政治を斬る!

エリザベス女王の歩みを振り返りつつ、アングロサクソンの盛衰を考えた〜Akiko Huerlimann

エリザベス 2 世没後、スイスの公共放送 SRF は、「王位は職業では無く、義務です」という女王の肉声を報じた。その覚悟の通り、自ら望んで就いた地位では無いのに、1 人の女性が斯くも長き生涯で義務を全うしたことには敬服する。

度重なる王族のスキャンダルにも関わらず、ひとりスキャンダルとは無縁で 70 年 の長きに亘って王位の座を守った。学校には通わず、個人授業で教育を受けたが、教科は人文科学と自然科学のカリキュラムだったとスイスメディアは報じた。

イギリス政界の中に在って、政治的な発言はしなかったと伝えられている。 その女性が背負った英王室と、世界情勢に及ぼした影響力を思うと、別の考えが生じるのは必然だ。

ウィキペディアで、イギリス史を見ると、古くは 927 年に「イングランド王国」が誕生している。

16、17 世紀頃から、アイルランド、北アメリカ、カリブ海、アジア、アフリカ 等世界の 7 つの海を越えてイギリス帝国」は領土拡大に邁進した。

このダイナミックで飽くなき海外進出の意欲は、どういう事情に由来するのか、 以前から疑問に思っていた。イギリスは日照時間が少ないので、充分な野菜や穀物を生産することが出来ないと習った記憶がある。(現在食糧自給率は改善さ れているようだ)

ロンドンと言えば霧、イギリス人が殆ど傘を使わないのは、 雨と天気が 1 日の内で目まぐるしく変わるからだとも聞いた。荒涼としたヒー スの大地は、イギリスの代名詞の様な印象で、こういう国土では、人々が空腹を満たされることは無いに違いなく、海に乗り出して海賊になるなどして、海洋進出に精を出した事情は想像に難くない。

現実には、有史以前からの近隣諸国との勢力争いで、闘争心が存分に鍛えられてきたようだ。スコットランドを併合して「グレイト・ブリテンの帝国」を築こうという主張は、伝統的にイングランドのなかで存在していたと、ウィキペ ディアには記されている。

イギリスの首相の一覧」を見ると、英国の歴史が外観出来る。

故エリザベス 2 世(在位 1952 年 2 月 6 日から 2022 年 9 月 8 日)が引き継いだ 英王室は、1707 年の所謂 UK 成立以後になる。

英王室は、奴隷売買と植民地支配で膨大な財を成したと、暫く前、スイス独語主要紙「ターゲス・アンツァイガー紙」が報じている。

UK は「英連邦王国(コモンウェルス)」を築き上げたが、エリザベス女王在任 中にその殆どが独立した。

列挙すると、現アイルランド共和国、現インド共和国、現ウガンダ共和国、現ガーナ共和国、現ガイアナ共和国、現ガンビア共和国、現ケニア共和国、現シエラレオネ共和国、現スリランカ民主社会主義共和国、現タンザニア連合共和国、現トリニダード・トバゴ共和国、現ナイジェリア連邦共和国、現パキスタン・イスラム共和国、現バングラデシュ人民共和国、バルバドス、現フィジー 共和国、現マラウイ共和国、現マルタ共和国、現南アフリカ共和国、現モーリシャス共和国。

これら旧植民地諸国は、英王室に忠誠心を示すどころか、批判的でさえ有ると スイスでは報じられた。特にインドは、女王からの謝罪が無い事を不快に思っていることが伝えられている。これは致し方の無い事で、奴隷貿易や植民地支配の期間を通して築いた、「クラウン・エステート」の膨大な不動産を概観するだけでも、夥しい人々の怨嗟を産む搾取と謀略の産物と理解出来る。

植民地の独立を認める前には、紛争の火種を残して、後々英国に反旗を翻さないようにしたと言われている。これが、今尚、世界各地に頻発している紛争の由来になっている事に疑いを差し挟む余地は無いようだ。絶え間なく紛争が続いている地域では、社会インフラの整備と教育が遅れ、貧困と飢餓が解消されないまま、自然災害も伴って、多くの住民が難民として流浪を余儀なくされて いる。

そればかりか、周到な世界戦略を今尚継続しているのが伺える。

「007 は殺しのライセンス」と、堂々と女王陛下の諜報機関を娯楽にして喧伝している。初代ジェームズ・ボンドを演じた故ショーン・コネリーは、スコットランド人で、スコットランドの独立を支持していたと伝えられている。世界的な興行成績を成し遂げたボンド・シリーズの出演にも、次第に関心が薄れて後進に道を譲ったと伝えられているが、個人的には、彼が最も魅力的なボンド役だったと思う。諜報機関の諜報活動を娯楽で毒気を抜くなど、実に明け透けで巧妙ではないか!

英国は王室を神格化していない。それどころか、れっきとした観光資源にもしている。サッチャー首相が登場する少し前英国滞在中に、切手を始め、エリザ ベス女王の肖像をプリントした夥しい土産品を目撃した。日本の天皇の扱いには見られない現象だ。英国人の知り合いが「スイス程至る所に国旗を飾る国は見たことが無い」と言ったが、「英国程王室を観光資源に活用している国は他に 在るだろうか?」と思う。

主なコモンウェルスの国はオーストラリア、カナダ、ニュージーランドだが、 米国を加えた「ファイブ・アイズ」とも呼ばれる「UKUSA 協定」の連携は揺るぎないようだ。彼等が繰り広げる諜報活動と攪乱戦術で、全世界が揺さぶられ続けている。

ウクライナ紛争も無縁では無く、彼等の究極の狙いは、ロシアを征服して、アングロサクソンの世界制覇を確立することにある、と「桜井ジャー ナル」が図説を添えて目の覚めるような解説をしている。石油利権とも言われ た「イラク戦争」と比べてみても、ロシアの豊富な地下資源は、余りにも魅力的に見える筈だ。NATO の東方拡大の動きは、アフリカのサバンナで繰り広げられる肉食獣の群れが大型草食動物に群がる様子を彷彿とさせる。

「桜井ジャーナル」: 「窮地にあるウクライナ政府や欧米の好戦派は『核戦争カード』を出してきた」 「歴史の流れを変える出来事が引き起こされた9月11日」

英国の日本に対する関与も、明治維新を画策し、日清・日露戦争を仕掛け、日英同盟を一方的に破棄する等、少なからぬ介入をしてきた。 リズ・トラス新首相は外相時代、EU 離脱後に「日英包括的経済連携協定」に署名した。英国は「紳士淑女の国」と教えられたものだが、日本人は冷静に過去を見つめ直し、無防備な英国への対応を注意深く再考する時期にあると思う。

日本に駐在経験のある「エドワード・スノーデン」が、日本の安全保障の現状に深い懸念を示したことが伝えられている。そのスノーデンを、2022 年 9 月 26日、ロシア国籍を付与するとプーチン大統領が発表したとスイスで報じられた。 囚人のジュリアン・アサンジの境遇とは異なり、幸いにも彼は結婚して子供も出来、家庭を築いているようだ。

スイスの独語 TA 紙の表紙を飾った風刺画は、溜息をつきながら昇天するエリザ ベス女王の足下で、イングランドの陸地にグラスを持ったジョンソン前首相の後ろ姿とリズ・トラス新首相が拳を振り上げて息巻く姿に、スコットランド、 北アイルランド、ウェールスがイングランドから切り離される様子が描かれた。 スイスの英国特派員は、「UK」と「コモンウェルス」を構成する国々が今後も 忠誠を維持するのか、危ぶまれる可能性を報じた。

最近 SRF ラジオのニュースで、「欧州は、アフリカに多くの事をしたが、ロシア は効果的な支援をしてくれた」とアフリカ人の声を伝えた。又、エイズやコロナ等の予防薬や治療薬は、アフリカで製造する意欲も伝えた。 遠くない将来、アフリカの人口はアジアを抜くとスイスの独語主要紙、「ターゲ ス・アンツァイガー紙」は先日報じた。

西側世界を米国が主導しているようにメディアは報じているが、実は英国こそが米国を操っているのだという論調を、田中ニュースが「世界を多極化したが る米国」で解説している。

NATO を従えた英米の眼前には、中国、ロシア、ラテンアメリカ、そしてその先にはアフリカが控えている。

イギリスは、アッパー・クラス、アッパー・ミドル、レイバー・クラス等の階級社会と言われてきた。しかし、一般のイギリス人は気の良い人が少なくない、 というのが個人的な印象だ。問題なのは一部のエリートで、彼等の傲慢と強欲が諸悪の根源になっていると言っても過言ではなさそうだ。 彼等が、地球の存続を願い保全に力を注ぐなら、自らの安全も保証されると、 考えられないものだろうか?


Akiko Huerlimann ヒューリマン 明子 : 1979 年から在中央スイス。23 年に及ぶ金融機関の勤務で、日瑞の金融市場の変 遷を見る機会を得る。社会は経済と政治を軸に動いている事を実感し、夫と共 にスイス発の週刊時事ニュースを、スイスの特殊な政治制度に気付いてスイス の国民投票についてのメルマガを二誌発行。小国スイスの知られざる実像と存 続戦略の一端を、市民の視点で紹介。趣味は園芸。 https://www.swissjapanwatcher.ch/

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