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こちらアイスランド(92)試験嫌い!勉強めんどい!アイスランド語をサボり続けた私が大学へ〜小倉悠加

40年ぶりに大学に戻った。戻るといっても日本の大学ではなく、アイスランドの大学に入学したのだ。

人生は時として、思いもよらない方向へ向かう。日本の大学を出たあの頃、40年後に海外の、それも極北のアイスランドの大学に入ろうとは。

アイスランドに移り住んで約5年。その間、頑固として(?)本格的にアイスランド語を学ぼうとしなかった。理由は簡単で、第3カ国語なんて面倒!難しい!

ご存じだろうか、アイスランドは世界でも最も難しい言語だと言われている。動詞、助動詞に限らず、果ては固有名詞まで変化をして、なーにがなんだかわからん!という古代語。古代語と言っていいのかはわからないが、先祖を辿ればノルウェーからの移民が多く、ノルウェーの長老はアイスランド語が理解できるそうなので、たぶんン百年近く変化が乏しい言語なのかと。

その上に私の年齢がある。60代にリーチして、第3カ国語なんてやだよね〜。無理っす。

ということで、今回は60代学生が出来上がった前振りをば。その前編で、なぜ今までアイスランド語をサボり続けたのか、なぜやる気になったのかーーー。

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アイスランド国内は英語が通じすぎる。アイスランド国内で英語に困ることはまずない。

アメリカに旅行した時、英語が通じなくて困ったことはある。移民の多いアメリカの都市部では、スペイン語の方が通じる地域があったり、タクシー運転手の英語も非常にわかりにくかったりする。その点アイスランド人の英語は少しは訛りがあるが、押し並べてとても上手だ。特に若者はクセの少ない上手なアメリカ語を話す。家庭内でアイスランド語よりも英語を話す若者人がいるほど、英語(アメリカ語)が蔓延っている。小国の弱小言語を保護する観点からよくないことは明白だが、余所者にはありがたい。

英語はかれこれ40年以上付き合ってはいる。私が正式に海外に住まったのは高校留学の一年間だけで、大学は英語のみで授業を行う上智の外国語学部比較文化学科(現国際教育学部)に進んだが、いわゆる帰国子女ではない。

アイスランドに移り住むまでは、ずっと日本在住だった。仕事で英語を使う以外は、海外旅行の際に話す程度だった。アイスランドでは日常生活を英語に頼るしかなく、最初は不安だった。毎日英語だけを話して気が狂わないか?という、冗談のような冗談ではない不安だった。

それがどうだろうか、毎日こうして日本語の読み書きはするけれど、日本語で話す機会がゼロになり、日本語が話せない・・・。いや、話せないことはない。けれど、日本語での会話は脳の切り替え遅いのか、英語が先に口をついてしまいそうになり、それをあわてて飲み込み日本語に置き換える作業が必要だ。習慣とは恐ろしい。日本語が話しにくくなる日が来るとは夢にも思わなかった。

そんな感じなのでアイスランドでは「英語しか使わないから、アイスランド語よりももっと英語を磨いた方がいいのでは?」と思ったほどだ。いや、今でも実用はそちらだろうと思っている。

基本的に英語ができれば何も怖くはないが、ここはアイスランドなので、アイスランド語能力が必要条件とされることもある。

日本人がアイスランドに住むためには、居住許可が必要だ。夫がアイスランド人なので、これは簡単にとれる。次に簡単なのは(とはいってもメンドイ)、留学とワーホリだろう。あとはアイスランド現地に雇い主の企業が決定していて、事前に会社経由でのお膳立てがあればいいが、それ以外でアイスランドに住むのはほぼ無理だ。

最初に許可される居住許可期間は一年間で、再申請は期間が2年間に延長される。それを永遠に繰り返せすことは可能だが、申請料金が結構かかるのと、2年に一度の申請はメンドイので永住許可をとっておきたい。そして永住許可取得条件のひとつが「アイスランド語の語学力」なのだ。

え”〜〜、聞いてないよ!じゃないです。聞いてます。申請に必要な項目として書いてある。

「アイスランド語の語学力」の基準は、当局が主催するアイスランド語テストに合格するか、公認の語学教室で150時間の講習を受けること。びぇ〜。

学生センター。一階にカフェや本屋、コンピュータールーム、ヘルプデスクなどがある。

試験嫌い!勉強めんどい!どちらにも転べない。

もちろん、現地に溶け込むには現地語を話すことが最善であることは承知だーーー現地に溶け込む、か。

溶け込んでいるかどうかは分からないけれど、移り住むまでに人脈ネットワークは作ってあった。15年以上こちらに毎年来ていれば、知り合いも増えるし、その中には現地の有力者や有名人も少なくない。今更ネットワーク作りでもないんだよなぁ。

現地に溶け込む以外に何か目的はあるか?現地語で買い物ができるようになりたいとか?

いや、英語が普通に通じるし、店員には外人も多いので、むしろ英語しか通じないこともしばしばある。日常でアイスランド語がわからなくて困ったことは、この国に来て1-2度しかない。それも絶体絶命ではなく、横に居た人がすぐに訳してくれた。

これでは動機(モチベーション)が湧かない。

アイスランド語が理解できなくて困ることもないが、不便ではある。理解できるに越したことはない。

一時期、アプリでアイスランド単語を覚えようとした時期はあった。あった、と過去形で書くからには、続かなかったという意味だ。

それでも自分にアイスランド語を強いなかったのは、「アイスランド語、絶対にいや!やりたくない!」となりたくなかったからだ。時期が来れば仕方なくやるか、少しはやる気になるか、どちらかに傾くと思っていた。

中高生時代に英語を絶対に覚えたい!と思ったような熱意はない。英語を会得するのは本当に大変だった。インターネットのない時代で、英語の勉強をするにはン万円もするカセット教材を買ったり、英語教室に通わなければならなかった。

教本での独学では音声を聞くことができないため、役に立たない。NHKの英語講座も聞き逃すと、どんどんと置いてきぼりになる。

現在はインターネットも活用でき、半世紀前の英語学習よりも外国語学習が手軽になったとはいえ、外国語を会得する苦労をまたするのかと思うと、この年齢では億劫にならざるをえない。

億劫なので目標は低めがいい。目標はごーく低くして、とりあえず学習を始め、そこから少しずつ騙し騙しやった方が最終的には近道になるとも思った。

アイスランド語を学ぶべきと自分に強いることもできるが、「学ぶべきだからイヤイヤやる」ではなく、「やろうという気が起きるまで待て」と自分に言い聞かせた。

彼にもそう説明し、アイスランド語を押し付けないことを約束してもらった。どちらにしても永住権の申請ができる条件は、居住許可が降りて4年以上経った者なので、4年間は放置でいい。

さて、あれこれと理由をつけて時間稼ぎをしたが、最善の学習方法は何だろうか・・・。

弱小言語のアイスランド語とはいえど、ネット上には思いのほか音声付きの講座がある。アプリもある。そして家庭にアイスランド語母語者もいる。それを使いこなしてなんとかなれば手っ取り早いが、勉強好きでも言語に特に興味がある訳でもないため、独学だとサボってやらない。

やはり 一定期間は教室に座り、しっかりと基礎を学ぶべきーーーという結論に至った。というより、それは英語を勉強した体験から分かっている。英語を話すようになって久しいが、中学3年までの文法と単語を駆使すれば、日常英会話は怖くない。とにかく基礎が超大切!

時々、「文法はどうでもいい。単語の羅列でもいいから話せ。慣れろ!」と強引な外国語学習法を薦める人がいる(少なくとも以前はいた)。私は全く関心しない。文法を知らないと、いつまでもならず者英語でしかない。文法を知り、正しく使えばばその後美しく発展することができる。それは実体験済みなので、基礎文法を無視するほど損なことはない。

最初に何かを間違って覚えると是正するのにその数倍の時間と労力がかかるため、間違えて覚えるなら何もやらない方がいい。

諸々の考えや前提はさておき、実際にどこでアイスランド語を学ぶのがいいのか?ということになる。(次回に続く

小倉悠加(おぐら・ゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド政府外郭団体UTON公認アイスランド音楽大使。一言で表せる肩書きがなく、メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、カーペンターズ研究家等を仕事に応じて使い分けている。アイスランドとの出会いは2003年。アイスランド専門音楽レーベル・ショップを設立。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。自己紹介コラムはこちら

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