日本とアイスランドの共通点のひとつに、火山国であり温泉が湧くというのがある。日本人もアイスランド人も温泉が大好きだ。
両国の違いはといえば、日本の温泉は風呂であり、素っ裸で入るのが基本。アイスランドの温泉はプールであり、男女別にはせず水着で入る。プールと温泉は別物ではないか?これは私の長年の疑問でもある。
日本では温泉と風呂が同義語だろう。アイスランドでは風呂と温泉は同じ意味にはならない。温泉は外で湧き出る温水だし、風呂は家の中での入浴でしかない。アイスランドには各コミュニティに必ずプールがあり、温泉水を使っている場合も多いため、温泉はプールという考えの方が強い。
アイスランドの蛇口から出てくる温水は硫黄の匂いのする温泉水だと言う人がいるが、それは間違ってはいないけれど正しくもない。各家庭に共有されるのは地域により温泉水だったり、地熱発電タービンを冷却して温水になった地下水だったり、実は一定ではない。
それじゃ硫黄の匂いは何なのか?それは故意に入れられたものだ。その理由のひとつは送水パイプの内側にミネラル分が蓄積しないよう、もうひとつは温水は火傷をするほど熱いため、冷水と間違わないようということでもある。
ご存じの通りアイスランドには火山帯が数多くあり、今回ドライブで訪れた温泉もそんな火山帯の一画にあり、この近くにはあと数カ所いい感じの天然温泉がある。
アイスランドの天然温泉は、全国津々浦々かなり数をこなしていると思う。その中でも私はこのロイザメルスロイグ温泉が一番好きだ。雄大な景色が周囲にあり、見通しもよくて、湯の温度もちょうどいい。
温泉の底は少しドロドロしていて、そこから気泡といっしょにかなり熱めの温水が出てくるのがわかる。熱すぎない部分を探して、足の裏にプチプチと気泡が当たるのを感じるのも、この温泉の醍醐味だ。
温泉の周囲には水苔をはじめ、小さな植物が心地よさそうに湯気を浴びる。小さな草の葉には、無数の水滴が太陽の光を弾いて、温泉の妖精でも迎えるかのようなライティングのステージになっていた。
この温泉の存在自体が、現実的ではないポエムのようだった。レイキャビクからドライブして来たはずなのに、別次元に入り込んでしまったような錯覚さえした。
「冬にも来てみたいね。新雪の銀世界をこの温泉に浸かりながら見てみたいよね」
「道が閉鎖されていなければだな。少なくとも、あそこの牧場までは来られるだろうから、道がぬかるんでない限り大丈夫そうだよね」
そんな道路の話をしているうちに、現実の世界に意識が戻されたりした。
この日はすぐそこにあるクレーターの周囲を少し探検してみた。道があるのでその先を進んでみると、そこには名なしの湖があった。透明度が非常に高い湖で、魚がいれば、網で掬えそうな気さえした。風があっても岩の影に入ればしのげるし、温泉の帰りにお茶を飲むのに最高のロケーションに思えた。
湖の周囲はアイスランドの典型的な自然風景のである、溶岩とふわふわの苔で囲まれていた。訪れたのは5月中旬だったので、今頃(7月中旬)はきっと愛らしい高山植物がわさわさと咲いているのではと思う。と書いていると、確かめに行きたくなった。
温泉につかった後、私たちは天然炭酸水を汲みにいくことにした。到達するために使う道路は異なるけれど、同じエリアに炭酸水が湧き出る場所がある。その道中にはGerðuberg(ゲルヅベルグ)という柱状節理が規則的に並ぶ見事な壁を見ることもできるし、起伏に富んだドライブはなかなか楽しいエリアでもある。
天然の炭酸水はとても冷たく、鉄分が多くミネラル豊富。そのまま飲むには少し癖があるけれど、慣れると案外病みつきになる。この水をカクテルに使うと、自然の滋味がアクセントになりこれまた美味しい。
スナイフェルスネス半島は見どころがド〜ッサリ。今回は軽く温泉と天然水ゲットということで来たので、そのまま素直に帰路についた。
天然温泉への未舗装道の周囲はアイスランド特有の景色も楽しく、炭酸水への道は温泉への道とは特徴が少し異なる景色が広がり、こちらもみどころが多い。うーん、スナイフェルスネスは本当に目に麗しい場所が多すぎる。
ということで、ドライブの部分はぜひドライブ・レコーダー動画をどうぞ。
小倉悠加(おぐら・ゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド政府外郭団体UTON公認アイスランド音楽大使。一言で表せる肩書きがなく、メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、カーペンターズ研究家等を仕事に応じて使い分けている。アイスランドとの出会いは2003年。アイスランド専門音楽レーベル・ショップを設立。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。自己紹介コラムはこちら。