※オーストラリア在住の今滝美紀さんが日豪を比較しながら「変わりゆく日本」への思いをつづる連載です。
オーストラリア博物館の庭にレインボーシャークが姿を現したのは2月はじめのことです。「プログレッシブ シャーク(Progress Shark、進歩するサメ)」と呼ばれ、市民から親しまれています。
オーストラリア周辺の海洋には、多くのサメが遊泳しています、その鋭さにも関わらず人気があり、鮫島タイムス主筆のイメージにも重なります。
レインボーシャークは、州政府がシドニーで開催している「World Pride」(世界最大のLGBTQIA+のフェスティバル)の非公式マスコットでもあります。
LGBTQIA+は、Lesbian/Gay(女性/男性の同性愛者)、Bisexual(男性にも女性にも恋する人)、Transgender(身体と心の性が同じでない人)、Queer/Questioning(曖昧でいいんじゃない/分からないという人)、Intersex(両性をもつ人)、Asexual(恋愛感情をもたない人)、+(その他みんな)の頭文字を取った言葉です。
最近は、性に関係なく、ある意味みんな少数派で「自分らしく。みんな違ってみんないいよね。Living in harmony. ハーモニーみたいに暮らそう」という広い意味でも使われるようです。生物学的な性や異性婚の枠のみに当てはめようとする方が自然ではないのでしょう。
日本でもオーストラリアでも、女性が男性的で男性が女性的で、うまく行っているなあと感じるカップルに出会ったことがあります。私自身あまり気にしたことはないけれど、男っぽい時と女っぽい時が確かにあります。でも、このまま自然体でいいのだと思います。
LGBTQIA+という流れが世界に広がっている今、首相が「同性婚を認めると社会がおかしくなる」と答弁し、首相周辺が「気持ち悪い」と発言するニュースが日本から流れました。
ひとりひとりの自由や違いを認めて尊重しようとしていないのでしょうか。人々の思いを受け入れず、自分の価値観に、無理やり押し込めようとしているようで、私は「息苦しさ」を感じます。野党第一党の代表には、しっかりと追及してほしかったです。
オーストラリアで去年5月に9年ぶりとなる政権交代を果たした労働党(庶民派+社会派)のAlbaneseアルバニージ(通称Alboアルボ)首相は、初めてWorld Prideに参加する豪首相になりました。イタリアからの移民で母子家庭、公共住宅で育った庶民派です。
約10年前に党内が紛糾し野党に下野した後、3回目の代表選で初めて代表になることができました。その後メディアに叩かれ続け、コロナ禍で表舞台に立つ機会も少なく、支持率は低迷しました。それでもメディアや他党からの攻撃にひるむことなく、与党にへつらうことなく、自らの国家ビジョンを訴え続け、6週間の選挙戦終盤に支持率で与党に追いつき、労働党の議席を伸ばして勝利しました。
この本気度とガッツ、一部の裕福層のためだけではなく多くの国民と国全体、環境を考えた政策が、政権交代を果たした大きな理由だと思います。
首相はWorld Pride フェスティバルに際して、全てのオーストラリア人は、どこで生まれても誰を愛しても、平等に尊重されるに値する、とメッセージを送りました。以下のツイートです。
Are you happy?ハッピー?幸せ?If you are happy, I am happy.あなたが幸せなら私も幸せ、という表現を耳にします。大切なのは、それぞれが自分らしくいられるという幸せを感じ、心地よく暮らせることだと思います。
より多くの少数派の人々が、ハッピーで生き生き暮らすことができれば、国全体としてのパフォーマンスも上がるはずです。
日本の自然や芸術は確かにユニークで美しいけれど政治家が漠然と口にする「美しい日本」という言葉は何を指しているのかなと感じます。見えるものだけではなく、一人ひとりが放つ違う音色が響き合いハーモニーになり、その国にしかない音楽が流れているような、そんな国が「美しい国」なのではないかと思うようになりました。
オーストラリアでは、同性婚への声が高まり「政治家ではなく国民が決める」という文化(考え方)のもと、2017年の自由党+国民党(裕福層派、日本の自民党に似ています)政権で、同性婚を認めるかどうかYes Noの国民投票が行われました。結果は約80%の投票率で、約60%がYesに投票し認められました。
この時、首相だったTurnbull氏のツイートが話題を集めました。彼は自由党でキリスト教との関わりからか、同性婚Noの投票をしたのですが、「オーストラリアは圧倒的に同性婚Yesを望んでいることを表した、クリスマスまでにこの法案を成立させたい」という考えを表明したのです。
さらに1年後には「5千近い同性婚のカップルが誕生した、この結果はデモクラシー、平等、フェアーに行こうということを示している、おめでとうオーストラリア!」ともツイートしました。
自分と違う意見や考えが国民から示されたらそれに従い、国をまとめるリーダーとしての役割を果たそうという姿勢を表そうとしたのだと思います。
2月24日のSamejima Timesでは、与党だけでなく野党にも広がり始めた世襲政治の問題が取り上げられました。庶民との交流は少なく、政治家の家庭という優遇され恵まれた中で生活し、羨望される就職にも、親のこねで就くことができるのならば、一般の人々の生活を見て思いやった政治をするのは、難しくなっているのでしょう。
そして「人民の、人民による、人民のための政治」として始められたデモクラシー/民主主義が、いつの間にか「為政者の、為政者による、特権階級と為政者のための政治」に変わり、それが普通のようにふるまっているように見えます。
日本の野党にも、与党に対峙して国や環境、国民全体を考えた政治をしたいという、知識や経験のある政治家の方々がいると思います。大胆に行動し、政権を取る戦う集団としてまとまって欲しいと思います。それとも救世主の出現が必要でしょうか…。
Sydney WorldPrideの様子は次回お伝えしたいと思います。
最後にProgress Sharkとレインボーにライトアップされたオペラハウス、レインボーに彩られたシドニーの写真を載せておきます。
今滝 美紀(Miki Imataki) オーストラリア在住。 シドニー大学教育学修士、シドニー工科大学外国語教授過程終了。中学校保健体育教員、小学校教員、日本語教師等を経て早期退職。ジェネレーションX. 誰もがもっと楽しく生きやすい社会になるはず。オーストラリアから政治やあれこれを雑多にお届けします。写真は、ホストファミリーとグレートオーストラリアン湾の沖合で釣りをした思い出です。