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こちらアイスランド(97)「通行不能」でも「自己責任で通ってよし」?!氷河を臨む晩秋のF232号線、麗しき滝の川をサブサブと進む道〜小倉悠加

中間試験明けの10月半ば、2泊ほど郊外に出た。粉砂糖のような雪化粧の高地へ訪れることができたので、サメタイの読者にご報告。少し無謀に見える冒険旅行のお裾分けだ。

どこが無謀な冒険旅行かといえば、道路公団(のような組織)のサイトを見ると、「通行不能」として赤色になっていた道を走ったからだ。

road.isのサイトから(2022年10月14日付)

この夏、天候の関係であまり探求できず走りたい道は多々残っている。天候を考えつつ、まだ大丈夫と地図を見る毎日が続いていた。ある日、昨日までは通行可能だった道が突然、それも高山の道の全てが一挙に通行不能と表示された。そんなことがあるのか?

前週に嵐が来たため、高山にいる全員に下山通達が出された。嵐の間は道が閉鎖され、嵐の後は再度開通し、道は緑色の表示だった。なのになぜ急に「通行不能」と?

通行不能になったのは一週間ほど前ではあるが、どうしても納得のいかない彼は、郊外泊のその日交通局に電話を入れた。すると、少しばかり驚く回答が返ってきた。

要約すれば、道の出入り口のゲートは開けてある。当局で高地の道路(F道と呼ぶ)の状況を把握していないため通行不可とはしてあるが、実際は通れるかもしれない。自己責任にはなるが、通行するのは違法ではない。大型ジープをお持ちであれば行けるところまでどうぞ。

え”〜〜〜!!「通行不能」としておいて、ゲートは開けてあるし、勝手にどうぞ?!

全くもっていい加減。そんなゆるいアナタがダ・イ・ス・キ(笑)。

アイスランド人はいい意味でも悪い意味でもゆるいところがある。生命に関わりそうな物事はさすがにシビアなのではと思いきや、その回答はーーー勝手にしろ!好きだ(笑)。行けるところまでどーぞ。

違法ではないし、「どうぞ」と言われては行かぬ訳にはゆかぬ。行かねば武士の名に恥じる!の感覚になってしまった。

出向いたのはF232号線(Öldufellsleið)で、当局のサイトを見れば真っ赤な道。人を拒む赤鬼道。違うか。

去年の夏、F210からのこのF232号線に入り、南下して1号戦へ出たことがある。今回は逆で、北上する。けれど、氷河をぐるりと周ることは考えてはいない。たぶん雪が深くて進めなくなるか、川が渡れないことも十分にあり得る。

私たちは辺鄙な道を走るからこそ、絶対に無理をしないのがモットーだし、これ以上は危険だと察知して引き返した道も過去にある。今回も、無理そうなら引き返すことを誓い、いざF232号線へ。

奥に見えるのはミルダルスヨークトル(氷河)。氷河は新雪に覆われていた。

確かにF232号線のゲートは開いていた。入るとすぐにぬかるみがあった。入り口近くにひとつ軽い障害を置いておくのは常套手段(?)のようで、その後に続く道に障害はなく、二駆でもこなせそう。こういった高地の道が四駆専用道なのは、砂地、石ゴロゴロの道、そして川渡りが障害になる。川渡りのない道であれば(例えばカルディダルル(Kaldidalur)やキュールル(Kjölur/Kjalvegur)がこれに当たる)二駆でも走れる。我が家の優秀な小型のトヨタ車は、この両方の道を見事に走破した実績がある。

けれど、川渡りのある道はさすがに二駆の普通乗用車では無理だ。今回のF232も数箇所、走って渡る必要のある川がある。

それではF232号線を進んでみよう。

この道路の周囲には紅葉する植物はないのか、はたまた紅葉は終わってしまったのか、目立つのは枯れかかった褪せた緑色の苔だった。この日は青空が見えており、青空をバックに新雪を抱いた氷河の山がきれいに浮き彫りにされていた。

最初に寄ったのは無名の滝。道路から見えたので、近づいてみることにした。この滝は、川の流れが狭い場所に落ちており、周囲は水飛沫で凍った植物がひとつひとつ、小さな飴玉のように太陽の光に照らされていた。

次に車を停めたのは、川の周囲がちょっとした渓谷のような雰囲気で、遠くにくっきりと氷河の山が見えている。走っていると時々、「おっ、なかなかいい雰囲気」と思う場所がある。ここもそんな風に目に止まった。

水溜りの表面には薄氷が張り、秋の気配は残ってはいるけれど、高地はもう冬であることを物語っていた。空気は冷たいが、周囲に大きな石があるせいか、風はあまりなく、少しばかり暖かい気配さえある。

アイキャッチに使った写真を撮ったのもこの場所。Leiráという名前の川沿い。

この地を後にし、小高い丘を周囲を半周して向こう側に抜けると、突然道の上に雪が見え始めた。

「えぇ、雪?降ったんだ・・・」と短い言葉を発する間にも、まばらだった道の雪は一面を覆い尽くしていく。降雪をゆっくりと驚く時間もなく、周囲はまたたく間に真っ白になっていく。よく見ると、地を這うように道路に粉雪が吹雪いている。風が吹くたびに、白い模様がキュルキュルと巻き上げられたりもする。

なんと美しい光景なのだろう。正午近くでも、この時期の太陽は高く登らない。走ってきた道を振り返ると、ほんのり朝焼けが残る、こっくりとしたオレンジ色と青空が入り混じり、吹き上がる粉雪をより鮮やかに引き立てていた。

外に出ると、車内にいるよりもずっと風が強い。そして、キョーレツに寒い!気温は0度と出ていたが、体感温度はマイナス10度くらいか。写真を撮っているとすぐに指先が冷たくて動かなくなってしまう。でも、目が凍りついてしまうまで外でずっとこの光景を見ていたい。

寒すぎるのに夢心地になってしまう光景だった。

そんな別世界の私の心を現実に引き戻したのは、彼の心配事だった。彼は雪が道路に積もり、車が動けなくなることを盛んに心配した。道路に雪が吹き込んではいるが、雪は降っていない。積もるといっても若干程度で、それほど心配することはないのではと私は思った。

ここまで、他の車と一台も出会っていない。それはそうだ、道路公団サイトの地図には「通行不能」と記され、道は通行止めであるかのように赤い線になっている。まともな神経、判断力の持ち主であれば、通ろうとは思わない。

しかし前述のように、私たちは正式筋から「自己責任でどうぞ。通れる可能性もありますよ」と言われたのだ。責任は我々にある。わかってる。

まだ大丈夫。前へ進もう。

次第に大きくなる目前の山の形で、目的地に近づいていることがわかった。目的地とは、彼が川渡りの場面をビデオに収めたがっている場所。滝の真上の川を渡る様子は、おとぎ話か空想の世界としか思えない。けれど、空想でもおとぎ話でもなく、実際に本当にある場所で、2年前はそれを知らずに横切ってしまった。

という場所のビデオを見つけたので、ぜひご覧あれ。

アイスランドの大自然で印象深い景色をたくさん見てきた中でも、ひときわ私の中で麗しく輝いているのが、ケルリンガルフョットルとこの場所だ。今回再度訪れ、山と川と滝がコンパクトにかわいらしくまとまっているところに惹かれたのかな、と思った。

そして結論を先に書けば、この川を渡ることは断念した。この場所をもう一度見たいというのが目的だったし、川は走行できそうな感じではあったものの、車が一台も通らない状態だし、電波も届かない。万が一を考えるとリスクが大きすぎると判断したからだ。

夏はここも蛍光色の苔が繁茂していて色鮮やかだったし、今回は初雪の下にまだ夏の気配を残す緑の苔がうっすらと隠れし、なんともいえない雰囲気を醸していた。

もしも一台でも車が通れば、きっとこの川を車で渡っていたに違いないと思う。大丈夫そうな感じではあったけれど、やっぱりねぇ・・・。

この川を渡ったとしても、ミルダルスヨークトルの北側をぐるりと回って1号線に戻ろうとは思っていなかったので、どちらにしても遅かれ早かれ引き換えしたことだろう。素晴らしい景色を独り占めできたことに感謝して、この場を後にすることにした。

帰路にHólmsárfossに寄った。道路から見える滝で、背丈は高くないけれど、横幅がある。例えるならばゴーザフォスの小規模ヴァージョンといったところか。

前夜はVíkに宿をとっていたため、レイキャビクからのドライブより4時間近く短縮となっていた。なので午後3時にはこのF道から一般道へ戻っていた。

この日のことは、割合マメにツイートしていたので、ご興味ある方はぜひどうぞ。動画も入れていたので、スレッドを辿るとかなりいろいろなことが分かるかと。

さて、来週は大学の話に戻るか、夏の間に行った場所をもう少しご紹介するか、どちらにしましょうかねぇ・・・。そうそう、アイスランディック・ダウンの布団をこの一ヶ月ほど使用していて、結構仰天にいい感じなので、そのレポートもしたいと思ってるところです。

小倉悠加(おぐら・ゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド政府外郭団体UTON公認アイスランド音楽大使。一言で表せる肩書きがなく、メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、カーペンターズ研究家等を仕事に応じて使い分けている。アイスランドとの出会いは2003年。アイスランド専門音楽レーベル・ショップを設立。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。自己紹介コラムはこちら

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