政治を斬る!

萩生田光一、西村康稔、世耕弘成、福田達夫、橋本聖子、稲田朋美、丸川珠代…最大派閥・安倍派の今後と5人衆をはじめ主要メンバーの行く末

自民党に20年以上にわたって君臨してきた清和会(安倍派)が裏金事件で解散に追い込まれた。

清和会を非主流派から最大派閥に押し立て、政界引退後も絶大な影響力を誇ってきた大親分の森喜朗元首相は雲隠れ。

安倍晋三元首相が急逝した後の集団指導体制を主導してきた5人衆(萩生田光一前政調会長、西村康稔前経産相、松野博一前官房長官、高木毅前国対委員長、世耕弘成前参院幹事長)は立件を免れたものの、役職を解かれて失脚し、派閥という政治基盤も失った。

これから安倍派はどうなるのか。まずは五人衆の行く末から占ってみよう。

🔸萩生田光一

森氏が最も寵愛し、後継会長に推していたのが萩生田氏だ。清和会解散で森氏の影響力は大幅に低下し、萩生田氏は「派閥」と「後見人」を失うことになった。

さらに裏金事件では「萩生田氏の舎弟」として知られる池田佳隆衆院議員が国会議員では唯一逮捕され、萩生田氏のイメージは大きく低下。萩生田氏自身も裏金を受け取っていたことが発覚し、これまでも追及されてきた旧統一教会との関与とあわせて政治的に窮地に追い込まれたといっていい。

まずは次の衆院選(東京24区・八王子市の大部分)で勝ち残れるかが最大の焦点だ。

そこで注目されたのが、大逆風のなかで1月21日に投開票された八王子市長選である。衆院東京24区とほぼ選挙区が重なる八王子市長選は、萩生田氏の次の総選挙を占う前哨戦となった。

八王子市長選は、自公推薦の元都局長vs立共が推す元都議vs無所属の元都議の三つ巴の戦いだった。元都議の二人は小池百合子知事が率いる都民ファースト出身だが、小池知事は土壇場で自公推薦の元都局長を支持。さらに維新も土壇場で自公推薦の元都局長の支持に回った。

萩生田氏は自民党都連会長として小池知事に接近しており、萩生田ー小池のラインが動いたのだろう。萩生田氏は維新と親密な菅氏とも連携しており、菅氏を通じて維新を引き込んだ可能性もある。三つ巴の対決構図になったことで「萩生田vs反萩生田」の一騎打ちを回避し、反萩生田票を分散することにも成功した。

この結果、激戦を制したのは自公候補だった。裏金事件で自民党の支持率が一部世論調査で15%を下回る状況で敗れた野党(立憲・共産)の選挙体制の弱さが露呈する結果となったのである。

萩生田氏としては土俵際で踏みとどまったといっていい。

森氏の影響力低下と清和会の解散を受けて、今後は菅氏や小池氏との連携を強化して復権を目指すことになる。ソリのあわなかった麻生太郎副総裁が岸田文雄首相と派閥解散問題で対立したことも追い風だ。

🔸西村康稔

萩生田氏の最大のライバルは、西村氏だった。

裏金事件では、安倍氏が首相を退任して派閥会長に復帰した後、政治資金パーティー券の売り上げノルマを超えた分の還流をやめようと提案した時の事務総長として、捜査線上に浮かんだ。安倍氏が銃撃事件で急逝した後、西村氏ら派閥幹部の協議で環流の継続が決定されたため、「派閥会長と会計責任者の派閥職員にすべてを任せていた」との言い逃れが難しくなり、西村氏は捜査の矢面に立つことになったのである。

西村氏は還流継続の決定にはかかわったものの、収支報告書の未記載には関知していないと主張し、捜査をかわし続けた。還流継続の決定が集団指導体制で行われて責任の所在があいまいだったこと、その途中で行われた内閣改造人事で経産相に起用され事務総長から外れたことも幸いしたといえる。

検察は結局、不記載の刑事責任について会計責任者との共謀は成立しないと判断し、西村氏は立件を免れた。

とはいえ、他界した派閥会長二人(細田博之前衆院議長と安倍氏)と派閥職員に全責任を転嫁する姿勢は世論の批判の的となった。政治的ダメージは計り知れない。

地元の兵庫県明石市を「日本一の子ども支援の街」に育て上げ、メディアに引っ張りだこの泉房穂・前明石市長は長年の政敵である。次の総選挙で泉房穂氏に衆院兵庫9区(明石市と淡路島)から出馬を求める声は強い。立憲民主党の支持率が低迷するなかで泉房穂氏に「野党の顔」を期待する世論も広がっている。「検察が見逃した西村氏は、有権者が選挙で落とすしかない」という世論が高まり、泉房穂氏が西村氏の対抗馬として兵庫9区から出馬すれば、全国有数の注目区となるのは必至で、「西村落選運動」が急速に広がる可能性がある。

西村氏の行く末は多難だ。

🔸松野博一

松野氏は岸田内閣の官房長官として裏金事件の矢面に立ち、「答弁は差し控える」を連発して批判を浴びた。事務総長を務め、裏金を受け取った額も1000万円を超え、捜査線上に浮かんだものの、立件を免れたのは、やはり国家権力の機密を握る官房長官を務めたことが大きであろう。

松野氏は事件について口を閉ざしたまま首相官邸を去る際、村井英樹官房副長官(岸田派、木原誠二氏の後任)に「これからは君たちの時代だ」と伝え、サバサバした表情で去っていったという。村井氏は財務省出身のエリートだが、この時の松野氏の様子に感動し「官房長官として清和会を優遇せず、公正に裁いていた」と周囲に振り返っている。

もともと生活用品メーカー「ライオン」のサラリーマンから自民党の公募に応じて政界入りした自民党内では変わり種。清和会の元番記者も「松野氏は昔から清和会というよりは宏池会の雰囲気があった」と話す。宏池会の岸田官邸は居心地がよかったのかもしれない。

裏金事件で批判の的となったことは松野氏の政治家としての器を超える事態だった。立件を免れ、政治基盤も失い、ここから失地回復して政界の表舞台に返り咲く執着はさほどないのではないかと私はみている。

🔸高木毅

現職の事務総長として捜査線上に浮かんだのが高木氏だった。西村氏から政治資金の還流問題を受け継いだものの、詳細は把握していないとして逃げ切った格好だ。

安倍派解散が決まった1月19日の総会後は、塩谷立氏とともに記者会見し、言葉を詰まらせて「安倍さんに申し訳ない」と語った。これが「謝るべきは国民に対してだろう」と批判を浴びた。

かつて復興大臣時代に、過去のパンツ泥棒の疑惑を週刊誌に報じられ、「パンツ高木」という不名誉なあだ名がついた。5人衆のなかでは最も影が薄く、国対委員長としても前任の森山裕氏と比べて力量不足との指摘が相次いだ。それでも5人衆の一角に踏みとどまってきたのは「人柄が一番いいから」(清和会の元番記者)と言われている。

だが、今後の復権となると松野氏と同様、相当厳しいだろう。

🔸世耕弘成

裏金事件で全責任を秘書に転嫁してひんしゅくを買ったのが、世耕氏である。

かつて民主党政権の時に小沢一郎氏の政治資金問題を受け、自らは秘書任せにせず政治資金の出入りに逐一目を通しているとSNSに投稿したことが蒸し返され、批判が殺到した。

世耕氏の政治基盤は参院だ。参院自民でも最大勢力となった安倍派議員をまとめ、参院幹事長として党内でも派閥内でも影響力を高めた。近畿大学理事長を受け継ぐ政治名門一家で、森氏も「カネもある」と評価。とはいえ地元・和歌山の政敵である二階俊博元幹事長に衆院への鞍替えを阻まれ続け、派閥会長レースでは萩生田氏や西村氏におくれをとっていた。

5人衆のなかでは麻生氏に最も近かった。萩生田氏が菅氏に接近したのに対抗し、麻生氏に近づいたのだ。

裏金事件の捜査が始まった後は、参院安倍派の議員たちに弁護士を紹介するなど、参院での基盤維持に躍起だったが、派閥運営に大きく関与してきた責任は大きい。さらに会計責任者の派閥職員は世耕氏がNTT勤務時代の先輩であり、世耕氏が安倍派に引っ張ってきたという経緯もあり、政治的ダメージは大きい。

派閥解散に反発する麻生氏が窮地に立てば、復権への道のりはさらに厳しくなる可能性もある。ますは参院での政治基盤を作り直すことから始めるのだろう。


安倍派のその他のメンバーは四分五裂していく可能性が高い。主なプレーヤーをみていこう。

🔸福田達夫

清和会創始者の福田赳夫元首相の孫である福田達夫氏は当選4回の中堅ながら今後の「清和会再建」の中心になる可能性がある。自民党には血統主義の伝統が根強いのだ。

ところが、その福田氏は安倍派解散が決定した直後、いきなり「新しい集団をつくっていく」と発言して批判が殺到した。派閥解散で信頼回復へ出直す矢先に、早くも派閥再建の意思を公言したのは、不用意としかいいようがない。

福田氏は岸田政権当初、前回総裁選で安倍派などの中堅若手をまとめて岸田支持に回ったことが評価され、総務会長に抜擢された。5人衆は自分たちを飛び越える恐れがある次世代の台頭を恐れたに違いない。

だが、福田氏は旧統一教会問題で「何が問題かわからない」と発言して批判を浴び失速。22年夏の人事では総務会長を外れ、裏方に回った。今回も「失言」で再び痛打を浴びた格好だ。

清和会には歴史的に福田系と安倍系がある。右寄りの安倍系が福田氏を担ぐのは抵抗があろう。無派閥ながら前回総裁選で安倍氏に担がれた高市早苗経済安保担当相が今年の総裁選に出馬すれば、安倍系は高市支持を打ち出して結集し、高市派結成に発展する可能性もある。

高市氏が総裁選出馬に必要な推薦人20人を確保するために立ち上げた勉強会にはすでに安倍派から杉田水脈氏ら3人が参加している。その流れがどこまで広がるかはひとつの焦点だ。

🔸岸信千代と吉田真次

次に注目されるのは、安倍氏の後継者として妻昭恵氏から全面支援を受けて補欠選挙で当選したばかりの吉田真次氏と、安倍氏と弟である岸信夫元防衛相を受け継いで補欠選挙に当選したばかりの岸信千代氏だ。

ともに国政デビューしたばかりの一年生議員だが、彼らが「安倍系の旗印」としてどこに身を置くかは他の議員に影響を与える可能性がある。

安倍氏の政治信条に従うのなら高市支持へ回るのが筋が通るが、清和会の伝統を重視するのなら、無派閥の高市氏のもとへ駆け寄るのは抵抗がある。政治信条は棚上げし、福田氏と行動をともにする可能性もあろう。

🔸下村博文と稲田朋美

下村博文氏は安倍氏が急逝した後、森氏に嫌われ、5人衆にも遠ざけられ、失脚した。裏金事件は事務総長など派閥幹部を歴任してきた下村氏が検察に垂れ込んだともささやかれている。

5人衆は失脚したものの、下村氏を中心に再結集をめざす動きはなく、なかなか展望は開けないのが現状だ。

稲田朋美氏は下村氏と連携して総裁選出馬を目指した時期もあった。もともと安倍氏に寵愛されて政調会長や防衛相を歴任して頭角を表したが、ジェンダー問題に力を入れ始めたことが安倍氏の逆鱗に触れ、遠ざけられた。安倍氏はその後、無派閥の高市氏を重用するようになった経緯がある。

稲田氏は安倍氏が急逝した後、安倍派内で反発が強かった防衛増税への支持を表明し、岸田首相に接近。安倍派解消を契機に安倍派の面々とは一線を画し、他の派閥やグループとの連携に活路を求める可能性もありそうだ。

🔸橋本聖子と丸川珠代

裏金額が2000万円超で注目され大打撃を受けたのは、橋本聖子参院議員である。東京五輪組織委員会の会長を森氏から受け継いだ結果、東京五輪汚職事件でイメージが悪化。後ろ盾の森氏は失脚し、今後の政界での足場は大きく揺らいでいる。

テレビキャスター出身で知名度の高い丸川珠代参院議員は「700万円を中抜きした」と報じられた。次の総選挙で衆院東京7区から出馬することが決まっている。本人は将来の首相候補を目指して参院から鞍替えするつもりだろうが、イメージは大きく傷ついた。

昨年は民主党政権時代に強行採決に反対する「この愚か者めが」の発言で久々に注目され、存在感の高さを示したが、まずはイメージを回復させて東京7区で勝ち上がれるかが焦点だ。

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