今回は最近の私の心境を。
一言で言えば、「歳をとった」。見た目が如実で、白髪染めなど間に合わない。そろそろ髪を染めるのをやめるか、いっそのことピンクにでも染めてしまおうかと思う。
日本ではピンクなどに染めたらヤンキーか何か?と言う感じだけど、60代も半なので、先も短いし許してちょ、という感じになる。ならない??
この国は何でもありなので問題ない。それに私は滅多に外に出ないし、人に合わない。好きにさせて、という感じだ。
心境の変化、何がきっかけということはないけれど、考えてみれば先は短い。短いとはいえ、まだ長い。長いのか短いのかどちらなのか?明日死ぬかもしれないし、あと30年くらいは生きるのかもしれない。どちらかはわからない。
どちらにしてもあと50年はない。ただ、我が家はどちらに転んでも長寿な家系であることは知っている。
父方の祖母は96歳、母方の祖母は100歳マイナス1日。私の母は現在90歳。これを考えると、どうも短命ではなさそうな気がする。現在60代半ばで結構元気なのも事実だ。
例えばこの夏、いきなり15キロ歩かされた話は以前に書いた通りだ。
基本的にはピンシャンしているけれど、それでも見た目が如実に年寄りになってきた。
フと思った。そうか、この年齢、もうおばあちゃんなのだ!知ってたんだけど、実感がない!
考えてみればもうそろそろ年金が降りるようになる。
私、真面目に年金を支払った。年金と保険料、本当に重いよね。家計がギリギリだったのが何度あったことか・・・。
それはいいとして、私にはやり残したことが一つある。やり残したというか、いつかはやろうと思っていたことだ。
それはピアノだ。鍵盤楽器に手を染めること。
60の手習いになる。本当にゼロからやろうというのではない。この年齢で、楽器をゼロからやろうとは正直思わない。50年のブランクを経ての再開になる。
この数年、結構ウジウジと考えていた。ピアノを弾きたい。自由にやりたい。ピアノが欲しい。ピアノではなく、ピアノ・タッチが搭載された本格派のキーボードが欲しい。そんな話を彼にも少ししていた。
なかなか欲しい機種が見つからないし、高いし、ずっと二の足を踏んできた。踏ん切りがつかなかったのだ。
2024年、今年日本に戻った時だったろうか、母が本当に弱ってきたのを見て感じたことも大きかった。彼女はピアノが好きで数年前にリュウマチがひどくなるまで、腰痛で椅子に座っていられなくなるまでピアノを弾いていた。そしてとうとう聴力も弱ってしまった。
ピアノが弾けなくなった、音楽が聞こえなくなってしまったーーそう嘆く母を見て、私の健康寿命もそう長くはないことを悟った。
今まで若い気でいたので、正直それは自分の中で衝撃だった。
それから、アイスランドでいかにピアノ探すかが課題になった。なにせ物価が高いと悪名高きアイスランド。いやぁ、本当に何でも高い。アイスランドに住居を移して8年目かな。何もかもが高いので、必要不可欠以外のものはほとんど買わない。毛糸を時々過剰に買う程度だ。趣味だし、冬は毛糸の服が必需品なので許されたし。
我が家には実はキーボードはあった。彼の息子が半年か一年ピアノを習っていて、その時に使ったものだ。確か彼が3万円くらいでコストコで見つけた。
最初はそれでいいかと思っていた。けれど、本物のピアノに慣れた手なのでどうもあの鍵盤のタッチが苦手で続かなかった。
私にはピアノ履歴がある。履歴というほどではないけれど、母がピアノが大好きで、独学でピアノを触り続けてきた。母の実家は江戸時代からの商人で裕福だった。使用人が何人もいる家で、学校には使用人に送り届けられて通ったという人だ。
ピアノを買う財力はあった。けれど父親が昔気質で、女にピアノなど必要ないとやらせてもらえず、これまた女に学問は必要ないと大学にも行かせてもらえなかったという人だ。
彼女は私に手に職をつけさせたいと思い、自分がピアノ好きでもあり、私にピアノを習わせたのだ。幼稚園児の頃からやっていた。私の意思ではなく、母の思い込みで習わされただけだ。
毎日の練習は面倒だったし、つまらなかった。けれどピアノが嫌いではなかった。
中学になると洋楽が好きになり、ポピュラー系のものも弾いてみたくなった。要はジャズが習いたかった。
母にジャズが習いたいと言うと、クラシックしかダメだと言われた。仕方がないので、当時一ヶ月数百円というお小遣いの時代、確か3ヶ月分くらいを貯めて、自分でコード進行の教本を購入した。当時、一冊しかそのような本は出版されていなかった。
それまではイヤイヤながら練習は続けていたけれど、本格的にやめたいと思ったきっかけはいろいろとあった。
中学に入って少し経つと、母が私を音楽学校へ進学させようと画策し始めた。突然、ピアノの先生を変更させられた。こっちの先生の方がいいから、そこへ行け、と。
確かその新しい先生が開口一番に「音楽学校入りたいの?」と私に尋ねた。いや、私にはその気ゼロだった。なのでそう答えると、その先生が随分と困惑していた覚えがある。
そんな頃、気分転換にと練習の合間に以前習った曲を楽しく弾いていると、母がピアノ部屋に入ってきて「そんな以前やった曲は弾かなくていい。今やってる曲を練習しろ」と言われた。
とても楽しくノリノリで弾いていたので、ものすごく悲しかった。嫌なものがもっとイヤになってしまった。
気分転換を計りたく、また別の日にそろっとコード本を見ながら弾き始めてみた。すると母が入ってきて、コード本を見て烈火の如く怒った。
そこで私の心は折れてしまった。もう嫌だしかない。それ以外何もない。何もないから続けられない。続けたくない。
中学3年生にさしかかった頃だったろうか。「高校受験に専念したいから」というまことしやかな方便で、ピアノをやめた。母が抵抗するかと思いきや、案外何も言わず辞めさせてくれた。お〜。
今後全くやらないと言うとまた一悶着ありそうなので、高校に合格したらまたやるというリップサービスはしておいた。まぁ、やらんが。
真っ平ごめんとピアノはキッパリやめた。風通しがよくなり、毎日嫌だ嫌だと思って過ごさずに済み、本当にやめてよかった。精神が病んできたので、あれはやめ時だったとつくづく思う。
実は子育てを終えたあたりで、時々取り出して弾く程度ならいいかと、そこそこのキーボードを購入したことがある。そこそこはそこそこで、そこそこでしかない。楽譜を置く場所もないし、2-3度取り出しただけで終わってしまった。
中学生でピアノをやめて、あれから50年が経った。もしかしたら50年後くらいにはやるかな?とはチラリと思ったことがあった。
去年だったか、母から「あんなにピアノが弾けたのになぜやめたの?」と尋ねられた。おいおい・・・。正直母に話した。彼女は全く覚えていないらしく、ごめんなさいねと私に謝罪した。まぁそれはそれでいい。特にプロになりたいとか、そういう希望もなかったし。遊びとしてポピュラーやジャズを弾いてみたかったというだけのことだ。けれど、もしかしたらそれが高じてバンドか何かはやっていたかもしれないとも思う。
そんな長い歴史というか、ブランクをひきずり、鍵盤機材を入手した。Nord Grandという機種だ。本当はNord Pianoが欲しかった。けれど中古でたまたま見たのがNord Grandだった。ヤマハとかカワイではないので、知らない人も多いとは思うが、Nord(ノード)はプロミュージシャン御用達の高級機材だ。プロがステージで使う本格的な楽器だ。
宝の持ち腐れになる可能性はある。けれど、この年齢だし、たとえあまり弾かなかったとしても、とにかく入手しておこうと、購入することにした。普通、中古でこの値段は出さないでしょうという値段ではあるけれど、一式揃っているし、見た目もかっこいいのでオッケーとした。
購入の意思を売主に示した後、私は泣いた。
やっと「自分のピアノ」が手に入る。私はやっぱりピアノに触りたかったのだ。
ピアノが我が家に来た後も少しの間、毎日泣いた。
ピアノ鍵盤の感触は、メーカーにより若干異なる。この機種はカワイのタッチが採用されている。本物に近いしっかりタッチがあるのはとても嬉しい。やっぱり高級機種にしてよかった!
毛糸を買っただけで編まない(編み物好きの在庫蓄積あるある)。
ピアノを買っただけで安心して、結局弾かないこともあろうかと思う。それでもいいと思った。
でも今のところ、毎日ちょこっとは触っている。小学校の時に習った曲の楽譜をネットで探し(著作権期限切れ!)印刷して少しさらっているところだ。
あぁ、ピアノの感触だと、指が喜んでいるのがわかる。「これなら弾いていいよ」って、贅沢なやつだ(笑)。
今回の「こちらアイスランド」は、実は続けてしっかりやりなさい!という自分への激励のために書いている。
悲しいことに私は楽譜なしでは何も弾けない。だからこそ、コードを身に付けたかったのだ!
どのやり方がいいのかは分からない。とりあえず普通のジャズ・ハノンとオスカーピーターソンのジャズ・ハノンをゲット。それに加えて、オンラインのピアノ講座を二つほど購入。
同時に、ガレージ・バンドをアップグレードする形でロジック・プロも入れた。自分の音声を入れる程度しかやったことはない。プロになろうというのではないので、これもまぁいいか、と。
という訳で、大人のオモチャを大々的に導入。
高額な買い物ではあったけれど、50年間秘めてきた安堵を得ることができただけでも、安い買い物だったと思っている。
どこまでやるかは未知とはいえ、指先を使うのは頭の体操にもなるとのことで、アルツハイマー予防策としても評価に値すると思っている。
随分と長くなってしまったが、我が家にピアノが来た!でした。
夫は一応まだ「音は気にならないから大丈夫」と言ってくれている。不味そうな雰囲気になったら、ヘッドフォン対応にするので大丈夫。
Nord Grand、鍵盤のタッチは上々、音も専用スピーカーで上々、見た目も高級感あって素敵。簡易なシンセもあるし、Midiとしても使えるし、プログラミングも可能。そこまで使いこなすとは思えないけど、ノブを回すと、いろいろな音が出てくるのはとても楽しい。遊べる!
「キース・イン・コルン」というのは、紛れもなくキース・ジャレットのケルン・コンサート時のグランドピアノの音だ。自分がキース・ジャレットの向こうをはれる訳がないけれど、音でなんちゃって気分を味わうのも悪くない。
外観は木目調でリビングに高級感をもたらしてくれてもいる。置いてあるだけでうれしい。
という訳で、華麗なる大人のおもちゃ(?)を入手した。しっかり練習して、コード譜だけで演奏ができるようになるよう、読者のみなさん、ぜひ心の中で応援してやってください。
小倉悠加(おぐらゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。