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オーストラリアから日本を思って(14)小説『1984』と現代日本と新しい世界〜プロパガンダを真実だと騒ぐ人々~今滝美紀

パンデミックやウクライナとロシアの紛争を通して、これまで信じてきた政府やマスメディアの情報を疑うようになった方は少なくないと思います。

私は、よくわからないことを断定する為政者に不信を抱くようになりました。

日本には、都合の悪い記録を残さない慣習があります。真実を明らかにせず、政策を強行に推し進める政府・為政者・マスコミへの不信が深まり、不安や心配が増幅しています。

不可解な問題はどんどん積み重なります。今だけでもジャニーズ事務所の性加害問題、木原官房副長官をめぐる疑惑、原発汚染水の海洋放出問題、コロナ対策やワクチン接種問題、マイナンバーカード問題、ロシアとウクライナの紛争…。遡るとアイヌの人々の扱いや日本の第二次世界大戦への参戦経緯の記録は残っていません。

度々思い浮かぶ言葉があります。

「戦争は平和だ。奴隷は自由だ。無知は強さだ。2+2=5だ」

この意味が通じない、なぞかけのような不可思議な意味は何なのだろう?

これは、書かれてから約75年経っても出版数が増えているディストピア小説「1984」の有名な言葉で、世界を支配しようとする政党のスローガンです。

「1984」は第二次世界大戦後の1948年に、英国人ジョージ オーウエルGeorge Orwellが、結核で亡くなる約1年前に、病と闘いながら書き上げられました。並外れた“先見の明・警告”から、小説の評価も高まっています。

豪州では、高校でオーウエルの小説が教材に取り上げられ、学習したということもききます。妻のBlairさんは、英国の情報省の検閲部門と食糧省で働いていました。世界大戦時中、英国BBCで放送を担当しジャーナリストとしての実体験から書かれたこの小説を基に、このスローガンの謎解きをしていくと、理解に苦しむ現在の出来事のからくりも見えてこないでしょうか。

「1984」には「集団思考」を操り、大衆を全体主義にコントロールする仕組み、それに反発する人々さえも徐々に従う側に変化する様子が書かれています。

キーワードは、 

①「二重思考/Double Think」

②「思考犯罪/Thought crime」                        

③「思想警察/Thought Police 略してThinkpol」

④4つの世界:オセアニアOceania、ユーラシアEurasia、東アジア、紛争地域Disputed territories 

⑤「ビック ブラザー/Big Brother」

   

①「二重思考/Double Think」 

「二重思考」は人々を混乱させ、諦めさせ、従順にし、支配者が半永久的に権力を握るための主要作戦です。現在は「二重基準/Double Standard」も使われています。          

例えば、日本でもご飯論法・きな粉餅論法・ストローマン論法という論点ずらしや捻じ曲げ、理論の破綻、責任逃れ、うそが、公の場で平気で使われているようになりました。

主人公のスミスによると「二重思考」とは、                        

1)相反する意味の言葉・信念を矛盾していると理解しながら、正しいものだ、として受け入れること。(例:平和を守ろう!戦争を支援しよう)

2)知るべきことと知りながら、知ろうとしないこと。(例:処理水の成分?ワクチンの成分は?→調べてはいけません。ウクライナ戦争でのウクライナ人の死亡数→公表されません) 

3)完全に真実を意識しながら、一方で注意深く組み立てられた嘘をつくこと。(例:「関係者の理解なしにいかなる処分(原発汚染水ALPS処理水海洋放出)も行わない」→福島の漁業者は反対しているにもかかわらず行われました)

4)論理を使いながら、理論に逆らうこと。(例:漁業者との約束は「現時点では果たされていないが、破られたとは考えていない」(福島第一原発汚染処理水の海洋放出における岸田政権の弁明)

5)道徳を主張しながら、道徳を否定すること。(例:複数の問題を抱える木原官房副長官・票の買収・賄賂・嘘・差別のヘイトスピーチの容認や隠蔽)

6)民主主義の守護者でありながら、民主主義は不可能だと信じること。(例:民主主義を守るためウクライナへの戦争支援を最後までします→何十万のウクライナ人は亡くなり、終結は見えません。ウクライナの土地は支援国企業に売られ、人々の命と自由が奪われています)

7)忘れるべきことは何でも忘れ、必要な瞬間に再び記憶の中に戻し、そしてまたすぐに忘れること。(例:“ 記憶にありません”)

このように事実・法・善悪・道徳などに関わらず、とにかく支配者の指示に従わせられます。

第9回で紹介したカナダの社会学者・犯罪心理学Roger Hare氏が明らかにした「企業/組織」は、集団心理が働き、利益追求のためにサイコパスのように振る舞い、罪悪感を感じられず、利益のために真実を隠し、ずる賢いことを行う傾向がある。米の心理学者Stanley Milgram氏の「服従の実験」支配者に指示されると非人道的な事を、状況に応じて、善良な人々でも85%がそれに従ってしまう。そして、最終的に支配層の組織には、汚職にノーと言い、正しいことを行える人々は、残らなくなってしまうでしょう。

下のオセアニアの英国社会主義のスローガンは、支配者目線から考えると納得できました。

「戦争は平和」…支配者はその位置を脅かされずより平和でいられます。現在でも“平和のために戦おう!”という論法で、いつもどこかで戦争や紛争が複数起きています。

「奴隷は自由」…奴隷を増やせば支配者はより自由にコントロールできます。世界基準から外れた低賃金や長時間労働が改正されません。外国からの技術実習生への悪徳な扱いもあります。

「無知は強さ」…人々に真実の情報を与えなければ支配者は強く振る舞えます。主要メディアは政府与党に都合が悪い事は、ほとんど報道しません。そして、選挙に強く長期政権を維持できます。

「2+2=5」…嘘や不確かな事も、まるで本当のように伝えられます。

 “原発は安全だ”→“原発事故は想定外だ”

 “想定外”を繰り返す日本を信用できない中国の日本からの水産物輸入禁止→これも“想定外”だ 

他にも私の気づかない「二重思考」それを表す「二重表現」が、あるのではなでしょうか? 

②「思考犯罪/Thought crime」

オセアニアの英国社会主義に反する信念は、思考するだけで犯罪とされます。

③「思想警察/Think Police略してThinkpol」

秘密警察は、犯罪や疑惑の発見・訴追・排除を担当します。彼らはTVスクリーン・カメラ・盗聴を介した視聴覚監視と犯罪者のプロファイリングで人々を監視しています。

支配者の意に沿わないリーダーたちには、事件が起こり失脚させられました。カリスマで慕われていたリビアのカダフィ氏・米国のケネディ氏・チリのアジェンデ氏・インドネシアのスカルノ氏・イラクのフセイン氏・日本の田中角栄氏、橋本龍太郎氏など枚挙にいとまがありません。

豪州の軍弁護士だったBcBrideさんやアサンジAssangeさんは戦争犯罪を告発すると、スパイだ、と追及・拘束されて、人々に戦争犯罪を黙認させようとしているようです。

立憲野党内でも、処理水を汚染水と表現したり、コロナワクチンに疑問をもつたりすると党から注意されていました。小西ひろゆき議員が私的な場で衆議院憲法審査会を「サルのやること」と言ったことも同様です。れいわ新選組議員の国会でのプラカード表示に懲罰動議も過剰反応だと感じました。ガーシー前参議院議員は逮捕され表現の自由を奪われました。様々な問題を抱える木原官房長官は、何の問題もないかのように扱われています。

これらは、「1984」で説明されているように、支配者の都合に合わせた二重思考が使われて支配者・政治家・マスコミ・警察・検察がタックを組んでコントロールしているように見えます。

犯罪までとはいかなくても、Youtubeでは、ワクチンや特定の薬等の話をすると禁止Banされ、ツイッターでは、ファイルがあり、そこにある内容をツイートすると、検閲されアカウントが凍結されていました。Xでも、凍結はありますが、ゆるくなったようです。

日本人が原発汚染水ALPS処理水に懸念を示すと“反日売国”という言葉が飛び交います。Xでは「露骨な反日。国内の漁業を守る気などない」「こんな連中はもう日本人であることを辞めて、どこか外国に移住したらどうか」というコメントがあり、何千もの♡マークが押されていました。産経ニュースは中国の処理水の不安を攻撃と捉え「狙いは台湾・韓国での反日誘因?」と汪文斌報道官のいかめしい写真と共に報道していました。

ワクチンに疑問をもつと“陰謀論だ”という飛躍した言葉が飛び交い、そこで話はブロックされてしまいます。

根拠が乏しく安易に乱発される“反日”“売国” という言葉は「1984」で「ニュースピークNewSpeak」と呼ばれる「思考の範囲を狭めるため」に、文法や語彙を制限し、意図的に曖昧さや混乱を招くために使われているようです。

主人公のスミスは“真実の省”という何が真実かを決定する“プロパガンダ製造所”に勤務しています。ここでは、「ニュースピーク」の言葉をつくり拡散します。また「二重思考」の理論で、状況に応じて2+2=5も真実だと共通理解されて、党の教義に合うように事実や歴史が改ざんされます。          

例えば今の日本のマスコミが、ジャーナリストが自由に取材できないウクライナで“ウクライナは勝っている”と継続して報道し、原発汚染水ALPS処理水を“処理水”と簡略化し全く問題がないかのような印象を広めていることと重なります。

“真実の省”は、日本では総務省に当たるのでしょうか。話が脱線しますが、総務大臣の松本剛明氏は元民主党で2016年に自民党へ入党しました。これは、民主系野党議員の自民党への勧誘をアピールし、政権交代を目指す野党つぶしの作戦でしょうか。

「二重思考」とそれを強いる環境が続くことで、最終的に指示や命令なしで、ほとんどの人々は忖度して判断し言動をとるようになるということです。

④ 4つの世界

次は地域名:イデオロギー(所属地方)です。世界の動きも政局が大きく影響しているようです。

❶オセアニアOceania:英国社会主義(イギリスを発祥とする国々、南北アメリカ・オーストラリア・ニュージーランド・南アフリカ) 

❷ユーラシアEurasia:ソビエト社会主義(ヨーロッパ・ロシア)

❸東アジア:死の崇拝・自己の抹消(日本・中国など)このイデオロギー設定は、ちょっと恐ろしいと思いました。一体何を意味するのでしょうか。

❹紛争地域Disputed territories(1,2,3に囲まれた、アフリカ・中東・アジアで、紛争が起こる地域)です。

世界には国が無くそれぞれの地方に自治権は、ありますが地域のイデオロギーと支配者にコントロールされています。                  

労働力を搾取し資源を戦争で浪費して、上層の富の増加に努め階級社会の安定化を維持し、支配階層が権力を半永久的に維持できるようにするためで、「永久戦争」が続けられているとされています。第二次世界大戦後も、主に中東・アジア・アフリカで戦争が続いています。

現在は、大国の一つロシアの隣国ウクライナで起こり、より緊張が高められる一方で、世界のパワーバランスは多様化し急速に変化しています。

オセアニアにアジアの日本・韓国・多くのヨーロッパやロシア帝国だった国々が加わり、西側諸国と呼ばれるようになりました。英国はヨーロッパの不沈空母と呼ばれていましたが、極東の日本や韓国はオセアニアのための不沈空母として使われているようです。

BRICS (ブラジルBrazil・ロシア Russia・インド India・中国 China・南アフリカSouth Africa:経済発展の著しい国々により2009年に設立された世界経済組織)が勢いを増しています。中東の主要な国々とアルゼンチンなど六か国が加わり、更に約40国の加盟希望があるそうです。

BRICS首脳会談が今年8月に行われました。

インドのモディ首相は「BRICSを迅速かつ包括的な集団的解決策を構築するグループと定義する」とし、この8月の首脳会議でブラジルのルーラ大統領は、新加盟国を含めるとBRICSのGDPは世界の37%、世界人口では46%まで増えると述べ、新規加盟を歓迎した、と報道されました。絶え間ない数々の戦争に興じるオセアニア/西側をよそに、BRICSやグローバルサウス/新興国は、それぞれの国の繁栄を目指す集団として集結しています。

この9月10・11日にインドで行われたG20は、 アフリカや東南アジアの国々も招待されました。インドは新しい世界のリーダーとして存在感を示し、西側とグローバルサウス/新興国、途上国、BRICSを繋ぐ重要な役割を果たしています。モディ首相は、植民地支配後、英語圏で使われる“インド”ではなくインドでの呼び名“バーラートBharat”を使い、植民地支配下のマインドコントロールから脱却することをアピールしました。   

 

この世界の流れを見ると、戦争を起こし武力での一強支配ではなく、協力と協調でパワーバランスのよりとれた世界に変化していく兆しを感じます。この流れに日本が加わり貢献し、戦争のない平和で穏やかな世界を目指す道を選択できないのでしょうか。

現在の日英米で共通することは、戦争支援に庶民が犠牲となり、貧富の差を広げ、貧困層の増加と固定化、階級化が進んでいることです。そして支配者層がより権力を握ることができます。

インボイス税制度(これも人々を困惑させる言葉ニュースピーク)もSamejima Timesで警告されたように、人々を自営業ではなく、支配しやすい組織に取り込む作戦の一つのようです。マイナンバーカードを半強制的にすすめるのも個人を管理・規制しコントロールするためでしょう。

豪州で感じるのは、西側に所属しても極東アジアの日本は、外様大名ではないかということです。元々英国/アングロサクソン人を起源とする“五つの目の国々ファイブアイズFive eyes(英米加豪新)の親藩とは扱いが違うのではないか。それは、豪州と比べて日本政府与党の日本衰退、自虐政治が、あまりにもひとどいと感じるからです。

税をとっても豪州と比べると、日本は税金等の種類が多すぎます。所得税の他に、健康・年金・介護保険や復興税、相続税、NHK受信料までが徴収され、基本的な食料にも消費税が掛かる(これらは豪州にはありません)。過去最高の税収で、庶民の生活苦は高まるのに、まだ消費税を上げ、必要のない海外へのバラマキや巨額の軍事費に使っています。異常としか思えません。農業の衰退と食料確保、何百年も生存してきたのに、消えてゆく多くの町村と文化伝統も心配です。これは、日本の繁栄を良しとしない同盟国の指示があるのではないでしょうか。そして、与党政権や官僚は、従順に従っているだけ。

豪州では、人口が増加し信用創造で積極財政が行われています。バラマキではなく医療・教育・再生エネルギー・インフラなど必要で効果的な投資です。でも、日本では “積極財政はバラマキだ”という悪い印象が広がっています。

鮫島さんの講演 “財務省とマスコミが積極財政を嫌う理由~権力者はお金で人を支配する” で、その構造を詳しく聴くことができます。

⑤「ビック ブラザー/Big Brother」

実像がつかめないオセアニアをコントロールするリーダーとされていますが、私たちのビッグブラザーは顔のない政府の組織ではなく、カリフォルニア州パロアルト(シリコンバレー)に住む、一握りのスニーカーを愛好する人々だ、とも言われています。

おわりに

ディストピアの暗たんとする小説を書いたオーウェル氏ですが、彼の一番の関心は、ガーデニングで、“熱心な反ファシストであり、熱心な庭師”でもあったそうです。彼が育てていたバラは、今でも手に抱えきれないほどの大きな花が咲き乱れているそうです。

生物と一緒にいることで、オーウェルはそのように生き物として存在することができたそうです。

そして、小さな喜び、例えば釣り、田舎での散策、おいしいミルクティー、良いパブ、おとぎ話などが好きだったそうです。安価で楽しめるものばかりです。

また、彼はジャンク ショップJunk shopというガラクタ売りの店を歩き回り、ほこりをかぶって半分壊れた宝物を探すのが好きで、他の人にも勧めたそうです。豪州にはたいてい地域に1つ以上はこのジャンクショップという、要らなくなったものをリサイクルするお店があります。多くがチャリティーショップで、売り上げが慈善活動に寄付されます。安価なだけでなく、掘り出し物があるので、貧富関係なく多くの人々がこの店を喜んで利用しています。

埃っぽいジャンクや一杯のお茶、バラなどの楽しみは「不愉快な事実、真剣な仕事から切り離されたもの」だけではなく、大切に守られなければならないものだそうです。

世界で最悪の事態を真剣に見つめても、彼は憤慨したり、不機嫌になったり、まったく惨めな人間になったりすることはなかった。うまく小さな喜びを混ぜ合わせていたからでしょう。だから、人生の最後の5年半をかけて「1984」を書き上げることができたのかもしれません。

全ての家の前庭に何やら植物が植えられている通りがあります。豪華なバラもあれば質素な多肉植物もあります。朝ミルクティーを飲んで、植物を見ながらそこを歩くだけで、確かに気持ちが穏やかになるのを覚えます。

1984年日本は、中国からパンダが贈られたり、男女ともに長寿第一位の国となり今よりも明るく活気があった年でした。さて2024年はどうなるでしょう。                     

下の写真は、ジャンクショップで売られていたものと近所で撮った写真です。

                                             


今滝 美紀(Miki Imataki) オーストラリア在住。 シドニー大学教育学修士、シドニー工科大学外国語教授過程終了。中学校保健体育教員、小学校教員、日本語教師等を経て早期退職。ジェネレーションX. 誰もがもっと楽しく生きやすい社会になるはず。オーストラリアから政治やあれこれを雑多にお届けします。写真は、ホームステイ先のグレート オーストラリアン湾の沖合で釣りをした思い出です。

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