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立憲民主党はなぜ、コネ人事の岸田翔太郎氏、家系図自慢の岸信千世氏を徹底追及しないのか?「世襲批判」を手控えるようになった野党第一党の変節の理由

自民党の世襲政治に対する批判が久しぶりに高まっている。

火付け役は岸田文雄首相の長男翔太郎氏だった。岸田政権発足1年の昨年10月、31歳の翔太郎氏を首相秘書官(政務)に抜擢する人事は「縁故人事」「公私混同」と激しく批判され、内閣支持率の下落を後押しした。

翔太郎氏がフジテレビの女性記者に内部情報をリークしているとの疑惑報道が追い打ちをかけ、年明けには岸田首相の欧米5カ国訪問に同行した際、パリとロンドンで公用車に乗って観光地や高級デパートを巡っていたことが発覚。岸田首相が「公務だ」とかばったことで世論の怒りは頂点に達したのである。

そこへ続いたのは安倍晋三元首相の甥、岸信夫前防衛相の長男である岸信千世氏(31)だった。体調不良の父親の議員辞職に伴う衆院山口2区補選へ出馬を表明するやいなや、岸家・安倍家の家系図を公式サイトに掲げたことが「世襲自慢」として大炎上したのだ。

曽祖父は岸信介元首相、曽祖叔父は佐藤栄作元首相、祖父は安倍晋太郎元外相、伯父は安倍晋三元首相ーー岸信千世氏が掲げた華麗なる家系図は大ひんしゅくを買い、公式サイトはただちに「メンテナンス中」となった。

翔太郎氏も信千世氏も政治名門家の4世。慶大を卒業して一方は大手商社、一方はテレビ局を経て31歳で「政界デビュー」し、いきなりずっこけた。絵に描いたような「世襲問題」の勃発である。

自民党を巣くう「世襲問題」について、プレジデントオンラインに『岸田首相の長男は「コネ採用」、安倍元首相の甥は「家系図自慢」…日本の政治家が残念な存在になった根本原因』を寄稿した。本題はそちらに譲るとして、きょうはこの寄稿から「野党への疑問」の部分を紹介したい。

私の疑問ーーそれは自民党の世襲政治を体現する「翔太郎と信千世」という格好の標的がせっかく現れたにもかかわらず、野党はなぜ、痛烈な批判を浴びせないのかということである。

私が朝日新聞政治部で最初に民主党を担当したのは小泉政権が誕生する直前の2001年はじめだった。当時は松下政経塾出身の前原誠司氏や弁護士の枝野幸男氏、財務官僚出身の古川元久氏ら若手ホープが頭角を現し、自民党の世襲政治を厳しく追及していた。

民主党が2009年に自民党から政権を奪った時も「世襲批判」は自民党を攻め立てる強烈な切り札だった。民主党は親と同一選挙区から出馬することを内規で禁じ、世襲政治との決別を鮮明に掲げていたのである。

ところが、今の立憲民主党からは「世襲批判」はほとんど聞こえてこない。いったいいつから「変節」してしまったのか。

プレジデントオンラインの記事にはその考察も盛り込んだ。以下が該当部分である。

 1996年に誕生した民主党は当初、小選挙区・二大政党制のもとで政権交代を目指し、自民党の世襲政治を厳しく攻撃した。

 この背景には、エリート官僚や弁護士、松下政経塾出身の政治家志望者たちが衆院小選挙区から出馬するため、世襲を中心に選挙区が埋まっている自民党ではなく、候補者が足りない民主党を選択したという事情がある。

 前原誠司、枝野幸男、野田佳彦、細野豪志の各氏ら民主党ホープをはじめ非世襲の若手議員たちは自らの庶民性をアピールし、自民党の世襲政治と対比させた。菅直人氏の長男源太郎氏が2003年と05年の衆院選で父親の選挙区のある東京ではなく岡山1区から出馬したのは、世襲に厳しい党内世論を踏まえたものだった。

 民主党は親と同じ選挙区から出馬することを禁じて世襲政治と決別する姿勢を鮮明にし、2009年に政権を奪取したのである。

 この原則が崩れたのは、立憲民主党を旗揚げした2017年以降である。

 同党の羽田雄一郎参院議員の死去に伴う21年4月の参院長野補選に、立憲は弟の羽田次郎氏を公認して当選させた。枝野代表は「世襲だからと機械的に否定するのは硬直的だ」と明言。衆院北海道3区の荒井聡元国家戦略相の後継に長男を擁立する際には「荒井氏のご子息であることとは別に個人としてさまざまな実績がある」と強調した。

 野党から世襲批判が聞こえなくなったのは、かつて民主党の若手論客として頭角を現した議員の多くが50〜60代のベテランとなり、自分の子息らへの世襲を内心で考え始めたことが要因ではないかと私はみている。

 立憲民主党が世襲批判から容認へ転じたことは、党を率いる幹部たちが与党経験を経て、政治キャリアを蓄積するなかで、「政権打倒をめざす挑戦者」から「既得権益を擁護する守旧派」へ変節したことを象徴する事象ではなかろうか。「身を切る改革」を掲げる新興勢力の維新に野党第一党の座を脅かされているのも、新陳代謝の進まない立憲民主党の実情を有権者に見透かされているからだろう。

 立憲民主党はなぜ、岸田首相の衆院広島1区を受け継ぐことが確実視されている翔太郎氏や、山口2区補選に出馬する岸信千世氏に対して痛烈な「世襲批判」を浴びせないのだろうか。

 これほど世論に響く自民党批判の材料はない。自分たちがいずれ実行するかもしれない「世襲」へのブーメランを恐れて批判を手控えているとしたら、有権者への背信行為にほかならない。立憲民主党の政権批判が迫力を欠くのは当然だ。

立憲民主党が翔太郎氏や信千世氏の問題を国会でどう追及していくのか。私はこの政党の今後を占う試金石だと思っている。ぜひ読者の皆さんも注目してほしい。

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