政治を斬る!

山上容疑者の供述をめぐる自民党と捜査当局の暗闘

安倍晋三元首相(享年67)が選挙演説中、山上徹也容疑者(41)に撃たれて死亡した事件。山上容疑者の母親が統一教会に多額の献金をして自己破産し家庭が崩壊したこと、その統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の関連団体に安倍氏が送ったビデオメッセージをみて殺害を決意したことを供述したと奈良県警が発表したことで、マスコミ報道は霊感商法などで社会的問題を重ねてきた統一教会のありようと、さらには岸信介元首相からの自民党と統一教会の密接な関係に迫る報道で溢れかえっている。

統一教会の社会的問題と自民党とのかかわりを徹底的に追及することはとても重要だ。

そのうえで今日確認したいのは、山上容疑者の犯行動機についてはすべて警察発表に基づいてマスコミ報道が展開されているという事実である。

警察は国家権力だ。その発表内容は往々にして国家権力の意図に左右される。容疑者の供述を「独占」している警察は、世論操作をたやすくできる。だから鵜呑みにしてはならない。

しかも今回は隠然たる影響力を残す元首相の暗殺事件である。さまざまな思惑が交錯するなかで、何をどう発表し、何を発表しないのかという決定が決まっているとみたほうがいい。

その意味で事件発生直後に「山上容疑者は安倍氏が統一教会と深いつながりがあると思い込んでいた」という警察発表をマスコミ各社がそのまま垂れ流したことには唖然とした。

まずもって、「安倍氏と統一教会の深いつながり」を信じて犯行を断行した直後に「深いつながりがあると思い込んでいた」などと供述することがあるだろうか。この「思い込んでいた」というのは、警察が創作した「供述」の疑いが極めて高い。マスコミはそれをそのまま垂れ流したのだ。

事実関係としても、安倍氏は教団関連団体にビデオメッセージを送っている。さらには祖父の岸信介の時代から岸・安倍家や自民党と統一教会との関係は周知の事実だ。「深いつながりがある」ことは再三指摘されてきたことである。それを「思い込んでいた」というのは明らかに自民党に忖度した偏向発表であり、偏向報道だ。

なぜ警察は事件直後に「統一教会」(特定の宗教団体という表現であったとしてもすぐにわかること)との関連を発表したのか。

私は安倍氏の警護に失敗した警察が、世の中の関心を統一教会へ振り向けようとしたのではないかとみている。実際、奈良県警本部長ばかりか警察庁長官(安倍氏と親しい元記者のレイプ事件の逮捕状をもみけしたことで知られる中村格氏)の引責辞任を求める声は警察OBからも噴き出しているが、警察の大失態よりも世間の話題を引き寄せるテーマとして統一教会との関連は格好のものだったのかもしれない。

もっとも自民党に遠慮して当初は宗教団体名こそ出さなかったのだが、さりとてすぐに世間の知るところになることは予測していたはずだ。自民党への忠誠心よりも、警察の組織防衛を優先したということではないか。

だが、統一教会と自民党との濃密なつながりに世論の関心が高まると、さすがに自民党は黙っていなかった。以下は自民党の片山さつき参院議員のツイートである。警察発表の在り方に対する露骨な介入であろう。

スタンドプレーが甚だしいことで知られる片山氏のことだから、わざわざ自分でこのような「介入」をひけらかしているのだが、実際には政府・与党の実力者がさらに巧妙なかたちで(たとえば人事をちらつかせながら)警察に圧力をかけていることは想像に難くない。

自民党と警察の間で激しいつば迫り合いが続いていると思っていたら、新しいニュースが飛び込んできて、考え込んでしまった。

奈良地検が山上容疑者の刑事責任能力を調べるため、本格的な精神鑑定を実施する方針を固めたというのである(こちら参照)。山上容疑者の行動は計画的だった一方、安倍氏を狙った動機(つまり統一教会との関係)には論理の飛躍があり、精神鑑定が必要と判断したというのだ。

もちろん容疑者に責任能力があるかどうかを調べるのが、刑事事件の基本である。だが、統一教会と自民党との濃密な関係に世間の目が集中し、さらには自民党から警察発表のあり方への「介入」が明らかになるなかで、安倍氏と統一教会との深いつながりという動機そのものを根底から否定しようとする動きだとしたら、容認できるものではない。

安倍氏をめぐっては首相在任時代に森友事件や桜を見る会事件などで警察や検察が捜査に乗り出さないことへの批判が高まったことは記憶に新しい。自らが凶弾に倒れた事件をめぐっても、国家権力中枢と捜査当局の歪んだ関係がクローズアップされるとしたら、実に皮肉なことである。

捜査当局には自民党の介入に屈しない毅然とした対応を強く望みたい。そして捜査当局の発表を垂れ流すことではなく、捜査の公正さを監視することこそ、ジャーナリズムの責務であることも確認しておきたい。

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