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こちらアイスランド(151)芸術的な夕焼け!霜と薄氷のハイランド、ディンクル滝への道は閉ざされていた〜小倉悠加

11月を迎えてアイスランドはまったくの冬景色だーーーと書かなくてはならないかと、10月の中旬には思っていた。ところが、ここ二週間ほどすこぶる天気がいい。気温は上がっても5度程度とはいえ、太陽の暖かさを昼間は甘受できるため、気分まで明るくなる。おまけに朝焼けも夕焼けも芸術的に見える。

朝焼けは、備長炭で焼いてます!と目に鮮やかな閃光が街を照らす。その熱気を受ける雲もまた、火事ではないかと思う騒ぎようだ。その熱源から少し離れると落ち着くのか、綿菓子に付けられたようなピンク色の雲もあれば、日が当たらないのが不満なのか、暗い空と同化して姿を隠そうとする雲もいる。

夕焼けは見るタイミングにより、乳白色のブルーとピンクが上手に混ざりあってグラデーションになっていたり、朝焼けの延長のような激しいオレンジ色をしていることもある。

毎朝、毎晩、この一瞬を上手に切り取って見せることができればと願うーーー。

そんな感じで晴天が続き、どうやらまだハイランドも雪が積もってなさそうだ。小型車でも安全に走行できる範囲だろうと判断し、例によって先週末もドライブへと馳せ参じた。

この時期のドライブは微妙で、新雪がサラっと降った程度であればいいけれど、少しでも積もり始めると、小型車では歯がたたなくなる。

今回出向いたのはショルサアゥ(Þjórsá)という川の西側の道だ。ショルサアゥは以前ご紹介したディンクル(Dynkur)という滝に流れる川で、前回は滝を川の東側から見た。対岸にもハイキング路があるようだったので、今回は西側から見るにはどう行けばいいのか?というのをテーマとした。

使ったのはスルタルタンガヴィルキュン(Sultartangavirkjun)という水力発電所の横を通って入る道だ。道はあるけれど、地図には番号もないので、どれほど道路公団が手を入れているのかはわからない。それを言うなら、前回行った東側の道も同じことだった。

毎回同じことを書くけれど、こういう道は情報量が非常に少ない。実質的には情報がゼロだ。冬場は言うまでもなく、夏でもこれ以上は危ないと感じたら、サクっと引き返すのが鉄則。我が家は小型車なので、その潔さと言ったら(笑)。

この道に入りすぐにわかったのは、標高が高いだけあり、既に凍っている場所が多いことだ。苔には霜が降りていたし、川の浅瀬には氷が張っていた。

道路自体は決して走りにくくはなかったが、景色はたいして面白くない。川に沿って迫り出す対岸の山の横っ腹が延々と見えるだけだ。これで道の標高が高ければ、山を越えて氷河が見えてもいい立地ではある。残念ながら川の流れも道路からは全く見えなかった。川は高い崖に沿って流れているため、少し歩いた程度では歯がたたないほど道路から離れていた。

「この道、面白くな〜〜い」

そう不貞腐れていると、少しだけ、川とは反対側のところに白く深雪を抱いた山々が見えてきた。おぉ、あそこらへんは絶対にケルリンガルフョットルの辺りだ!

「行きたい!行きたい!こんな退屈な道じゃなくて、今日はあっちへ行けばよかった!」

と心の中で叫んだ。実際は口にしなかったが(笑)。

さすがに夏休みは事前に計画を立てるけれど、週末の日帰りドライブは基本的にプランを立てていない。車を適宜走らせながら、さ〜〜て、どこへ行こうかと、ミステリーツアーよろしく、ほとんどは彼が好き勝手に決めて行く。

彼と私の間に特定のルールはなく、彼が運転手なので、まぁお好きにどうぞという感じだ。時々私が鋭くいいアドバイスをするけれど(本当に)。

すると彼が「この天気なら、あっちへ行けばよかったかな」と、私の心の叫びを聞いたかのように言った。

似た者同志なのだ。なにせこの数年間、ずっと二人であちこちドライブに出て、全く同じ体験をしてきた。考えることが似通って当然なのかもしれない。

前回ディンクルの滝を見に行った際、対岸にいい感じの滝があった。少しでも近づけないかと車を少し回してみたが、川幅の広さもあり、よく見えないままに終わった。

今回対岸をドライブしてわかったのは、その滝がグリューフルレイタルフォス(Gljúfurleitarfoss)という名前で、駐車場から1・5キロ程歩けばいいということだった。

うむ、知っていたならもっと早く家を出てきたし、ハイキング可能な格好をしてきたのだが・・・。

道中ずっと、電波が届く場所にくると、自分たちの居場所とディンクルの滝の位置関係を調べた。ディンクルに一番近い場所の近くに、どこかからきっと、滝を見られる場所へ続く道路ないしはハイキング・ルートがあるはずだからだ。

なのに、行けども行けどもそのような脇道がない。ここなら最短距離なのにという場所を通り過ぎ、結構な距離を走った(ように思えた)その時、

「あれだ、ユーカ。ディンクルと書いてある」とうれしそうに彼が言った。

それは金属製の正式な標識ではなく、誰かに蹴飛ばされたら飛んでしまいそうな手作り風の道標だった。もちろん手がかりはありがたい。

あぁそうか、この道はあそこにつながり、あそこをまっすぐ行けば確かに滝に近そうだと思いながらカーブを曲がった時、案内板が見えてきた。

よかった。やっぱりここから行けるんだと思った瞬間

「行き止まりだ」と二人同時に口を開いた。

あれ〜、ここから先はいけないんだ。縄を張り、大きな石を道路上に置き、車を通れないようにもしてある。なんと・・・。

悔しいなぁ、もう少しなのに。どうやら急勾配の坂の道が危ないらしい。歩いて検証までしなかったが、道の途中が崩れていることはわかった。そこさえ抜けてしまえば、道は悪くなさそうだ。

ここから歩くと、どの程度距離があるかの記載はなかった。ただ、ディンクルと前述のグリューフルレイタルフォスの滝の間が6キロあることはわかった。どちらにしても、ここから歩くとなると往復3時間程度見ておく必要があるだろう。滝の周囲で少しまったりしたいし。

これが夏なら、歩いていたかもしれない。日照が短いのでグヤ”ジ〜。

アイスランドのレンタカーは地元の会社から

この道は北部まで続く主要道にどこかで当たるはずなので、進み続ける訳にはいかない。どこかで引き返すべきで、ここで引き返すのがちょうどいいと思えたのだが。

「大きな川がもう少し走ればありそうだから、どの程度の大きさか見たい」と言われた。

ハイハイ、そんなことだろうと思ってました。

渡る気はないけど、夏に来る時のために下見をしたいという。ここまで来たので、その気持ちはよくわかる。

石がゴツゴツして走りにくい箇所があり、そこで「引き返そう」と言いそうになったが、まもなく走りやすい道になったところで、「この先、川あり」の標識が登場した。これがあるということは、道路公団が一応管理はしているということだ。右手の方に川が見えてきた。

あぁ、これは渡りたくないわ〜(笑)。

日没も迫っているので渡る必要もない川は渡るつもりもないけれど、これは川幅が広い!他の車でも来て、渡ってくれれば深さも判明するから挑戦しないこともないけど、どちらにしても無駄なので、ここで素直に引き返した。

ただ、この場所の眺めはとても素晴らしく、アイキャッチにしたのもここで撮った写真だ。

ちなみに、この道に入ってから遭遇したの車は2台だった。狩りが目的なのではと思う。気持ちのいい夏の休暇シーズンでもないので、こんな場所に来る物好きな車は、たぶん我々だけだったことだろう(いつものことだけど)。

水が流れる以外に全く音のない、心落ち着く場所だった。これが雪と氷だけの世界だと、物悲しく思ったかもしれない。

ここから途中で停車せずに走れば、日没までにはこの道路から抜け出せる計算だ。あぁよかった。

こういった未舗装道には街頭が一切ない。道を見誤ると危ない場所には、申し訳程度に大きな石が置いてあったり、目立つペンキが塗ってあったりするが、たとえ危険はそれほどないとはいえ、道を外れることはしたくない。昼間でさえ、ここは本当に道なのか?と思うこともあるので、日照のない時間に走ることは避けたい。

ということで、時間内に入り抜け、無事に街頭のある幹線道に辿り着いた。これでお終い!になる予定だった。

それがなんと、幹線道を少し走ったところで

「ここからハゥイフォス(Háifoss)へ行くから」と宣言された。

「*+え&%$”??」

「ちょうど夕日が沈むから、きっとスペシャルでいい感じなんじゃないかと。ここまできたからいいだろう。寄り道といっても片道15分だ」

私はもう帰りたいのに・・・。

日本女性は本当に心優しい。風が強くて劇寒であろうことが分かっていても、何も言わずはいそうですかと黙ってついていった。確かにここまで来ればたったの15分だし、景色もいいかもしれない。ただしめちゃ寒いだろうけどさぁ〜〜。

左隅の上に風に飛ばされそうなニット帽を押さえている私がいる

スマホでもこれだけ綺麗な感じなので、実際は本当に素晴らしかったけれど、惜しいことに日没には3分ほど遅かった。

このハゥイフォスも以前にご紹介していた。動画もあるし、夏の最高にいい時期に行っているので、ぜひご覧ください。

ドライブ中は少し不満をもらした時もあったけれど、こうして振り返れば、冒険もできたし、充実した1日だった。

今年はあと何度郊外へ出られるかは天候と雪次第になる。

小倉悠加(おぐらゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。

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