に達するほどの熱気はない。与野党対決の注目区として盛り上がっているのは、自民党の平井卓也・前デジタル担当相と立憲民主党の小川淳也氏が激突する香川1区くらいではないか。

枝野氏以外にほとんど「顔」が見えない今の立憲民主党が政権交代を実現して内閣をつくるイメージはまったく湧いてこない。これでは政権交代への期待感は高まらないし、投票率も上がりそうにない。

「山本太郎カード」はこのような停滞ムードを吹き飛ばす最後の強力な切り札となりうるものだった。枝野氏はそれを無駄に捨てた。立憲民主党は低投票率に沈むだろう。

山本氏とれいわには大きなチャンスが巡ってきたと私はみている。

山本氏が小選挙区から出馬すれば、そこで勝利するために野党各党に頭を下げて支援してもらう必要があった。しかし、比例単独に回ったことで「野党共闘」の枠組みに縛られる度合いは大幅に減った。選挙の戦い方の自由度は大幅に増す。

れいわは今回の衆院選で小選挙区で議席を得るのは極めて難しい。各比例ブロックで一議席でも多く獲得することを目指す戦いとなる。比例区は与野党問わず政党間の競争だ。他の野党と貸し借りしたり、遠慮したりする必要はもはやない。

れいわは小選挙区を事実上放棄して「野党共闘」の邪魔をせず、比例区で特色のある戦いを繰り広げ、立憲民主党や共産党から政権批判票を大幅に奪うことを目指すだろう。立憲民主党にばかり都合の良い「野党共闘」の枠組みから上手に脱出することができたのだ。

山本氏の街頭演説をみると、すでに独自色を出し始めている。市民連合が主導した野党4党の政策合意は「消費税5%への減税」だが、山本氏は「消費税廃止」を強調している。このように「野党共闘」より一歩踏み出した大胆な主張と選挙活動を展開し、政権批判票をダイナミックに引き寄せる作戦を進めるだろう。フリーハンドを握った時の山本氏の破壊力はすさまじい。

立憲民主党や共産党は山本氏を「野党共闘」に取り込み、彼が自由奔放に大暴れするのを防ぐべきであった。山本氏を小選挙区から「野党共闘のシンボル候補」として擁立しなかった代償として、首都圏の比例区を中心にれいわに政権批判票をかなり奪われるのではないか。「野党共闘」戦略としてだけでなく、比例区対策としても大失敗だったと私は思う。

枝野氏自身の予測のとおり、各種情勢調査によると、今回の衆院選で政権交代が実現する可能性は今のところ極めて低い。むしろ政治が大きく激動するのは、来年夏の参院選だろう。小選挙区中心の衆院選と違って、参院選は少数政党が乱立しやすく、二大政党以外が躍進するチャンスが大きい。

来夏の参院選にむけて、立憲民主党主導の「野党共闘」を疑問視する勢力が、れいわに続いて新党を相次いで旗揚げし、二大政党制の枠組みを打ち破る「多党乱立型の政界再編」が本格化するのではないか。日本新党や新党さきがけが乱立して自社体制をぶち壊した1993年衆院選型(当時は中選挙区制)の政界再編である。

今回の衆院選のれいわの戦いは、来夏の参院選の前哨戦と位置付けることができよう。与党陣営で予想される維新の躍進もまた「二大政党制の揺らぎ」の視点でみるべきである。

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