注目の新刊!
第一回は9/4(月)夜、東京・渋谷で開催! オンライン参加も!

こちらアイスランド(93)語学教室か大学か、入学許可は降りたが辞退する?!迷った末の通学先〜小倉悠加

60代前半で第3カ国語の学習は辛い。それも世界一難しいと言われるアイスランド語だ。切羽詰まった必要性がなく、モチベーションもいまいち。そんな私が学習の場として選んだのがアイスランド大学だ。なぜ語学学校ではなく大学にしたのか。その理由を今回はお届けしよう。といってもたいした理由じゃないけど。(前回の話はこちら

—-☆—-

アイスランド語をどこで学ぶのがいいのか?以前から軽くリサーチはしていた。

この国は移民が多い。そのため、外国人用のアイスランド語学教室はある。日本の英会話学校のような感じだ。レイキャビク周辺には数件ある。それぞれ教え方に特徴があるので、自分に合った教室を選ぶようアドバイスされることが多い。

残念ながら無料の語学講座はなく、教会などでボランティア講師がやっているところもあるとは聞く。

前回書いたように、永住権を取るためには150時間の履修が必要だ。150時間のアイスランド語講座を民間の語学学校で受講すると、30万円近くになる。働いていれば半額以上が労働組合から還元されるらしい。コロナ渦中は労働組合に属していれば、語学学校の授業料が無料になった時期もあった(ちなみにこの国では半年前にコロナ騒動は終了)。けれど私は組合員ではないため、恩恵に預かる資格を持っていなかった。

それなら他にどこがあるのか?

ツイッターで「#アイスランドゆる定点パノラマ」としているゆる定点は我が家のバルコニーで、そこから目に入る気になる場所があった。それがアイスランド大学だ。

ピンク枠内、赤い屋根の上に位置するのがアイスランド大学のキャンパス。
ピンクの部分を拡大した写真。この写真で見えている白い建物の多くが大学。

現在の住処にに引っ越した当初、まずは景色のよさに驚いた。ハトグリムス教会、ペルトラン、大統領官邸、レイキャビク国内飛行場など、周辺の有名な場所が一望できる立地で、大学もそのひとつであることを知った。「大学が近いなぁ、通学に便利に住むことになったものだ」と思ったものだった。

社会人向け講座がアイスランド大学にあれば、受講できるかと調べてもみた。が、この大学の授業はすべて正規学生用の教科で、手軽に受けられる講座はない。さすがに大学に再入学して学位を取ろうという気持ちはないから、どうやらご縁はなさそうだ。

民間の語学学校は、我が家からは離れていて通うには不便だ。その点アイスランド大学は徒歩10分。道の大半はチョルトニン湖の公園内なので、散歩気分で行ける。行き得な立地だ。

偏見ではあろうけれど、民間の語学教室よりも大学の方が質の高い内容を提供している響きがないだろうか?それに、かっちょよくないか。語学教室よりも、大学の方が。

アイスランド大学で教えているアイスランド語は、学位を取得できる学士コースと、留学生用の一年間の語学準備コースがある。どちらにしても年間の教科過程で、書類を提出して入学許可を得る必要がある。めんどい!その点、語学教室は授業料を支払えば受講できる。

語学教室で150時間を受講するためには約30万円が必要だ。大学は年間の登録料約7万5千円とテキスト代金のみ。こんなところでお買い得感を求めるのは愚の骨頂ではあるけれど、大学の方がお値段が4分の1。そそられる。

家から近い、経済的にもお得感がある。アイスランド大学へ行こうかなぁと思い始め、数年前に一時帰国した際、大学の成績証明を英文で取得しておいた。出願に必要な書類は拍子抜けするほど少ない。提出するのは成績表(卒業証明)のみだ。

大学の準備コースなので、日本の高校の卒業資格でいけるはずだ。けれど、千葉県の公立高校に、それも40年以上前の成績証明や卒業証明を英文で出してほしいとお願いしても慣れていないだろう。なので大学に頼むことにした。大学なら英文での証明書類は通常業務でしかないはずだ。

卒業証明に加えて必要であることが判明したのは、英語能力の証明。英語が日常的に話されている国の学校出身ではないからというのが理由。マジか・・・。今更、英語のテストは受けたくない。受験に時間も金額もかかるし、少しは勉強しないとまずいだろうし。

これに関しては、日本の大学の授業が全て英語だったので、その証明ができればまず通るだろうと思った。なので上智大学からその旨を書いたレターを貰った。

数年前、日本女性がアイスランド大学の同じコースに入学をした。その女性は日本大学の英文科出身だった。当初大学側は英語が母国語ではない彼女に英語試験を課そうとしていた。けれど彼女は通訳として働いている人で英語力に何ら問題はない。大学側と話し合い、出身が英文科であればといいうことで、英語試験が免除となった。

英文科よりも私の出身学部学科の方が英語の使用度は高いはずだ。実体は英語圏の大学と同じ。上智側からのその故の説明レターにも関わらず、アイスランド大学側の反応は「英文科以外は認めません」と譲らない。

英米の大学相当でダメって、それはないっしょ?!と憤慨する私に、夫は「素直に英語の試験を受ければいいじゃん」と。

ヤダヤダ。日常的には中学英語しか使っていない。難しい単語は忘れてるだろうし、英語の能力試験に落ちたら自己嫌悪に陥る。

その言葉を聞いて彼は、アホかという感じで「ユーカが落ちるなら全員落ちると思った方がいいよ」と呆れられた。

そうかなぁーーー時によっては流暢に英語を話すように聞こえるけど、実に内容が無いことしか言ってない。大学で使うような用語はきれいに忘れているし、試験勉強するのは億劫。

そんな訳で、どうすれば英語の試験を受けないで済ますかを考えた。つまりは楽をしたい!

通学路であるチョルトニンの湖畔。公園には日本の桜も植えられている。

入学資格を調べてみると、英語が母国語の高校卒業であれば、英語の試験は免除とある。ん?その昔、私はアメリカの高校を卒業してるぞ。これだ!

でもさぁ、40年以上も前のことだよ。そんな頃の成績表なんか残ってるのかね?

前置きが長くなりすぎてるので話をはしょれば、アリゾナの高校の成績証明(卒業日明記)を公共教育機構からアイスランド大へ直接送る手配を整えた。アメリカの高校卒業資格が初めて役に立った瞬間だった。試験を受けずに済んでよかった!

そんな訳で正式に提出したのは、日本の大学の成績証明(学位証明)とアメリカの高校の成績証明(卒業証明)の二点。安全のために学位証明を出したけれど、留学予備コースなので、理論的にはアメリカの高校卒業書類のみで済んだ気がする。提出は紙ではなく全てPDF。それも大学のサイト内のコミュニケーション・ポータルと呼ばれるに場所に自分のアカウントを作り、そこに登録をするだけだ。

あとは入学審査料を支払い、結果を待つのみとなった。

8月最終週から始まる新学期入学の締め切りは同年1月末日。はっや〜。ただしそれは北欧・ヨーロッパ圏外の学生対象で、ヨーロッパ・北欧圏内在住者であれば締め切りは数ヶ月遅かった。私の場合はどちらになるのかよく分からなかったので、前者の締め切りに合わせた。

入学に際しての条件や提出書類に関しては、不明な点も多かった。あえて明示していないこともありそうで、明示することにより追い込まれる事態を避けたいのかとも思えたり。その最たるものが合否の発表で、「いつ」というのが書いていない。もちろん、海外から留学してくる学生の都合を考えての、締切日の設定であろうとは思う。

1月末の締め切りで、結果は4月末頃に出たようだ。メールアドレスは登録するので、合否をメールですぐに知らせてくるものと思っていた(そうは書いてない)。けれどその考えは甘かった。「もういい加減に合否がわかってもよくないか?!」と5月下旬頃にコミュニケーション・ポータルを見に行くと、結果は既に出ていた。

え?!メールで知らせてくれないんだ!そして間も無く、通知メールが送られてきた。発表から一か月が過ぎていた。おっそ〜。

その頃の私は、やっぱりアイスランド語はやらなくてもよくないか?と思うようになっていた。というのも、最大の案件だった永住権取得に伴うアイスランド語力は、なんと65歳以上は無用になっていた。以前からそうだったのか、近年変更されたのか分からないが、それを知ったのは書類を大学に提出した直後だった。

あと3年間辛抱すれば自ずと私はその年齢に達して、アイスランド語能力も受講も問われなくなる。ありがたい気がしないでもないが、何とも腹への納まりが悪い。

ただでさえ低いモチベーションが、更に低くなったことは言うまでもない。もしも事前に知っていたなら、大学に書類を出すことはなかったとも思う。

最後の難関(?)が意外なところから出現した。勉強しなくても、3年待てばいいだけじゃん。

ここまで来ると私設語学教室と同じ話になる。それは料金を支払うか否かということ。やる気があるのか自分でも分からないのに、ここで7万円強を支払うのはどうよ?!とはいえ、ここまで来て支払わないと永遠にやらない気がする。一応支払っておこうか。行きたくなければ放置すればいいだけだし。

我ながらこのモチベーションの低さよ。

支払いの締め切りが7月初旬なので放置していると、6月の下旬に登録料支払いの催促メールが来た。7月初旬にも追加の催促。合否はすぐにメールしてこないのに、支払い催促はマメなのね。

考えた結果、とにかく支払うことにした。通学しない場合は、登録料を大学教育に寄与したと思うことにすればいい。

大学に通うか否かは8月下旬に通学を開始するまで迷った。

ーーーここまで書いて中学卒業時に、高校へ進学するかを迷ったことを思い出した。進学よりも早くレコード屋の店員になりたかった。次には高校受験を商業か工業のどちらにしようかを迷った。結果、進んだのは普通高校だった。大学にいくつもりもあまりなかった。けど、高校で留学もしたことだし、英語が中途半端なことが気になり、進学することにした。厳しいことで有名な英語専門学校か上智の国際の二択で、他の大学は受けなかった。どうやら私は極端な選択をする傾向にあるようだ。60歳を過ぎてもその考え方が変わらないことに苦笑した。

決定づけたのは夫の言葉で、「最初の一ヶ月まずは授業を受けて、それから決めれば?滞在許可のヴィザも無関係だし、単位を落としたところで何の影響もない。好きにすればいいじゃん。せっかくの機会だから最初だけは行きなよ」と。

そうだ、その通りだ。最初くらいは行ってみて、性に合うようなら続ければいいし、嫌ならやめればいい。わがままでいいのだ。

小倉悠加(おぐら・ゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド政府外郭団体UTON公認アイスランド音楽大使。一言で表せる肩書きがなく、メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、カーペンターズ研究家等を仕事に応じて使い分けている。アイスランドとの出会いは2003年。アイスランド専門音楽レーベル・ショップを設立。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。自己紹介コラムはこちら

筆者同盟の最新記事8件