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こちらアイスランド(61)素材はいいのに、何かが足りないレイキャビクのパン屋事情〜小倉悠加

5日間の隔離もPCR陰性で解放され、ぼちぼちと街に出るようになった。けれど、なにせ雪と風で空が荒れ模様。「わ〜い、久々のレイキャビクだぁ〜」と手放しにはしゃげない。

そんな中、去年から噂されていた新しいベーカリー「バカバカ」がオープンした。店名を「バカバカ」とカタカナで書くとなんとも困惑するけれど、アイスランド語でbaka(バカ)は英語のbake(ベイク)と同じ。英語のbakery(ベーカリー)はアイスランド語ではbakari(バカリ)なので、パン屋がバカバカでも変ではないことがお分かりいただけるかと。で、あえて訳せば「焼き焼き」というところ?

アイスランドのパンは押し並べて美味しいとは思うけれど、パン屋事情は日本の方が絶対的に豊かだ。それでもお勧めできるパン屋は街中に数件ある。

レイキャビクの街中で、間違いがないのはSandholt。ここは揺るぎなくピカイチであろうと思う。お値段も張るけど。

次はBrauð og Coで、シナモンロールやスヌードルと呼ばれるペストリーは、とてもジューシーで濃厚なバターの香りが特徴。時々トンカツが食べたくなるように、私はブルーベリー・ラクリスのスヌードルを無性に食べたくなることがある。

派手な外観が特徴のBrauð og Co。コロナ前は観光客と地元民でいつも列ができていた。

ランチに入るならBrikkのサラダセット(パンとサラダ=ペースト)も使える。

人口が多くはないとはいえ、個性あるパン屋が増えてくれればと願わざるを得ない。種類と創意工夫が当たり前のパン屋を知っているとーーーないものねだりかなぁ。

そんな状況の中、Bakabakaには少なからず期待を寄せた。ニューウエーブ・パン屋の旗手となったBrauð og Coの創設者が打ち出してきた新しいベーカリーだ。きっと何か目玉があるだろうと信じていた。

Brauð og Coが出現した時は「やっと新しい味覚を提供してくれるパン屋が現れた」と誰もが喜んだ。頼れるパン屋がSandholtしかない中、Brauðはクオリティを重視した上、変化球を出してきた。そしてそれがまた美味しかった!

私はオープン初日にBakabakaへと足を運んだ。場所はLaekjarbrekkaという名物レストランが長年営まれてきた最高の立地。レイキャビクのメインストリート沿いにある。

去年の夏からオープンが噂されていたこともあり、前述のように私は期待していた。けれど、直前になるとその期待は不安に姿を変えた。というのも、Facebookやインスタグラムに掲載される写真は美味しそうなパンではなく、ピザが一切れだけだった。勝負はマーケティングではなく中身のパンだ!という考え方であるとしても、ちょっと違くないか?開店前からワクワクを煽るものでも、華々しく存在感を見せつけるのでもなく、なんだかぁ。

予感的中で、店の窓越しに見えるパンに、食指や興味をそそられるものはなかった。

店内に入りパンのラックを見てもパッとしない。興味を持てるものはゼロ。だいたいドーナッツが大量に鎮座しているのはマイナスだ。パン屋でしょ?!本格的なパンで勝負しないでどーする。

という私の気持ちを汲み取ったのか、彼(夫)が店員に「普通のパンばかりで、目先が変わったものがないんですね〜」と話しかけたところ、「エキサイティングなパンはこれからたっぷり出てきますよ。開店初日なので、普通のパンだけ出したので」と、非常に弱気な回答。

先進的なものを提供していく考えであれば、最初からガツンとそれを出して店のイメージを打ち出すべきだろう。

例えば隣町にGulli Arnarというパン屋ができた。ここのパンはそれこそ大衆向けの安全圏で、クロワッサンも本格派ではない。けれど、ここはケーキで勝負したいようで、レイキャビク市内でも見かけないケーキがこの店にはある!

日本では珍しくないケーキ専門店も、アイスランドには存在しない。レイキャビクの街中でケーキを持ち帰り用に販売しているのは、Sandholt とApotekの二軒のみ。どちらの店も販売しているケーキの種類はかなりマンネリ(でも美味しいから許せる)。その点、Gulli Arnarのケーキは新しい伊吹として期待しているし、今のところ裏切られていない。そしてオープン前から、ガンガンとケーキを宣伝してきた。

そしてBakabakaだ。庶民が好きなパンを置くのはいいことだし、ここはイートインもあり、コーヒーやビールも売っていて、手軽に楽しく利用できそうだ。夜のメニューは見ていないが、当然ピザが出てくるのだろう。なるほど、ビジネスとしては非常にいい。

早朝から午後はパン、夜はビールにピザが売れる。立地が申し分ないこともあり、人出には困らない。普通に好まれるパンを出しておけば人は来る。特に奇をてらったり、冒険心あふれるものを出す必要もない。ビジネルモデルとしては理想的なのかもしれない。

私が買いたいものは何もなかったが、せっかくなので少し味見をすることに。4点で約2千円。アイスランドとしては普通から少し高め。レイキャビクの中心街価格なのでこんなもの。

左から時計回りに、他のパン屋との比較対象のために味見をしたクロワッサン。フレンチバニラの香りが効いた菓子パン、レモン・ココナッツのドーナッツ、オーツが入ったチョコレートクッキー。
もう少し工夫や捻りのあるパンを期待したけど・・・。これからそうものが出てくることを期待したい。

辛口で申し訳ないけど、クロワッサンは味はよかったけど、見た通り真ん中までよく焼けておらずグニャっとしていた。菓子パンはトッピングの香りはいいものの、練り込まれたクリームが少なくパン生地だけを食べているようで、白い粉物の印象が拭えない。

ドーナッツの生地は悪くなかった。開店当初で油が新しいのか、揚げ油が鼻についたり、胃にもたれたりすることもなく、とてもいい感じのケーキ地だった。彼は「普通」と評価したが、私の評価は高い。バターと卵を真面目に使っていて、生地のキメも細かくてとても好きだ。ただ、ココナッツが乗っているレモンクリームは微妙。なので残念ながら特にまた買いたいとは思わない。

クッキーの中身はどこのパン屋にでも置いてあるオーツやチョコチップが入ったものだった。味はとてもよかった。特にコーヒーとの相性は抜群。もしもこのパン屋でまた何かを買うことがあるとすれば、このクッキーだけかと思う。

全般に、いい材料を使っていることはわかった。けれど、私が期待したパン屋ではない。目新しいものがゼロ。

観光でレイキャビクに来て、気軽に小腹を満たすにはお勧めできる店だ。立地もいいし、パンは基本的には美味しいのでピザも美味しかろうと思う。

決して悪くはないんだけど、私が望む新しいパン屋ではなかった。高望みだったなぁ〜。

アイスランドの食文化はまだ始まったばかりだ。なにせここは長い間ヨーロッパの最貧国だった。食文化の前にサバイバルが問われてきた。伝統的な調理法は単純で、日本の工夫を凝らしたものには及びもつかない。だから単純比較はしないことにしているし、比較する意味もないと思っている。

でも、でも、それでも、美味しいものを食べたいのは世界共通の味蕾の望みかと。日本で、日本特有の文化をたっぷりと吸収した食事を二ヶ月も満喫した後、私の目にこのパン屋の開店は厳しかった。

小倉悠加(おぐら・ゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド政府外郭団体UTON公認アイスランド音楽大使。一言で表せる肩書きがなく、メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、カーペンターズ研究家等を仕事に応じて使い分けている。アイスランドとの出会いは2003年。アイスランド専門音楽レーベル・ショップを設立。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。自己紹介コラムはこちら

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