次期参院選の勝敗を左右するのが、「32の1人区」であることに異論はないだろう。これは1人しか当選できない選挙区。すなわち、野党が候補を一本化できるかどうかが勝敗の分かれ目になる。
だが今、その“鍵を握る1人区”で野党側の迷走が相次ぎ、自民党が“ボロボロ”でありながらも勝利の可能性を手にしている。
その背景には、自民党内の裏金問題や石破政権の低空飛行といった要素があるにもかかわらず、野党が候補者調整に失敗し、票を分け合っている現実がある。
本稿では、岩手・滋賀・沖縄という3つの象徴的な1人区を取り上げ、野党共闘の綻びがもたらす影響を分析したい。
参院選の全体構図──「勝敗ライン」のトリック
今回の参院選では、補選1を含めて計125議席が争われる。改選過半数は63議席。だが、自民党の石破首相は、「与党が50議席を取れば勝利」とハードルを意図的に下げている。これは、3年前の選挙で自公が圧勝した結果、非改選議席を含めればすでに多数派を握っているため、50議席でも与党の過半数を維持できるという計算によるものだ。
選挙区の内訳は、1人区が32、複数区が13(計43議席)、比例代表が50議席。自民党は前回の比例で18議席を確保したが、今回は裏金問題で支持を失い、比例では15議席、複数区では13議席と控えめに見積もって合計28議席程度と予測される。公明党も比例での集票力が落ちる中、今回は12議席前後か。
その場合、自公が1人区で23勝すれば改選過半数をクリア、10勝すれば参院全体での過半数を死守する。
実は野党は6年前の参院選1人区は、10勝22敗だった。今回、少なくとも10の1人区で勝利しなければ、戦いにならない。ところが、その“10勝ライン”さえ危ういのが現状だ。
野党が6年前に勝利した10の選挙区(岩手、秋田、宮城、山形、新潟、長野、滋賀、愛媛、大分、沖縄)に注目すれば、今回の参院選の行方が見えてくる。
今回はこのうち、岩手、滋賀、沖縄を掘り下げてみよう。
岩手──自民も野党も「落ち目対決」
岩手はかつて「小沢王国」として知られた野党の牙城だ。6年前は立憲の横澤氏が自民の平野氏に1万5000票差で勝利。3年前には、自民の広瀬氏が立憲の木戸口氏を破った。今回は、6年前の横澤氏と平野氏の“再戦”になる見込みだ。
小沢王国の力はかげる一方、自民の広瀬氏はスキャンダルで辞職に追い込まれたばかりで、自民岩手県連もボロボロである。落目同士の対決といえるかもしれない。
こうした中、国民民主党の玉木代表が、5月2日に岩手入りして候補者擁立の意向を示した。仮に国民が候補者を立てれば、野党票が分裂し、自民が漁夫の利を得る可能性が高い。
これは、岩手に限った話ではない。国民と立憲の対立は深まっており、もはや共闘よりも選挙後の「自公連立入り」を巡る主導権争いの様相を呈している。
岩手は、野党分裂の象徴的な選挙区となるかもしれない。
滋賀──野党乱立で「三すくみ」状態
もっとも混迷を極めているのが滋賀だ。6年前は元知事の嘉田由紀子氏が野党共闘で自民候補に競り勝ったが、その後の迷走が選挙区に影を落としている。嘉田氏は国民民主から離党し、維新に合流。今回の参院選では比例出馬に回り、地元滋賀からは出馬しない。
その空白をめぐって、各党が乱立。自民は元守山市長、立憲は県議、国民は中小企業診断士、共産は県委員、維新は元新聞記者と、5人が立候補を予定。野党の「四分五裂」が露呈している。
一部には立憲と維新が予備選で候補を一本化する構想もあるが、実現性は不透明だ。維新内部でも、前原・嘉田氏らの合流組と旧来のメンバーが衝突し、組織は分裂状態。そこに連合の調整も空回りしている。
滋賀は、野党の“てんでバラバラ”ぶりが可視化された選挙区である。
沖縄──「オール沖縄」の瓦解
最後に沖縄だ。かつて翁長雄志知事が「オール沖縄」を掲げて保守からリベラルまでを結集し、米軍基地反対で勢力を築いた。6年前、3年前と続けて野党系候補が勝利し、「野党王国」とも言えた地域だった。
しかし、翁長氏の死後、後継の玉城デニー知事の下でオール沖縄は分裂。自治体選挙で敗北が続き、組織の求心力は落ちている。
今回は、現職の高良鉄美氏が内紛で出馬を断念し、新たに沖縄大学教授の高良さちか氏が立候補するが、れいわ新選組は距離を置いている。
実は、沖縄におけるれいわの勢いはすさまじく、昨年の衆院選比例票では共産、社民、国民、維新を上回った。れいわが独自候補を擁立すれば、またしても野党票は割れ、自民が議席を奪う構図が見えてくる。
野党は“共闘後進国”のまま終わるのか
岩手、滋賀、沖縄──いずれの選挙区も、野党が一致団結できれば確実に勝てるはずの地域だ。
しかし、各党の思惑が交錯し、候補者調整は進まず、結果的に「敵失を拾う自民党」の構図になりつつある。
岩手、滋賀、沖縄は6年前の参院選で、野党が共闘して勝利した10選挙区のうちの3つだ。
残る7つのうち、宮城、新潟、愛媛、大分などでも、今回は大激戦が予想されている。
石破政権は支持率が低迷し、裏金問題も尾を引く。にもかかわらず、野党は分裂状態のまま選挙戦に突入し、またしても自民に負けるのだろうか。
次の国政選挙は、野党の存在意義が試される分水嶺になるかもしれない。