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”年金受給者だけに5000円給付”の愚策を徹底批判したうえで、ひとつだけ前向きに肯定できること

コロナ禍で景気が低迷し、ウクライナ情勢で物価がはね上がるなかで、年金受給者だけが特別に5000円の給付金を国からもらえるの!?

日本中を駆け巡ったニュースに目を疑った人は多いだろう。自民、公明両党が3月15日に岸田文雄首相と会談し、年金生活者にコロナ対策の給付金を支給するように要請した。

年金受給者だけ? すべての人に一律給付じゃないの?

現役世代が怒り心頭なのはもっともである。

コロナ禍や物価高で苦しんでいるのは年金受給者だけではない。この20〜30年の経済失政で賃金が一向に上がらず、若年層ほど生活苦に直面しているのは紛れもない事実だ。

貯蓄がなく暮らし向きが厳しい高齢者を支援するのならわかる。なぜ「年金受給者」だけをひとまとめにして優遇するのか? なぜ現役世代や若年層に冷淡なのか?

答えは簡単だ。この給付金が露骨な今夏の参院選対策だからである。

高齢世代は投票率が高く、若年世代は投票率が低い。高齢世代の支持さえ固めれば、自公政権は参院選で大きく敗れることはない。限りある予算をどんどん高齢世代に優先的にばら撒こうーーただそれだけのことだ。

税金を使ったなりふり構わぬ「選挙買収」。安倍晋三元首相が地元支持者を招待した桜を見る会と同じ構図。もっと大掛かりに合法的に大盤振る舞いしてしまおうということである。

自公の「節操のなさ」に最大限の非難の言葉を送ったうえで、若年層を含む現役世代(私も含む)は肝に銘じよう。選挙に投票に行かなければ、自公政権に舐められ、私たちが取り立てられた税金は自公の「お友達」や「支持者」にばらまかれる。この現実にもっと怒ろう!そして選挙に行こう!

そして心ある年金生活者の皆様へ。自公政権の経済政策は常に「一部」を優遇し、社会を分断し(今回は世代間対立を煽って)、優遇した人々から選挙で見返りを確実に得て、低投票率で逃げ切るというものです。今回の政策は、物価高と給与伸び悩みで苦しむ現役世代の政治に対する「期待」を根こそぎ奪いかねないものでしょう。ぜひ給付金を受給する立場からも「こんな選挙対策に騙されない!」と異議を唱えてください。日本社会全体の健全化のためにもよろしくお願いいたします。

以上のようにこの政策は相当な愚策である。あまりに露骨な参院選対策であることも現役世代を舐めていることも十分承知の上で、私はこの政策を肯定的にとらえる点がひとつだけある。

それは「年金受給者」に限定されているものの、おそらく政府から年金受給者ひとりひとりに直接5000円が支給されるという点だ。

自民党政権はこのような「個人への直接支援」が大嫌いである。なぜなら選挙対策として効率が悪いからだ。

税金は業界に配るもの。そして業界から政治献金をもらい、選挙で応援してもらう(官僚は業界に天下る)。その政官業の癒着こそ自民党政権の本質であり、だからこそ限られた予算を「個人への直接支援」に回す余裕はなく、できるだけ多くを「業界支援」にあててきたのだ。

わかりやすい例が、現下の原油高対策である。ガソリン税を撤廃するなどして消費者を直接支援すればいいのに、そこには税金を投入せず、石油元売り会社に巨額の補助金を支給することでガソリン価格を抑えると説明しているのだ。

だが、ガソリン価格を下げたいのならガソリン税を撤廃すればよい。すくなくともガソリン税の上乗せ分の課税を停止(いわゆる「トリガー条項」)すれば間違いなくガソリン価格は下がる。しかし、石油元売り会社に補助金をいくら出してもガソリン価格が下がる保証はない。

それでも石油元売り会社への支援を優先するところが自民党らしい。いろいろ理由をつけているが、すべての消費者を救済するガソリン税撤廃よりも石油元売り会社を特別救済する補助金のほうが自民党や霞が関への「リターン」が大きいという、ただそれだけのことだ。

この原油高対策に比べれば、年金受給者に直接給付する今回の政策は、露骨な参院選対策とはいえ、政治献金や天下りという「政官業の癒着」とは無関係であるという一点において、まだマシである。

いや、さまざまな利権を生む「業界支援」から「個人への直接支援」へ経済政策の潮流が移りつつあるという点においては前向きに評価してよいかもしれない。

自民党が本音では乗り気ではない「年金受給者」への直接給付に踏み出したのはなぜか。連立相手の公明党が強く要請したという事情もあるかもしれないが、それ以上に、コロナ禍に国民世論の高まりで「現金10万円の一律給付」が実現したことが大きいであろう。

自公政権の政策決定を世論の声で覆して現金10万円の一律給付が実現したのは、大袈裟ではなく「日本政治史に残る大事件」だったと私は思っている。

あの事件をきっかけに、老若男女問わず、私たちは業界(会社)を経由しない「個人への直接支給」の旨みを知ってしまった。それは業界(会社)に中抜きされることなく全額が私たちのもとへ直接届くのである(世帯主にまとめて支給する問題は残ります)。逆にいうと、これまでの政府の経済政策は「国民のため」といいつつ、実は業界(会社)にピンハネされ、それが政治献金や天下りの原資となってきたことか!

そのあと、自公政権はコロナ禍で次々に直接支援に追い込まれた。GOTOトラベルや看護師への支援は相変わらず業界(医療法人)経由にとどまったが、飲食店などへの休業補償は直接支援だった。それでも一律給付は極力避け、なるべく多くの税金を業界支援に回そうとしてきたのである。

政治家や官僚にリターンの少ない「個人への直接支援」や「一律支援」はなるべく避けるのが自民党政治の基本理念なのだ。

その自民党が今回、年金受給者に限定しながらも現金を直接給付するのは、やはり参院選への危機感が強いからだろう。

ほんとうは年金受給者に配る税金を業界にバラマキたい。しかし従来の業界支援だけではコロナ禍や原油高で不満が募った国民世論が爆発するリスクがあると感じているのだ。

投票率が高い高齢世代さえ強く引き止めておけば、国民世論が雪崩を打って自公政権から離れることはないーーそのようなしたたかな参院選戦略なのだろう。

しかしこれは自民党の業界支援優先の政治がコロナ禍で壊れつつあることを示している。自民党支配の根幹が揺らいでいるのだ。自らの政治基盤を壊すことを承知で「業界支援」の財源を減らしてでも「個人への直接支援」を断行するしかないところまで追い込まれてきたといっていい。今回の愚策を一歩前進と私が考えるゆえんである。

個人を尊重する立場からみてダメな政策は以下の順番になる。

石油元売り会社への補助金 → 年金受給者への現金給付 → 国民全員への現金一律給付

現役世代は「年金受給者への現金給付に反対!」を声高に叫んで世代間対立を深めるよりも「年金受給者だけでなく国民全員に現金給付を!」と自公政権に迫り、「個人への直接支援」の流れを後押しするほうが賢明であろう。そうであれば高齢世代も加勢し、国民全体で自公政権を突き上げ、政策を動かすことができるのではないか。

今回の「年金受給者への5000円支援」を「業界支援」から「個人への直接支援」へ政策の軸が移行する大きな転機としたい。


プレジデントオンラインに『プーチンと27回も会談したのに…この重大局面でまったく役に立たない「安倍外交」とは何だったのか』を寄稿しました。ぜひご覧ください。

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